検証回でゲッダンかい?
仲間を増やして次の街へ――そんなアクティブな旅ができるのは、ゲームの主人公だけの特権で。
生まれたての肥満体を引きずり倉庫と住宅街を歩き通したドスケベ催眠おじさんは、二箇所しか巡っていないのに登山帰りみたいな疲れきった顔をしてリナ宅に帰還した。
ちなみにケヴィンは騎士の勤めがあるということで、ミリオン回収直後に離脱した。
部屋にはリナとドスケベ催眠おじさん二人きりである。
「あぁーしんど……ちょっと横になろ……」
「お疲れ様でした。マッサージでも致しましょうか」
「いえいえお構いなく。夜寝るときに魔法かければ治るんで……」
キングサイズのベッドに、沈み込むように横になるドスケベ催眠おじさん。
去り際にケヴィンから残していったお小言を思い返しつつ、自ら太ももの倦怠感を揉みほぐしていく。
「ケヴィンさんは、護衛がいるとはいえ、なるべく自己の鍛錬を欠かすなって言ってましたけど……」
「今日は無理をしなくても良いでしょう。お家でゆっくり、できることをしましょう」
リナは当初、ドスケベ催眠おじさんを無理に働かせることに消極的だった。が、他ならぬドスケベ催眠おじさん本人が意欲を見せているので、ほどほどに見守ろうと考えを改めている。
ドスケベ催眠おじさんとしても、折角の二度目の人生なのだから、少しでも健康的で人間らしい生活を送りたいという思いがある。
「お家でできることっていうと?」
「たとえば、わたくしを被験者として催眠魔法の練習をするとか!」
「それは、うん、寝るときなら。昼間はちょっとアレなんで、アレしときましょう」
「うぅ……わかりました。センパイはあんなに何発も受けていたのに……」
リナのケヴィンに対する物言いが妙に厳しいと思ったら、ドスケベ催眠おじさんに喧嘩を売ったからという理由のみならず、自分を差し置いて何度も催眠をかけてもらったことへの個人的な嫉妬でもあった。
「今夜は絶対ですよ」
「それはまぁ、アハハハハ」
言質を取ろうとするリナ。社会人スキルではぐらかすドスケベ催眠おじさん。
「それで、昼間他にできることって、リナさん何か良いアイデアありません? リナさんの若くて柔らかい頭脳が頼りなんですよ」
「り、リナが頼り? そそそんな恐れ多い。ですが、そうですね、持ち物検査など、いかがでしょう」
「持ち物検査?」
呆けた面でおうむ返しするドスケベ催眠おじさん。リナは丁寧に説明し直してくれる。
「昨夜使用された聖杖は、取り出してみるまで携帯されている自覚がなかったのですよね? そのような品がまだ有るかもしれません。役に立つものがないか、ドスケベ催眠おじさん様の『もちもの欄』を調べてみましょう」
もちもの欄、アイテムボックス、あるいはインベントリなどと呼ばれたりもするそれは、多種多様なアイテムが登場するゲームならお馴染みの、主人公が大量のものを運搬するための携帯式倉庫のようなもの。
武器防具や回復アイテムを常に持ち歩くからといって、馬鹿正直に主人公に大型のリュックサックを背負わせていては、逆に世界観の妨げとなる場合もある。大抵の場合はボタン操作でメニュー画面を開き、ランチプレートみたいに仕切られた大量の枠に、簡易なアイコンで描かれたアイテムを詰め込み、必要に応じて主人公の手元へ取り出す形となっている。ムートポスもその例に倣い、いつでもどこでもアイテムボックス方式だ。
「そっか。もしかしたら、あの頃の装備とか魔法薬が残ってるかもしれないですね」
「『出す』ことをイメージすれば、目の前に現れると思います。試しにそこのベッドへ何か出してみてください」
ドスケベ催眠おじさんは、脳内にズラリと並んだアイコンから、当たり障りのないガラクタを選び、「出ろ」と念じる。
すると、ポロッ、と気の抜けるような効果音とともに、アイテムが出現しベッドへ落ちる。
【石ころ】
本当に名前通りの、特筆すべき事項もない石ころ。ドスケベ催眠おじさんは拾い上げ、今度は「しまう」ように念じてみる。石ころは手のひらから消え去り、脳内のアイテムボックスへ収まった。
「うん、いけそうです。薬とか出しても大丈夫ですかね?」
「おそらく。まさか液体だけ撒き散らされたりはしないでしょう」
恐る恐る、ドスケベ催眠おじさんは念じる。出しては入れてを繰り返し、ひとつひとつ確認していく。
【濃縮魔力補充薬】
【加護の丸薬】
【ブレイブチキン】
幸い、親切なことに、薬は瓶や包み紙に入った状態で、料理は皿に乗った状態で出てくれた。においを嗅いでみても、特に腐っている様子もない。百年前に入れたアイテムが、時を止めて当時の状態のまま保存されていたようだ。問題なく使用できそうである。
「今度は武器を試してみます。ちょっと怖いので離れましょう」
ふたりは寝室の隅へ移動する。
「頼むからベッドに突き刺さったりしないでくれよ……出ろっ!」
ドスケベ催眠おじさんが念じると、鮮やかな光沢を放つ長剣が、床と並行に出現し、そのままポスンと軟着陸。流石に刃を下にして落ちることは無いらしい。
【聖剣『不能抜』+99】
刻まれた銘についてはスルーして、ドスケベ催眠おじさんは話を進める。
「武器も昔のが使えそうです」
「保存状態も良好です。これなら研ぎは要りませんね」
それと、念のため距離をとったことで判明した副産物だが、アイテムは数メートル程度の範囲内であれば、どこにでも出せるらしい。ベッドの上のみならず手のひらや足元、頭上、果ては背後にさえ【石ころ】を落とすことができた。
ただし、もう一度アイテムボックスへ「しまう」には、改めて触れる必要がある。
「これほど便利とは、まさしく神の遣わした勇者の権能ですね!」
「いろいろ応用が効きそうですね。魔物が現れたとき、味方に武器を配るとか」
ドスケベ催眠おじさんはグループでの共闘を想定し、剣だけでなく槍、盾に弓矢などの武器を一度に複数出現させた――直後、これが間違いだったことを思い知る。
――ガギギゴガンガラガンズンバラドッシャビシャーン!!!
「うわわわわわわわわわわ!!?!?」
細かい位置指定を与えられず、同時に同一座標へ重なりあうように出現させられた武器たちは、激しく複雑に絡み合い衝突し合い、ぶっ壊れた扇風機のように暴れ回ってベッドをずたずたに破壊した。いわゆる、物理演算の暴走というやつである。
幸か不幸か、武器自体は最高レベルまで強化された伝説級のシロモノだったので、傷ひとつ付くことは無かった。
しかし、揺れる廻る振れる切断ショータイムの開催地となったキングサイズのベッドには、惨たらしい無数の傷跡が深々と刻まれてしまった。
「あああああももも申し訳ありませんリナさん……!! せっかく用意して頂いたベッドをこんな……!!」
「大丈夫です、もらいものですので!」
当のリナは、あっけらかんと笑うばかり。騒動の余波で千切れ飛んだシーツの切れ端を掴みとり、パッチワークでも作ろうかしら、と呑気に呟いている。
「雑にいっぱい出すとこんなことになるんだ……次からは間隔を空けて出そう……」
「使い所さえ誤らなければ、良い攻撃手段にもなると思いますよ?」
「バグプレイみたいでなんかヤだな……」
眉をひそめるドスケベ催眠おじさんをよそに、リナはキラキラとした瞳で散乱した武器を手にとり眺める。
「これらの武器は、もしや世に名高き睡神時代の聖剣や聖槍ですか? 少し拝見しても?」
「あ、ハイ。指を切らないように気をつけてくださいね」
ドスケベ催眠おじさんのセンスによってことごとくロクでもない銘が付けられていることを除けば、武器それ自体は紛れもない最高級品である。
リナは妖刀に魅入られた武者のように、うっとり瞳をとろけさせる。
「ふわぁ……すごく……美しいです……」
「…………。」
【名刀『亀甲輿振』+99】
ドスケベ催眠おじさんは、脳裏をよぎるアイテム名を必死で抑え込み、耐え忍ぶのだった。
武器や召喚獣のネーミングだけ溜まりに溜まって出す場所がないでござる




