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REBEL GIRL×REBEL GIRL  作者: 順風バカラ
急

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22/24

誰にでも嫌いな映画がある





「きゃーすっごーい! ねー見てルカちゃん! このパフェって食べ物、これだけクリームやらアイスやらコーンフレークやらで盛られてて、無茶苦茶でっかいよ! ねー見て見て!」


 目の前に運ばれてきたいちごパフェの前にその両手をかざしながら、再び茶色のロングヘアーを装着した琴音ナナが目を輝かせてはそう言った。

 指定認可地区《サーティファイド》・第三地区・「ケイツレジー/二十四番街」の裏路地に面したレストラン。

 そのテラス席に私たちは座っていた。通りの人は疎らだ。


 硝子窓の向こうに覗く店内は何やら物々しい様相のスタッフや常連客で埋め尽くされている。その多くが大戦上がりの攘夷軍人だという。

 道理でさっきから血なまぐさい匂いがする訳だ。私の席へとビシビシと飛んでくる殺気。突き刺し、監視するようなその視線。

 その殆どが、手足の欠損部分を機械のパーツで補っている模造人間《シミュラント》。成る程、中々の筋金入り(・・・・)だ。

 

 夕陽の赤色が、向こう岸の空を覆っている高い建築物と、様々な広告のプリズムが彩る街の表通りをゆっくりと染め上げてゆくのが見える。初冬の乾いた空気が、私たちの間を淡々と流れていった。

 その有名アイドルは口の周りにクリームをベチャベチャと付着させながら喋り続けた。


「ねー見てよルカちゃん、このパフェっての凄いんだよー! あと、ここのお店はうちの組の管轄だから、姿見られても中々チクられたりしないよ! 大丈夫!」

「……一体なんなんだよお前。マジかよ。あと、こっちもパフェぐらい食ったことあるよ馬鹿。知ってるだろ……あと、何でわざわざ指定認可地区《こっち》戻って来てんの」


 彼女は小首を傾げながら、そのつぶらな瞳をこちらへと投げ掛ける。血色の良い丸みのある頬を、ぷっくりと膨らませながら。


「うーん。もしかしてご機嫌斜めなの? ルカちゃん。ごめんね。さっきも説明したけど、うちは非指定地区(向こう)と指定認可地区《こっち》で喋り口調が切り替わるように、脳細胞にインプットされてるの! あっ、でも思考体系とかはそのまんまだから安心してね! あくまでも喋り方だけよ!」

「……何の意味があんのそれ。まあ、いいや。普通に可愛いから。流石は、私の遺伝子ってとこかな」


 彼女は顔の真横に寄せた両手を激しく振りながら赤面している。甲高い声が、明朗快活に響き渡った。 


「やーだー! そんなことないもん! もう! ルカちゃんったらー!」

「いやそれ、絶対思考も切り替わってるよね。『サピア・ウォーフの仮説』だよ。『言語が思考体系を形成する』。使ってる言葉が変われば、人間の頭の中身も変わるんだよ」

「やーだー! 別に、使ってる言語は『第三列島語』で同じだしー! きゃー!」

「そもそもなんか古いし。テレビに出てたときは割と普通だったじゃん、もう……」


 文字通り異邦人へと変貌した琴音ナナは、口周りのクリームを舌の先でペロペロと舐めながら笑った。


「ねールカちゃんはさー。何か頼まないのー? うちの店だから、タダにしとくよ?」

「そもそもさー。今日は食べてくつもりだったんだよ、あの子と。それがお前に邪魔されて……あーあ。どうせ今頃ブチ切れてんだろうな。思念《サイン》も誰かさんに妨害されて届かないしな……帰り、何か買ってかないとな……やっちゃったよ……じゃなくってだな!」


 私は、眼下にある丸く小洒落た形をしたテーブルを軽く叩いた。

 店内の如何にも屈強そうな中年男性陣、如何にも狡猾そうな老人たちの視線が、一斉にこちらへと集まる。


「要はお前らも、私らとは別のレジスタンス──ってことでいいんだよな? だから、あいつらに提出した記憶はプロテクトかけまくり、そんでウイルスであたしを誘き寄せるための二段構え……」


 有名アイドル兼政府の中枢へと食い込んだ諜報員は、紙ナプキンで口元を拭っていた。

 特大のいちごパフェはあっという間に空になっている。


「そうだよー。ごちそうさまでした!」

「……じゃあ、うちらは同じネズミ同士って訳だ」

「『ネズミのいない冬はなし』、『歯なしは歯を失うこともなし』ってね! そーゆーこと! でもね、ルカちゃんのとこの『名もなきレジスタンス』とうちらじゃ、根本からそのアプローチや考え方が違うの。じゃあ、結論からはっきり言うけど、全《ワン》ちゃんと有事通信社を潰すなんて無理! 100パー無理! だから早く諦めなって、うちらの仲間になってってこと! なんせ、こっちも色々人手不足でさー」


 私は丸いテーブルの上にある、水の入ったグラスを手に取り、口元へと運んだ。指定認可地区《こっち》で飲む水は、心なしかいつも爽やかな喉越しがする気がする。



「てか、この調子でそっちに勝手に暴走されたらマジで困んの! こっちの計画が。だから、色々互いに譲歩したり、折衷案を出し合ったりで均衡を保ちたいとこなんだけど……どうしてもこっちの要望を受け入れない、相容れないんだーってなったら、ごめんね。ルカちゃんたちを全員ぶっ潰すしかない。こっちも」

「……うーん。色々と言いたいことはあんだけど、まず、私別にリーダーじゃないからさ」

「こんだけ堂々とトーキョーラマ中を車で行き来しといて、目に余る行為だってのは省みなかったの? もうちょっと考えなよ」

「いや、今日行き来するきっかけを投げたのはそっちじゃんよ」

「だって……超久々に非指定地区(向こう)行ったらご飯は全部、配給制の虫になってたなんて知らなかったんだもん。お気に入りの、古びた内装だったけどいい感じの雰囲気だったカフェも潰れてたし……最悪」

「そんで、何で無理だと思うのよ」

「ん? そりゃ全《ワン》ちゃんが、もはや中央集権的な機能じゃなくなって、四方八方に分散するようになったから。ネット上を隈なく監視し始めた新しい通信傍受《シギント》システムのルートを利用してね。今やもう、あの人工知能ちゃん本体はあのタワーにはいないんだよ。多分、第三列島の北部──『ノースカイドー』が、残りの全《ワン》ちゃんの大多数が集まってる、今んとこの第二の根城だね、うん」

「……マジかよ」



 私たち「名もなきレジスタンス」が通常、何週間、何か月、何年もかけて入手するような情報を、この人目を忍ぶ二重人格アイドルはさらっと言ってのけた。

 まるで検索したばかりの明日の天気を呟くかのように。


「この列島はどこもトーキョーラマと同じような管理体制を取ってるけどさ、一番強い全《ワン》ちゃんが地方に分散して、更に全体でパワーアップしちゃった訳よ。だから、ここを制圧したとてまた、全員でより集まって復讐にきちゃうよ。だからタワーを潰したとて、それを後に迎撃出来るだけの体力がまだ、君たち貧乏レジスタンスに残ってるかどうかは甚だ疑問なんだよねー、うん」

「……でも、こっちじゃ何年も、何十年もかけて仮想現実《ヴァーチャル》から攻撃を……」

「んなのとっくに向こうは対策済みよ。何なら全部想定済み。だからルカちゃんたちは常に後手後手になって、対応が遅れちゃうのよ。分かる? これで文字通り、『革命が完遂して、全《ワン》ちゃんの首が銀の皿の上に乗る』なんてことはなくなったの。どう? チーム全体の活動拠点が非指定地区《そっち》と指定認可地区《こっち》とじゃ、入ってる情報の質が段違いでしょ。いい? だからさー。マジで武力革命だなんて古臭い考え方は止めて、こっちの邪魔をしないでほしいんだよ。大体ねー、何から何まで、猪突猛進すぎんのよルカちゃんたちは。革命なんてのはね、いつの時代も字の読み書きの出来る馬鹿が、字の読み書きの出来ない馬鹿をけしかけてるだけなの」

「そういう未来が、視えるってこと?」

「うん。そんな感じー」

「……それで、大戦で心と身体に傷を負った者同士で結託して生まれたそっちのレジスタンスと、お前は癒着し始めたと。でも、それとあのキャピキャピぶりっ子な芸能活動と、一体どう関係があんの? それに、今でも政府側からの監視だって──」

「ナナ様、お時間です」


 店内から、筋骨隆々とした軍人が一人テラス席へと身を乗り出してきた。

 人目を忍んだ有名アイドルは満面の笑顔を彼に振りまきながら、身振り手振りでそれに応える。


「了解でーす! じゃ、ルカちゃん。店移ろっか! 今日はうちの考えた完璧なデートプラン、完璧に進めちゃうからねー?」


 浮かれ気分で席を立った琴音ナナの背中に向かって、私は言った。


「……全《ワンネス》が中央集権的な機能を四方八方に分散させたってのはさ、要は『ターミネーター3』のラストみたいな話?」


 彼女はしばらくの間その場に静止し、ゆっくりとこちらを振り返る。

 その笑みは、ほんの少しだけ凍りついているように見えた。


「……ほら、思ったとおり。ひたすらドンパチやってる戦争映画っぽいのには疎いみたい。多分、PTSDで観れないんでしょ? あの記憶データを運転してれば分かったよ」


 やがて琴音ナナは、無理矢理に捻り出したような朗らかな笑顔を私に向けて解き放った。


「……ほんっと。ルカちゃんって意地悪……まあ、そんなとこが気に入ったんだけどさ! じゃ! 着いてきて!」


 そう言うと彼女は店の大きなドアを開け、次の現場へと向かってそそくさと歩き出した。













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