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やりすぎ!? 激しい夜の昇天バトル!!

今回はR15描写があります。未成年の方の閲覧には注意してください。

 

あ、えっちなのは無いです

――変化型ダンジョン「明暮(あけくれ)の祭壇」。


 王都から徒歩数時間の距離にあるその場所は、何を隠そう、かつて邪神ヒュプノスが奈落より這い上がって最初に爪を立てた災いの地である。

 明暮の祭壇はその名の通り「(あけ)」と「(くれ)」の二つの顔をもつ。昼間は無害な精霊が漂っているだけのセーフエリア。しかし日が沈んだ途端に邪悪な魔力が湧いてきて、凶暴な怪物が跋扈(ばっこ)する危険地帯に姿を変える。

 ここに現れるのはいずれも、ヒュプノス直属の配下とも噂される上位の魔物たち。訓練を積んだ対魔騎士でさえ一歩間違えば命取りとなる厳しい環境だが、だからこそ絶好の訓練場となりうる。


「今回は魔物を間引くのも兼ねて、集団戦闘の実地練習だな」


 祭壇の手前に簡易キャンプを設営して夜に備えつつ、ケヴィンは今後の段取りを説明してくれた。


「あー……はい……」


 対してドスケベ催眠おじさんは、どこか上の空といった様子で返事をする。


「反応わりぃな。まだ『魅了』残ってんのか?」

「すみません、そういうわけでは。ただ、昔と何も変わらないな、って……」


 ヒュプノスいじめに熱意を燃やしていた頃のドスケベ催眠おじさんは、当然、ヒュプノスゆかりの地である明暮の祭壇にも何度も足を運んでいる。

 ヒュプノスに近い見た目のヒト型モンスターを催眠しては、「イェーイ! 邪神くん見てるぅ? 今からキミの可愛い部下と楽しいコトしま〜す!」などと画面の前で独り言を叫んで悦に浸っていたものだ。

 なお楽しいコトとは催眠状態の魔物を何体も引き連れてダンジョン内を練り歩くだけの無駄かつ無害な遊びであり、決してやましいことではない。


「ほほう……邪神のお膝元ですらも、ドスケベサイミンオジサン様にかかれば庭のようなもの、というわけですな」

「なんと頼もしい……」


 周囲の騎士たちは歴戦の勇士(ということになっている)ドスケベ催眠おじさんを尊敬のまなざしで見つめ、簡単の息を漏らす。


「や、そんな立派なものじゃ……」


 ドスケベ催眠おじさんの戦法は「効率を無視した催眠ゴリ押し」「無理なら召喚獣」の二択である。胸を張って語れるものではない。

 恐縮して縮こまる(縮こまっても太くてデカい)ドスケベ催眠おじさんに、ケヴィンはこっそり耳打ちする。


「ここは嘘でも自信満々にしとけ。最悪、召喚獣に頼っても『巧みに指揮をとった』ことになるんだからよ」


 出発前の演説にあったように、対魔騎士たちは「背を見て学ぶ」心づもりで来ている。イメージアップを図るなら、ドスケベ催眠おじさんは手本となるに相応しい、堂々たる態度で臨まねばならない。

 ドスケベ催眠おじさんは辺りを見回す――後方に立ちすべてを見守ってくれているガーファンクル、その鎧に張り付いて待機しているクソツヨナメクジ、足元で得意げに鎮座しているミリオン、肩をすくめおどけてみせるケヴィン、そして、ずっとすぐそばにいてくれるリナ。

 仲間から勇気をもらい、ドスケベ催眠おじさんは脂汗をかきつつも、しっかりと答えた。


「……わかりました。現時点の僕がどこまでできるか、どうか見守っていてください」


――英雄の宣言に騎士たちが色めき立つなか、徐々に日は落ち。


 昼間は蝶々が飛ぶ平和な遺跡という風情だったダンジョンは、みるみるうちに暗く不吉な霧が満ちていき、魔物はびこる邪悪な様相を表し始める。


 いざ、出撃のとき。




◎ ◎ ◎ ◎ ◎




「まずは我らが鍛錬の成果をお見せします! とくとご覧あれ!」


 先頭をゆくのは対魔騎士による第一部隊。敵をいち早く発見する偵察担当であり、取るに足らぬ雑魚ならば、そのまま排除することもある。

 視力自慢の彼らは、ダンジョン突入数秒後さっそく魔物を察知したらしい。


「テンタクル・ゾンビだ!」


 胴体の裂け目からヒトならざる奇怪な触手をあふれさせた不死者(アンデッド)たちが、侵入者を仲間へ引き込まんと、首をガクガク揺らしながら駆けてくる。

 その数、五体。


「二名様ご招待!」


 うち三体は第一部隊だけで処理できると判断し、残りを後続に任せることにする。わざと隊列に隙間をつくり、すれ違いざまに「二名様」の背中を横足で蹴飛ばす。

 体勢の崩れた二体のテンタクル・ゾンビが、第一と第二部隊の中間地点へ転げ出てくる。


「《スヌーズバレット》!」

「《スリープスモッグ》!」


 間髪入れず第二部隊が叫ぶ。放つのはドスケベ催眠おじさんも愛用する初級の催眠魔法。成功率が低くとも、複数人で一斉射撃することにより試行回数を稼げる。

 第二以降の部隊は先頭から距離を取る手筈となっているため、誤射のおそれもなく魔法は敵に命中した。

 眠りに落ちた触手が力無く垂れると、第二部隊の両脇から、すぐさま第三部隊が回り込んでくる。


「いくぞ野郎ども――」

「――乙女もおりますわよ!」

「いくぞ野郎とオバサンども!!」


 第三部隊は遠征メンバーのなかでも特に体格の優れたものが揃っており、先ごろドスケベ催眠おじさんを誘惑した中年おばさん騎士も、長大な戦槌(ウォーハンマー)を担いで躍り出る。


「せーのッ――」

「――《フルメタルプレス》!!」


 数人ぶんの声が重なり、ガーファンクル直伝の押し潰すような重い一撃が、ゾンビの頭部や四肢に振り下ろされる。腐った身体はひしゃげ、暗紫色の濁った液体が飛び散る。

 常人が受ければひとたまりもない苛烈な攻撃であったが、敵は曲がりなりにも裏ボスゆかりのダンジョンモンスター。いくぶん弱ったものの、衝撃で眠りから覚めた触手は、またも獲物を求めてうねり始める。


「射線あけろ!」


 叫んだのは第二よりさらに後方に控えていた第四部隊。号令にあわせて第三部隊が散らばると、拘束を逃れた魔物が起き上がるより前に、準備しておいた魔力を一斉に解き放つ。


「《ファイアスフィア》!」

「《アクアスフィア》!」

「《エアスフィア》!」

「《ガイアスフィア》!」


 灼熱の火球、たゆたう水球、渦巻く風、固く重い土塊――色とりどりの攻撃魔法が乱れ飛び、動けない敵を蹂躙する。

 今更ここに解説が必要となるのも変なことだが、上記はそれぞれ火、水、風、土の四大元素属性をもつ、メジャーな攻撃魔法である。

 ドスケベ催眠おじさんの偏りすぎたスキル構築のせいで今の今まで登場機会がなかっただけで、ムートポスにはちゃんとファンタジーお約束の属性魔法が存在するし、世間一般にはむしろそっちが主流なのだ!

 ちなみに、このへんの攻撃魔法を一個ぐらい覚えておかないと敵のHPを削る手段が制限されてものすごく非効率なプレイをすることになるぞ!(ドスケベ催眠おじさん談)


「全弾命中!」

「油断するな! 残心をとれ!」


 残心――それは技を決めたあとも「心」を「残」し、相手の反撃や不測の事態に備えること。

 安全な勝利を第一に考えた殊勝な心掛けであるが……忘れてはいけない。彼らの戦術は常人にあわせたアレンジこそ加えられているが、もともとドスケベ催眠おじさんから学んだものであることを。


「オラッ! おとなしく天に帰れ!」

「魂に安息を! くらえ安息キック!」


 燃やされ濡らされ吹き飛ばされ石礫をぶつけられピクリとも動かなくなった魔物になおも執拗に殴る蹴るの暴行を加える対魔騎士たちを見て、ドスケベ催眠おじさんは戦慄した。


「うわぁ……死体蹴りまで伝承されてる……」


 敵のHPをゼロにしてからバトル終了演出が表示されるまでのわずかな時間、無意味に武器を振ったり挑発モーションをとったりして暇を潰す行為――無意味なまま歴史に葬られればよかったのだが、後世のムートポス人はそこに一種の合理性を見出してしまった。

 万が一にも蘇ることのないよう、念入りに死体を損壊する。時間と体力をわずかに浪費する以外に害もないので、事故を防ぐための手順のひとつとして、対魔騎士マニュアルの一ページに記載されている。

 やがて残心という名のオーバーキルも落ち着くと、力尽きた魔物の肉体は光の粒子となり、ゲーム的演出とともに天へ昇った。


【ちぎれた触手】


【腐った肉】


 あとに残ったのは、触手の切れ端や不気味な肉塊。テンタクル・ゾンビの身体の一部だ。踏んだり蹴ったりの酷い目に合わされたにしては状態がいいように見える。

 それもそのはず、これらは今しがた昇天した個体自身が落としたわけではなく、世界(システム)が戦利品として勝者に与えるもの、通称ドロップアイテム。倒した魔物の種族に応じて機械的に生成されるため、亡骸の損壊具合には関係なく、「使える」状態の素材が手に入る。

 敵を燃やすと戦利品も消し炭になります、なんて仕様があったらおちおち火属性魔法を使っていられないだろうし、快適なゲーム体験をお届けするための妥当な配慮といえる。

 指揮官のピーターは【ちぎれた触手】を拾い上げ、得意げな表情を見せる。


「いかかでしたか、ドスケべサイミンオジサン様? 現代ムートポス人もなかなかのものでしょう?」

「ヘァッ、ハハ、そ、そうですね、すごいですね対魔騎士団……!」


 ドスケベ催眠おじさんは引きつった作り笑いで応えることしかできなかった。

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