好感度三千倍!? 対魔騎士との共同作業!!
翌朝、ドスケベ催眠おじさんは小鳥のさえずりを目覚まし代わりに起床した。
まず天井が見知ったリナの家のものであることを確認し、次に隣に誰もいないことを確かめ、床に転がっているリナを見て一瞬ビクッとしながらも、異常はないと知り胸を撫で下ろす。
「ふぁ……ぁ、すみません、ドスケベ催眠おじさん様。お寝坊をしてしまいました」
「あぁリナさん、どうぞゆっくり寝ててください。昨日は疲れたましたからねぇ……」
求婚回避チャレンジもさることながら、ナメクジパーティーでヌルヌルにしてしまった会場の掃除にも手間がかかった。手で粘液をすくったそばからアイテムボックスに収納していく方法を思いついて以降は早かったが、レストランにも衛生的損害を与えてしまった心労で寿命がマッハで消耗する思いだった。
「でも、あれであの店にも箔がつきましたよ。勇者と女王と地下水路の守護者が一堂に介した歴史的スポットですから」
リナは跳ねた髪を撫で付けながら、寝ぼけ眼で誇らしげに言う。
あの会食は少人数かつ非公開だった。しかし、レストランの給仕や料理人、騒ぎを嗅ぎつけた近隣住民などの耳と目と口を完全にふさぐことはできない。ドスケベ催眠おじさんが復活して女王と友誼を結んだことは、遠からず王都民の広く知るところとなるだろう。
「きっと迷惑を超える利益が出ますよ」
「そうだといいなぁ……そうであってくれないと困る……」
事実がある以上、噂が流れるのは仕方のないこと。あとはせめて、良いイメージが浸透するよう努めるほかない。
心配ついでに、気になることがもうひとつ。
「あっ、そうだ。ケヴィンさんは大丈夫だったんですか?」
「オーギルさんにお叱りもらって酔いが覚めたあとは、普通に歩いて帰りましたよ」
ドスケベ催眠おじさんの存在をひた隠しにした上、会食の場で醜態をさらしたケヴィンはお咎めなしとはいかなかったらしい。女王の取りなしのおかげで職を追われるようなことにはならなかったので、今日からは真面目に対魔騎士団の職務に復帰する予定だ。
「じゃあ、わりと悪い結果にはならなかった……ってことでいいんですかね?」
「むしろ期待どおりの成果が得られたかと。お仕事ももぎ取れましたし」
紛らわしいが、リナのいう「お仕事」とは例の王城住み込みヒモ生活のことではない。
あのあと、ドスケベ催眠おじさんが取り乱すところを見た女王は、寂しげで儚げな苦笑を演じてみせ、代わりにこういうのは如何ですか、と別の提案をしてくれた。
「対魔騎士団との合同遠征、でしたっけ。僕に務まるかなぁ……」
「彼らの戦法は元よりドスケベ催眠おじさん様から学んだもの。あなたさま以上の適任はいないでしょう」
女王にはいくつかの腹案があった。国内外の様々な貴族や豪商との面会を設定したり、流転教会との親密な関係を取り持ったりして、勇者と女王双方の権力的地盤を固めようという作戦だ。
だがドスケベ催眠おじさんが交渉ごとに苦手意識を持っているのと、折悪しく流転教会の上層部が他国の大規模な宗教儀式に出向していることから、それらの案は保留した。
結果、まずは身近なところから、ケヴィンやオーギルのコネを辿って、対魔騎士団と交流をもつこととなった。
対魔騎士団は軍にも近しい国防の要。英雄との縁を深めることは、何よりも平和の基礎固めに役立つであろう。
「遠征では魔物狩りなども行いますから、経験値稼ぎにもうってつけです」
「ですね。レベルだけじゃなく、精神面とか技術面も、少しは慣れていかないと……」
ドスケベ催眠おじさんはこれまでの戦いを思い返し、そのどれもが情けない立ち回りだったと反省する。地下水路の戦闘ではせっかく検証していたアイテムボックスの力を大して活かせていなかったし、無駄に自陣の戦力を削ぐようなミスもあった。
武器だって杖や石板や銃だけでなく、時と場合に応じてさまざまな戦況に活路を拓ける一級品が揃っているのだ。ドスケベ催眠おじさんひとりで全てを使いこなせずとも、例えば仲間に装備品を配布するなどして、チームとしての総合力を高める戦略も模索したい。
「当日までに練習しとかなきゃ。悪いけどリナさん、付き合ってくれますか?」
「はい! なんなりとお使いください!」
瞳を七色にきらめかせて張り切るリナと、追加で二十の分体を派遣してくれたクソツヨナメクジとともに、ドスケベ催眠おじさんはチーム戦の予行演習の日々を送るのだった。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
――汗と粘液と催眠が飛び交う秘密のドキドキ特訓シーンは泣く泣くカットして遠征当日!!
ドスケベ催眠おじさんは戦闘に備えた正装で、対魔騎士団との待ち合わせ場所へと集合する。
サンサンと照りつける太陽の下、壮年の対魔騎士が爽やかに声を張る。
「お初にお目にかかります! 此度の遠征の指揮官を務めます、ピーター・ムーナイトであります! よろしくお願いいたします、ドスケベサイミンオジサン様!」
見るからに実直そうな指揮官が、部下にギリギリとヘッドロックをかましながら両脚揃えてビシッと敬礼するのを受けて、ドスケベ催眠おじさんも背筋を正す。
「こ、こちらこそよろしくお願いします、あの、それで腕のソレは……」
ドスケベ催眠おじさんが疑問を口にしたのに便乗して、絶賛ヘッドロック執行中のケヴィンは抗議の声をあげた。
「おい指揮官……! 挨拶終わっただろ……! さっさと離してくれ、鎧が食い込んで……クソ痛ぇ……!」
「この跳ねっ返りのお婆ちゃん子めは荷物持ちとしてお使いください! では!」
ピーターはケヴィンをぞんざいに解放し、一行に引き渡してから、整列する他の対魔騎士たちのもとへスタスタと歩いていく。
「親愛なる同志たちよ! 記念すべき一日がやってきた! 我らが剣の祖、ドスケベサイミンオジサン様が天より再び降臨なされた!」
対魔騎士たち、それから最後尾に佇むリビングアーマーのガーファンクルは、ピーターの演説を直立不動で静聴する。
「英雄をお待たせしてはイカンので手短に告げる! おのが鍛錬の成果を見せよ! 勇者の背中を見て学べ! 聞き逃した馬鹿者はおらんな? それでは諸君、行軍開始!!」
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
唐突だが、ドスケベ催眠おじさんのスペックについてお話ししよう。
クソツヨナメクジから流入する経験値のおかげで、現在はレベル19となり、装備や転生ボーナスも込みでそれなり以上の能力値を得ている。
地下水路の一件やリナたちとのトレーニングを経て、人並みに持久力もついてきた。もはや騎士団倉庫と住宅街を行ったり来たりしただけでヘトヘトになっていた頃のドスケベ催眠おじさんではない。
遠征というからにはそこそこ長い距離を歩き通すわけだが、適切に休憩を挟めば無理なくついていける。本職の対魔騎士ほど鉄人ではなくとも、さりとて足手まといにもならない。そう、ドスケベ催眠おじさんは成長したのだ!
だというのに。
「大丈夫ですか? ドスケベサイミンオジサン様。そろそろ休憩なさいますか」
「ドスケベサイミンオジサン様、水分補給は大事ですよ。ささ、家内お手製の果汁入りドリンクをどうぞ」
「なんなら肩をお貸ししましょうか、ドスケベサイミンオジサン様」
「おい、抜け駆けするな。ドスケベサイミンオジサン様、ウチの班の人間騎馬も乗り心地がよろしゅうございますぞ?」
……などなどなど、周りにいる対魔騎士たちが過保護気味に世話を焼いてくる。
現在位置は王都を出て十分弱、見通しがよく起伏も緩やかな平野。何ひとつ不自由などないにもかかわらず、ドスケベ催眠おじさんは蝶よ花よとばかりにチヤホヤされていた。
「だ、大丈夫ですっ! これくらい平気ですから。…………ぶひゅぅ、ぜぇぇ……ぶるる」
これはドスケベ催眠おじさんにも原因がある。本人的にはまだ余裕があっても、首周りのでっぷりした贅肉のせいで、常時もう限界みたいな吐息が出てしまう。おまけに脂ぎった顔面は実際以上に汗をかいているように演出する。
憧れの英雄がしんどそうにしている姿――それは対魔騎士たちの博愛精神を絶妙に刺激するのだ!
「ほら、ドスケベ催眠おじさん様。今すぐこの胸に飛び込んできても構わないのですよ」
ある中年女性対魔騎士などは、そのふくよかな体型をフル活用して、ソフトにドスケベ催眠おじさんを陥落させようとしてくるほど。
前世で両親を看取ってから、久しく家族というものに触れてこなかったドスケベ催眠おじさんは、中年女性の背後に後光が差すような幻覚を見た。
「ま……ママ……?」
「落ち着け! そいつはただ太くてお袋っぽい雰囲気があるだけの独身おばさん騎士だ!!」
ママ騎士、もとい独身おばさん騎士にヨロヨロと寄っていきそうになるハゲデブおやじを、ケヴィンは必死で引き留める。英雄のイメージを守るため、最低ラインの尊厳は死守しておく必要がある。
ドスケベ催眠おじさんは絶望によってではなく、目の前にぶら下がった甘い希望によって屈服しそうになっていた。
「甘えるならせめて召喚獣にしろ! ガーファンクル教官とか力持ちだし胸板デカいぞ!」
ケヴィンに手招きされたガーファンクルが金属質な足音を立ててやってくると、
「さすがにリビングアーマーおっぱいには勝てませんわね」
と言っておばさん対魔騎士はあっさり引き下がった。
たとえ鎧でも悪霊でも性別不明であろうとも、中に"魂"が詰まっているというだけで、おっぱいはおっぱいと呼べる――ムートポス人においても、不変にして普遍なる認識に差はないようである。
「そうだ……ガーファンクル……僕にはガーファンクルが居たんだ……」
「ああそうだよ! 少なくとも赤ちゃんプレイよりはマシだ!」
ドスケベ催眠おじさんは、ガーファンクルの厚すぎる鋼鉄の胸部装甲に手を伸ばした。
――ジュウウゥ
「熱゛ッッッッッッッッッッッッッッ」
肉が焦げる音……は流石にイメージが産んだ錯覚だろうが、ともかくドスケベ催眠おじさんは耐えがたい熱さに脊髄反射で手を引っ込めた。
本日は晴天。地下水路ならいざ知らず、ポカポカ陽気の下でお散歩すれば、極悪ブラックの歩く鎧などあっという間にアツアツの鉄板と化す。
「そ、そんな……やっぱり僕にはママなんて……」
「諦めないでください、ドスケベ催眠おじさん様! まだリナがおりますよ!」
「そっちは別の意味で絵面がヤベーんだよ! 頼むからこれ以上話をややこしくしないでくれ!!」
対魔騎士のみならず身内からも厄介女が現れ、ケヴィンもパンクしかけていた。ドスケベ催眠おじさん一行には、早急にツッコミ役の増員が待たれるところだ。
「やれやれ、しょうがないにゃあ」
そのとき口を開いたのは、実はずっと歩いて同行していた妖怪猫のミリオン。
対魔騎士にウザ絡みしたりしないことを条件に送還を免れていた彼女であるが、主人の情けない体たらくを見かねて、ついに沈黙のベールを破る。
「……このタイミングでお前が喋るなんて嫌な予感しかしないんだが」
「そんにゃ警戒すんにゃヤサグレボーイ。ちゃーんとご主人が他のオンナに誘惑されず自分の足で歩き続けられる、クールでセクシーな解決策を考えてあるにゃ」
ミリオンはドスケベ催眠おじさんの足元へトコトコ歩いていき、俯いたギトギトフェイスを増したから見上げる位置についた。
「あんま成功率高くないから変に抵抗しにゃあでおくれよ」
付与率? レジスト? 疑問を挟む猶予もなく、ミリオンは瞳を妖しく光らせる。
「ちゃーむちゃーむ、《魅惑の目配せ》、なんてにゃ」
気の抜けたメロディに乗せられ発動したのは、対象に視線を合わせるだけで発動する魔眼系スキル。
「…………ッ!」
魔力のこもった視線に射抜かれたドスケベ催眠おじさんは、ビクンと一瞬だけ硬直したのち、トロンと瞳をとろけさせる。
するといつもの頼りなさはどこへやら、ドスケベ催眠おじさんは黙々と歩き始めた。足取りこそしっかりしているが、その後ろ姿は若干猫背で、なんだか覇気のない印象を受ける。
「おいメスネコ、ドスケベ催眠おじさんに何しやがった」
ケヴィンに問われたミリオンは、芝居がかった口調で微妙にかっこつけて言った。
「何って……『魅了』をかけただけだが?」
「やりやがったなてめぇ!! 犯罪者!! 犯罪猫!! 泥棒猫!!」
「いかがわしい目的じゃないからセーフセーフ。望みどおり自分の足で歩いてるにゃ?」
「自分の足だが自分の意思じゃねー!!」
ケヴィンが伸ばした手を、ミリオンはするりとかわす。
「ぐにゃーっはっはっは、ドスケベ催眠おじさんを返して欲しかったらウチを捕まえてごらーん!」
幸か不幸か、ケヴィンがミリオンを捕まえて魅了を解かせる前に、一行は目的地に到着した。
あっ♡ 無理♡ らめぇ♡ 連続更新こわれる♡ こわれちゃうのぉ♡
というワケで書き溜めが尽きたので次回以降は毎日投稿じゃなくなります。ごめんなさい。お兄さん許して。
1章のプロットは出来上がってるから気長に待ってて。
睡曜日とか眠曜日には更新したい




