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つぎはぎの精霊様  作者: はる


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2/7

聖女編.前半

最近、夢を見ない。


正確にはあの従者の夢をこの一ヶ月見ていない。


あんなに頻繁に見ていたので、夢とはいえドラマでも見ている気分だったのに。


つむぎはあの慇懃無礼な従者に会いたかった。


と、思っていたけれど、いや、思っていたからか。




久しぶりに中世の夢を見た。


今度は王子の姿ではなく、下町のまだ幼い少女の姿だった。


街というにふさわしい人混みと街並みが目の前に広がる。

晴天に雲一つない美しい空と気持ちの良い風。



当たりの夢である。


キョロキョロと辺りを見渡すと、見慣れた背中が見えた。


「ネコちゃん!」


白いふわふわの尻尾に、どこにいようとわかる恐竜並みの体躯。

結構遠い場所にいたはずなのに、白猫の耳がピクリと動いた。


ナン、と鳴くとこちらに振り向く。

その大きな体躯で、人々の頭上を軽く飛び越えると素早い動きで駆け寄って、つむぎにすりすりしてくれる。


つむぎは今、子供の体なので王子の時と違って猫の突進を受け止めきれず最早、鼻先にのっている状態となった。


人々は突然の巨大な猫の動きに悲鳴をあげた。


「女の子が襲われているぞ!」


穏やかな街並みが一変する。人々は逃げ惑い、阿鼻叫喚の嵐である。


「あ、ダイジョウブ、ダイジョウブだから」


つむぎが猫の鼻先で訴えてみるものの誰も相手にしてくれない。



「鎮まれ!」


よく通る声で偉そうな人物が怒鳴った。

あんなに騒がしかった通りが、水を打ったように静かになり、街の人達はサッと道の端に身を寄せる。


つむぎの前に人の波が割れ、道ができる。


「聖獣様は人を襲わない。皆、冷静に。自分たちの用事に戻るように」


威厳のある態度で甲冑を着た騎士が割れた人垣からこちらに近づいてくる。


騎士に守られながら真ん中にいる人物はどことなく見覚えがあった。

円卓会議の時に向かいに座っていた王太子に似ている。


そして、その背後に完全に見覚えのある男がいた。赤いリボンで黒髪を纏めた安定の従者。


「あ、従者」


つむぎが片手をあげて従者に挨拶をした。


驚愕といった顔で従者が駆け寄ってくる。


「つむぎ様」


背後からそっと手を伸ばされ猫の鼻先から降ろされるが、猫は止まらず背中から体当たりで従者ごとぐりぐりされる。


「久しぶりだね」


猫と従者に埋もれながら、つむぎは従者に笑いかけた。

周りの騎士が、見物人達を邪険に追い払っている。


「お久しぶりです、つむぎ様。あれから一年経ちましたよ」


猫に負けまいとしてか、従者の手に力が籠る。


一年も経ってたのか…、つむぎは一ヶ月ほど夢を見てなかったくらいだったのに。


完全に抱きしめられている状態だが、十歳前後の幼女との抱擁はこの国的にセーフなのかアウトなのか?


「…おまえ、そんな趣味だったのか」


後ろから嫌そうな顔で王太子似の青年が話しかけてくる。


幼女との抱擁はアウトだったようだ。


「王子の名誉のために、治水工事や婚約解消に尽力してくれた立役者になんてことを言うのです」


安定の従者が王子をピシャリと跳ね除けた。


本当によく首が飛ばないよね。


そして、やっぱり目の前の身分高そうな青年は王子だった。


「おまえか!よくも俺の体で好き勝手してくれたな!おかげで俺はメアリーに振られるし、王権は剥奪されるし、辺境には一年間閉じ込められるしで散々だったぞ!」


王子がつむぎに怒鳴りつける。

すかさず「剥奪ではなく辞退です」と従者が訂正した。


一年間も辺境にいたんだ。それは大変だったな。まあ、それならさぞかし人としても器も大きく育ってきたことだろう。


「うん、まあ、感謝の言葉はいらないよ」


「なんでだよ!俺は苦情を言っているんだよ!」


王子、なんて良いタイミングで返答してくれるんだ。

話しやすいな。

なんだったらちょっと可愛いぞ。従者がヨシヨシする気持ちもわからんでもない。


「ネズミはどうなったの?」


「ネコチャン様が全て駆除してくださいました。辺境はこの一年で落ち着きを見せており、辺境伯並びに領民は王子に大変感謝しております」


つむぎの疑問には従者が答えてくれた。


辺境ではネズミ退治が上手くいって、王子の名誉は回復してきているようだ。


「それで、凱旋から帰還した名誉ある王子がどうして街中を歩いているの?」


つむぎは疑問に思っていたことを口にする。


「聖女が現れたというので、王子が挨拶に伺うのです」


「へえ、聖女!」


聖女か、すごいな。でもそうだよね。ここに聖獣もいるんだもんね。


大きいだけの猫だけど。

あ、ちょっと火を吹くんだった。


「お前のせいで、聖教会の催しは全て俺の管轄になってしまった。シャルル.アンリ.モンテワールも別に俺に懐いてもいないのに」


王子が心底嫌そうに言ってきた。


「まあまあ、一年努力してたもんね」


「我慢だよ!」


王子は丁寧に返事をしてくれる。


「邪魔してごめんね。私は街で遊んでから勝手に(現実に)帰るよ」


公務だったとはつゆ知らず、白猫を呼び止めてとんだ邪魔をしてしまった。


「従者、おろして」


いつまでも従者の腕の中で話し込んでいたことに気付いて、つむぎは従者の顔を覗き込んだ。


「え?おろす?……?」


心底理解できない顔で従者が尋ねてくる。


普段賢い従者が、急に察しの悪い人物に成り果てた。


「ええっと、靴も履いてるし、歩けるし、街並みを見たいから?」


後、従者に幼女趣味の疑いがかかっているから。


つむぎは困惑する。


従者がまるで街中で服を脱げとでも言われたかのような抵抗を見せてくるのだ。


「迷子になりますよ?こんなに小さくては見失ってしまいます」


言い募る従者につむぎは反論する。


「公務に連れて行くつもりなの?王子と違って、なんの関係もない少女を?」


「連れていきますよ。ネコチャン様を見てください。あなたがいないと付いて来ませんよ」


従者の返答に納得しかけるけど、いや、やっぱり関係ないよね?


「ネコちゃん、いなくても良いよね?それに、百歩譲って同行しても良いけど、一回おろして」


この王子御一行の中で一人抱っこされているのは嫌だ。


「見失ってしまう可能性があります」


従者は頑なだった。



ええー、なんで?夢なのにこんな思い通りにならないこと、ある?


つむぎは若干むくれた。


「おい、イチャイチャするなよ」


王子が割って入ってくる。


公務なのに私がごねて邪魔してるようになってしまった。

ごねているのは従者なのに。


「馬車にのるまでの数歩だろう。ごねるなよ」


王子が馬車を指差す。


「あ、そうなんだ」


ですよね!王族が歩いてくるわけないもんね!


なんだ、ならいっか。

どうやら猫がつむぎに走っていってので馬車を降りただけだったようだ。




馬車に揺られること十分、目的の教会に到着した王子御一行だったが、降りることなく従者だけが外の騎士に呼ばれて馬車を出ていった。




「…………」


取り残されたつむぎと王子は見つめ合う。

二人とも死んだ目をしていた。


「お前、てっきりそのまま小脇に抱えられて行くかと思ったぞ」


王子は呆れたようにつむぎに言った。

実はつむぎもそう思った。


馬車の中に入ってから従者はつむぎを片時もおろさなかった。


ずっと膝の上に乗せたまま抱き抱えられていて、その異様な光景にもはや王子すら黙った。


「…お前、いつもヴィルヘイムとああなのか?」


「ヴィルヘイムって?」


つむぎは初めて耳にする名前を問うた。


「お前が従者って呼んでるやつのことだよ」


従者の名前はヴィルヘイムというらしい。随分と立派な名前だ。


アンリより強そう。


「名前も知らないなんて、お前。…そもそもよくそんな口をきけるな。俺にもだが…、ヴィルヘイムは俺の従兄弟だぞ?」


え?従者、王族なの?


「あ、それで首を刎ねられないのか」


つむぎは従者の態度に納得した。


「く、クビ?…いや、え?クビ??確かにあいつは失礼なやつだけど。王子は必ず側近に地位の高い貴族をつけられる。じゃないと誰も意見できなくなるからな。俺にも兄上にもたまたま歳の合う従兄弟がいたんだ」


ダメ王子がまともなことを言っている。

なるほどね、そうだったんだ。


「いや、待てよ。ちょっと怖い想像に思い当たったぞ。お前、俺を乗っ取っていた時、ヴィルヘイムはずっとああだったのか?」


ああ、とは今みたいにずっと膝に乗せていたかどうかという事かな。


後、外聞が悪いので乗っ取るとか言わない。


「二度ほど手を握ってはいた」


ちなみに辺境伯にも握られてたけど。

王子は土色の顔で、嘘だろう…、と呟いた。


「道理で…。王宮で生暖かい目で見られるわけだ」


王子はそういうがそれはどうだろう。元々王子は色々とやらかしている。


「王子、つむぎ様。問題が発生しました」


王子と戯れていると外からノックの音が聞こえた。ヴィルヘイムが馬車に帰って来たのだ。

扉を開けて中に入り込んでくる。


流れるように従者がつむぎに手を伸ばすので、咄嗟につむぎは目の前の王子の隣に座り込んで王子の腕にしがみついた。


明らかに驚愕の表情の二人を差し置いて、つむぎは先の言葉を促す。


「教会で何があったの?」


「……聖女が行方不明になりました」


伸ばした手を握り込んで従者は答えた。


「ここまで来させといて?…時間の無駄だったな。帰るぞ」


クズ王子は安定のクズさを見せているが、それが良いわけない。


「王子、体裁が悪いです。我々も捜索しなければいけません」


従者が言うと、えー、と面倒くさそうな返事をする。


えー、ってなんだ。小学生か。


「王子、このままじゃ、聖女が行方不明で、王子は教会に行って一人の少女を攫って来た事実が残る」


つむぎが王子を見上げて言う。


少女って、つまり私なのだけど。


「なんだ、それ。俺が誘拐犯みたいじゃないか」


王子はつむぎを腕から剥がそうと腕を曲げたり伸ばしたりしながら言う。


「…従者、私も探すよ。聖女の特徴は?」


王子に返事をせずにつむぎは従者にきいた。


「はい、騎士に聞きに行かせます。ですが、つむぎ様は馬車からお出にならないほうがよろしいかと」


かしこまって従者が返答する。


「いや、王子俺だし、…ヴィルヘイムもなんで俺よりそいつを敬ってるんだよ」


「そうか、私は出ないほうが良いよね…」




外から騎士が声を張りあげた。


「申し上げます。聖女様の特徴は、桃色の髪に」


まず、従者がつむぎの髪に目をやる。


「水色に近い瞳…」


王子がつむぎの瞳を覗き込んでくる。


「歳は十四歳ですが、幾分幼く見えるそうです」


十歳前後も「幾分」に入るかな?


「服装は白いワンピースを着用されています」


靴は茶色です、と騎士は報告を終えた。


ご苦労、と従者が扉越しに労う。

つむぎは自分の靴が茶色であることをまじまじと突きつけられている。


「桃色の髪って、…珍しい?」


おずおずとつむぎが問いかけると、王子は無言で頷き返した。


だよね、今まで街中にいたけれど桃色の髪は一度も見なかったもの。




「お前、十四だったのか」


王子が第一声にそれを言う。


「…らしいね」


ワンピース着てるよね、白いよね。


「まあ、婚約はしててもおかしくはない歳だな。悪かったよ、趣味を疑って」


急に物分かりの良い大人な態度で王子がなんか言ってくる。


「つむぎさ…」


「従者、であれば聖女は王子の訪問をわかっていて抜け出したことになるね」


色ボケ王子は放っておいて、ここは従者と話をしよう。


「…そのようですね」


何かを飲み込むように従者は返事をした。


聖女は馬車で十分ほど離れた場所にいた。王子が訪問すると言うのに。


「どういった意図があるのかな?」


つむぎが従者に問う。


「まずは教会ぐるみなのか、聖女の単独行動なのか」


二人して熟考するが、とにかくヒントがない。


「色々な思惑がありそうだけれど、その目論見は崩れ去っている。だって私、ここにいるもの」


手探りでもわかっていることとしなくてはいけないことがわかればそれで良い、とつむぎは開き直った。


「そうですね。どんな意図があるかは後回しとしましょう。でしたら私の提案は二つあります。保護したと教会にお帰しして恩を売るか、保護したと王宮に連れて帰るか」


教会に帰ってもつむぎなら情報を得られるし、王宮なら本物がいずれ何かの行動を起こすのを待てば良い。


「じゃあ、私からも提案が。王子。聖女のパトロンになるのはどう?」


腕を絡めたまま、つむぎは王子を見上げた。


「ええ、やだよ」


つむぎは速攻でフラれた。






つむぎは今日も元気に家をでた。お店は休みで、祖母は朝からパウンドケーキを仕込み中。


今日は豆の仕入れと消耗品を少々、後はつむぎの好きな献立で夕食を作る予定だ。

小さなお店なので、業者に来てもらうほどでもないし、歩いて持って帰れるほどの買い出しだった。


ふと、地元の本屋さんの前で立ち止まる。

今日は珈琲を飲みながら読書でもしようかな、と後々の贅沢な時間に思いを馳せた。

店頭には色とりどりの本がずらりと並べられていて、それだけでテンションが上がる。


内容の重い本が良いか、軽い本が良いか、恋愛かミステリーか…、つむぎは雑食なので割と興味を惹かれたらなんでも読むほうだ。


「んん?」


可愛いイラストに目を惹かれる。


その一冊には、桃色の頭で水色の瞳が印象的な女の子が描かれていた。バックには金髪碧眼のイケメンが描かれており、その中に黒髪の赤いリボンをつけた紳士も描かれている。


これって…?


手に取ろうとした時、つむぎの携帯が鳴った。

マナーモードにしておらず、慌てて店内から外に出る。


迷惑そうな定員さんに頭を下げて、つむぎは携帯にでた。


「おばあちゃん?どうした?」


唯一の肉親、祖母からだった。


「ごめんごめん、あのね、ケーキを浸すブランデーが切れてたんだよ。ついでに買ってきてくれないかね」


「もう、おばあちゃん、そう言うのメールしてっていってるのに」


祖母は気軽に電話をしてくる。

つむぎは少し電話が苦手だった。

とはいえ、祖母は良い歳だ。メールなどつむぎが何度も教えたところでやり方を忘れてしまう。


「わかったよ。何本?」


「三本」という返事が電話越しに聞こえてくる。


つむぎは先ほどのことなど忘れてしまっていた。






見上げれば王宮。


ここはどうやら中庭のようだ。いつぞやの白猫が突進した窓は何処だろうか?


東屋、それともガゼボというのだろうか、風通しの良い建物はテーブルと椅子が何脚か存在するだけで他には何も置けないくらいの狭さだった。

簡易的な屋根からは日差しを遮るためか白い薄布が垂れ下がって風にそよいでいる。


「聖女様」


背後から声をかけられる。振り向くと侍女っぽい女性が並んで立っている。


なんか多いな…。


「そろそろお時間です」


侍女さんはそう言うが、何の?


テーブルにはお菓子とティーセットが並んでいる。

女性が好きそうな甘さと可愛いカラーで彩られたお菓子たちが所狭しと並んでいて、若干みていてお腹いっぱいになる。


「誰かが来る?」


一人分じゃない。多分聖女は誰かを待っていたのだろう。


見下ろすとピンクのフリフリのドレスを着ていた。これは聖女だから良かったものの、つむぎが着ていたら事故でしかない。


「ヴィルヘイム様が…」


侍女たちの顔が青ざめている。

来るはずだったが、来ないという事だろうか?

それとも今から来る?


「待つのは時間の無駄だな。十人もいるんだもの。みんなで食べちゃおうか」


侍女たちは何を言われたのか分からずに戸惑っている。


「甘いものは嫌い?」


全員に声をかけても返事はないので、最初に答えてくれた侍女に目を合わせた。


「…いいえ、好きです」


「じゃあ、一緒に食べよう。一人では食べ切れないもの」


痛くないように軽く腕を引いて侍女を座らせる。

戸惑いながら侍女たちは一人、また一人と席に着く。


「どれがお勧めかな?」


優しく聞くと、おずおずと指を指してくれる。

良い子達だがとにかく怯えているなとつむぎは思った。


口をつけようとフォークを手にした途端、背後から衝撃が来た。


ガタンと椅子が揺れる。


かろうじてお茶はこぼれなかった。


「ネコちゃん」


ぐりぐりと頭を擦り付けてくる白い塊り。近すぎて全体が見えない。と言うか白しか視界にない。


また一段と白くなって毛艶が良い。


良い暮らしをさせてもらってるようで何よりだ。


「ネコちゃんに何かあげられるものはある?」


侍女たちに聞くと、首を横に振られた。


「残念、あげられるものは何もないんだ」


ごめんね、と頭を撫でるとグルグル言ってくる。


お菓子は全部食べ切れなくて、残った分は侍女たちに持たせて、つむぎは部屋に案内してもらった。

とにかく着替えたかったからだ。窓の真下では白猫がニャンニャンと鳴いている。


「ごめん、ごめん。ねえ、悪いのだけどネコちゃんに何かあげてくれないかな?」


着替えを手伝ってくれている侍女に声をかける。

かしこまりました、と侍女は頭を下げて退出していく。もう一人の侍女が、ドレスを脱がし終えるとクローゼットを開けてくれた。


色とりどりのドレスはどれもフリフリの可愛い系で、つむぎにはほとんど着られるものがなかった。

端っこに申し訳程度のワンピースが何着かあったので、つむぎはそれを引っ張り出した。


「あ、そちらは…」


侍女が言い淀む。


「着てはいけない服なのかな?」


つむぎが聞くと、侍女は頭を下げた。


「そのようなことはございません」


手に取るとシンプルで動きやすそうで大変に良い。

袖を通すと侍女が手伝ってくれた。


「大丈夫だよ。これは前にボタンがあるから」



着替えが済んだので図書館に案内してもらおうと、廊下を出た時だった。


階段の手前で誰かとぶつかりそうになる。

黒髪に赤いリボン。


安定の従者だ。

しかしこちらを見る目には、疑いの眼差しがあった。

ジロジロとこちらを不躾に睨め付けている。


これは、聖女なのかそれともつむぎなのかと疑われている様子。


「あの、従者。私、つむぎ」


自分を指さして自己紹介する。ちょっとカタコトなのは許して欲しい。


あ、そういえば従者って王族だった。


と、思い出した時には、一瞬にしてつむぎは従者に抱き抱えられた。


「た、高い!怖い!」


後、近い!怖い!

すぐそこ階段だし。

足の下を抱えられた抱っこだと頭ひとつ分、従者よりも高くなるので子供の目線だと本当に怖い。


無礼打ちで階段から落としたりとかしないよね?


早業すぎて侍女たちがポカンと口を開けて二人を見ている。


え?なんで?従者ってこんな事するタイプだっけ?

王子の時も何やら距離は近い気はしていたけれど、ここにきて一気に距離が縮んだように感じる。


幼女趣味疑惑再浮上である。


「つむぎ様」


従者が話しかけながら、つむぎが出てきた部屋に戻る。


「聖女の意図はわかったの?」


顔が近いので小声で従者に問いかけると、柔らかい笑顔が返ってきた。


「おかげさまで。つむぎ様、部屋でお茶でもいかがですか?」


従者が提案してくる。

ゆっくり話そう、ということだろうか。


「残念ながら、もうお腹いっぱいだよ。聖女は待ち人来ずだったからね」


ソファに降ろされながらつむぎは答えた。

従者に待たされたんだよ?


「…どのくらい前から?」


従者の声色が驚きに苛立ちが混じっている。

つむぎが聖女とすり替わってからの時間を聞いているのだろう。


「聖女様の行動に異変があればすぐに伝えるように言ってあったはずだが?」


つむぎの背後に立つ侍女に、従者が不遜な態度で問いかける。



ええー、責任転嫁しちゃうの。従者。

来なかったの、自分だろう?


「前々から思ってたけど、従者。女性に対する態度がなってないな」


つむぎが言うと、従者がギョッとする。

侍女に向けていた身体をつむぎに向けて、サッと手を握る。


「つむぎ様に不快な思いをさせていましたか?」


心当たりないみたいな顔をしているけど、例えば密着して隣に座って手を握るとか。なんなら今。


「許可もなく抱き上げたり、密着するのここでは当たり前なの?」


幼女的にも成人女性的にもアウトじゃない?


「つむぎ様以外にいたしません」


従者はキッパリ宣言する。


なんか良い風に言っているけれど、それはつむぎを舐めてるってコトではないか?

特別って意味なら尚更許可を取って尊重するものなのじゃないの。


「特別扱いをしさえすれば女は許すとでも?」


イケメンの傲慢さが見えてつむぎはイラついた。


それともこの国では女性の人権など、つむぎの世界ほどにはないのかもしれない。


ましてや従者は王族だ。


望まれて当たり前だったのかもしれない、が


「これまではそうだったとしても、これからは触れるのも抱き上げるのも、ちゃんと許可をとって。相手の意見を尊重して」


ここでは常識だとしてもつむぎは違う。


王族だから良いとかない。

後、イケメンだから許すとかもないから。


「たとえ、聖女が許したとしても」


つむぎが言い終わると、従者は「え?」と間抜けな声を出した。


「………何か誤解があるようですが?」


戸惑った従者がつむぎに問いかける。


「なにかな?じゃ、聖女を待たせても謝罪は必要ないと?」


つむぎに言われて、従者はグッとつまった。


「それは…、いえ、はい」


申し訳ありません、と絞り出すように従者が言う。


サッとつむぎが立ち上がった。




「さて、聖女の目的は?私はどう動けば良い?」









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