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番外編:メスガキサキュバスちゃん秘密のオシゴト①

なろう小説では「閑話:〇〇視点」とか「ポッと出の黒幕」とかがマイナスイメージを持たれるって聞きました。

 

だから二つをかけ合わせました。

 

オラッ! プラスに変われッ!!

 ひたひた、ぴっちゃん。ちいさな足が、地下の水面に波紋をつくる。ぷにっとした手はゆるゆると風を切り、桃色のツインテールがぴょこぴょこ跳ねる。そして髪よりもなお鮮烈なピンクの瞳が、きらきらにやにやと愉悦に輝いている。


「うひひ……♡ 見ぃちゃった、見ぃちゃったぁ……♡」


 幼い肢体にまとうのは、肩紐の細いキャミソールに似たシャツと、黒光りする革のホットパンツもどき、あとは靴と髪留めのみ。腕やおへそ、太ももを大胆に露出したスタイルは、同じ年頃の娘を持つ親が見ればちょっと不安になる無防備さ。


「ハジメテのおつかい、成功シちゃった……♡」


 庇護欲を誘うあどけない容姿、しかしてその正体は、奈落より来たりし人外の悪魔。


「よわよわ勇者……♡ 全部丸見え……っ♡」


 彼女はサキュバス――暗夜を愛し、ヒトの生気を喰らう悪魔。年齢という概念を超越し、男児から老爺まであらゆる「オス」を餌食とする。もちろん興が乗ればメスすらもつまみ食いすることに遠慮はないが――彼女らの生態はさておき。

 ともかくこのサキュバス娘は、ある使命を完遂して、歓喜のうちに王都地下水路を駆け回っているところだ。

 数えきれないほどの曲がり角を抜けて、秘密の隠し通路を下った先で、彼女は最愛の主人のもとへ両手を広げてダイブする。


「ご主人さまぁ♡ 任務完了(ただいまかえり)報告(ました)〜♡♡」


 真っ黒なフードで全身を隠した主人が、サキュバス娘を熱いハグで受け止める。


「よくやった、サチコ。褒美にこれをやろう……最近地上で流行っているらしいネコちゃんサンダルだ」

「わぁい♡ あたしネコちゃん大好き♡」


 サチコと主人の隠れ家には、ネコちゃん大好き、という言葉の通り、合成魔獣キマイラの三つの首のうち正面の獅子頭を剥製にしたものが飾られている。

 サンダルに描かれた(・ㅅ・)みたいな顔のネコちゃんとは大違いであるが、主人からの贈り物というだけでサチコにとっては至高だった。


「でもぉ、ここジメジメ♡ 湿気多すぎ♡ せっかくのネコちゃんサンダルびちょびちょになっちゃう♡」

「そう急かすな、サチコ。我々が大手を振って地上を歩けるようになるのも、日々の試練をこなしてこそだ。さぁ、今回の任務で見聞きしたことを報告しておくれ」


 サチコは、見ていてムカつくほどぷにぷにしたほっぺに指を当て、えーっとぉ、んーっとぉ、とか言いつつ主人に意味ありげな視線をたっぷり送り、ひとしきり戯れて満足してからようやく報告を始めた。今度は少しマシな口調で。


「ご主人さまの言った通り、アイツが来たよ。勇者って実在するんだぁって思った」

「やはりか。第十三拠点で観測した微弱霊気震動は正しかったわけだな」

「すっごいザコザコザぁコ♡ だった。【転生システム】使ったあとってあんな弱体化するんだね」

「ああ、肉体が巻き戻されているからな。とはいえ身につけた技術や召喚獣までもが消えるわけではない。くれぐれも無駄に煽りに行ったりするなよ」

「はーい!」


 主人は獣皮で作ったメモ用紙に何事かを書き留めつつ、さらなる報告をサチコへ促す。


「それからね、あいつら、くっさぁ〜いスライム集めて、浄化するとかなんとか言って儀式してたよ。何もかもヒュプさまの予想通りだったね」

「地下水路の件と勇者の復活が同時期に重なるルートも考慮していたからな。抜かりはない」


 隠れ家の壁には、無数の文字と矢印、二重線で消された案や、後から付け足されたらしき箇条書きなどが並んでいる。

 召喚獣クソツヨナメクジに降りかかった災いも、すべて彼らの計算のうち。勇者が助けに現れたことさえ、単なる変数のひとつでしかなかったのだ。


「あいつら、総がかりで生意気スライムを調教し(わからせ)てたけど……ぶっちゃけ萎えちゃった。だってあまりにも勇者がザコすぎるんだもん。仲間の召喚ネコちゃんとか、きゃわゆいオンナのコのほうがよっぽど強かったよ。あれマジで勇者? 自分を勇者と思い込んでる一般人とかじゃなくて?」

「いいや、俺様には分かる。離れても感じる不快な()()()……流転の女神に贔屓(ひいき)された、汚い異世界人が放つ魂の悪臭。間違いなく、ヤツは憎きドスケベ催眠おじさんだ」

「ふぅん」


 サチコはメモの並ぶテーブルへもたれかかり、退屈そうに頬杖をついた。主人の復讐に燃える瞳が、ここではないどこか、目の前の自分をすり抜けた遠くの誰かを見据えているのが、サチコにはちょっぴり気に入らない。


「で、これからどうするの? 殺す?」

「まだだ。仕込みが済んでいない」

「あのクソスライムが過去最低に弱体化中(ざこざこ)なんだよ。チャンスじゃない?」

「スライム単体を見ればそうだ。しかし強固なるリビングアーマーはいまだ健在。取り巻きの人間どもを引き剥がす術も揃っていない」

「へぇー、そうなんだぁ」


 サチコは、主人の深謀遠慮が、自分など及びのつかない領域へ至っていることを理解している。万全を期すために、あえてサチコにすら伝えていない作戦内容があることも。

 だからこそ気になって気になって、たまらなくなって、つい聞いてしまう。


「ねぇご主人さま、ヒント♡ サチコ、ヒント欲しいなぁ♡ 誰にも言わないであげるからぁ、いっぱいヒントお漏らししちゃって♡」

「ヒント? ふむ、そうだな……」


 主人は問うた。


「例えば、圧倒的な力を持つ英雄を封殺する、最も効率的な方法とは何だと思う?」

「封殺? んー、人質……いや、一般人を操ってけしかけるとか? 仮にも正義のヒーローなわけだし、罪のない民間人は傷つけられないでしょ」


 サチコは口調こそ生意気ガールのそれだが、真面目に悪事を企む(?)ときは、わりとエグい策を平気で出せる。彼女の脳みそは決してザコではない。頭つよつよサキュバスなのだ。


「素晴らしいセンスだ。が、それは普通の英雄における一般論。ドスケベ催眠おじさんに限っては、こちらを遥かに超える威力と精度の催眠魔法で、民衆の制御を上書きされてしまう可能性がある」


 もっともな指摘と思う一方で、サチコはひとつ浮かんだ異論を述べる。


「さっきの戦いを見る限り、あんまり催眠の成功率は高くないみたいだったけど?」

「それは『レベル1』だからだ。勇者がいつまでもそのままでいてくれるとは思わないことだ」

「なるほどぉ。成長こそ勇者の本質みたいなトコあるもんね」


 サチコは改めて、ドスケベ催眠おじさんの勇者らしいところ、勇者らしからぬところを再確認した。


「じゃあやっぱり、王道の邪道で。育つ前、弱いうちにブッ殺しちゃう!」

「それも悪くない。しかし、既に騎士や召喚獣などの護衛役をつけてしまった。容易くやらせてはくれないだろう」

「あーもう、あのカチカチリビングアーマー邪魔ぁ! どうしたらいいのぉ? サチコわかんなーい!」


 サチコは文字通りお手上げというように両手を広げ、降参を示す。


「いっそのこと、サチコがぴゅーっと行って、勇者だけササッと誘拐してこよっか? 男なんて、サチコが『魅了』しちゃえば、みーんな無限腰振りマシンだよ」

「試してみてもいいが、くれぐれも命を無駄に使ってくれるな。お前は貴重な戦力なのだから」

「もうっ、ご主人さま。そこは『お前のことが何よりも大切だから』ぐらい言わなきゃ!」

「おっと失礼、訂正しよう。大切に想っているぞ、サチコ」


 主人はサチコの柔らかい髪を撫でる。サチコはうっとりと目を細める。


「むふ……♡」

「……。」


 サチコが調子に乗って肩ひもを横へずらし始めたのを見て、主人は無言で撫でるのを中断した。途端にむくれるサチコ。


「いじわる。鬼。悪魔。邪神。そこもだいちゅき♡」

「…………光栄だな」


 何か言いたげな主人であったが、なんとか飲み込んで。


「ともかく。ドスケベ催眠おじさんが目覚めた以上、ここからは時間との勝負になる。拙速も巧遅も許されない。最善の策を、最適なタイミングで。いずれ計画の全貌をお前に明かすときも来よう。そのときまで、俺様についてきてくれるか、サチコ」

「絶対イヤ。……『そのときまで』じゃなくて、『ずっと』だよ」

「フッ……そうだな」


 邪神ヒュプノスは静かにほくそ笑んだ。

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