かつてあった惨劇
囂々と燃える街、泣き叫ぶ悲鳴に反して轟く雄叫びは留まるところを知らず、悲劇だけがそこにあった。昨日まであった日常は跡形もなく消え去り、残ったのは瓦礫と亡骸。全ては燃えて灰になり、風によって過去の平穏ごと遥か彼方へと飛んで行った。
「これは酷い……」
男、アルベリヒ・ニーベリング・フェアリンクは上空から街を見下ろして零す。アルベリヒは同盟国であるヤーグラッタ王国から緊急救援を受けて到着したログリタリナ魔皇国の宮廷魔法剣師長で、隊を率いて駆け付けたものの、時既に遅く……。そこにあったのは燃え盛り焦土と化そうとする街とフィクトスという化け物だけだ。
「全隊員に告ぐ! 生存者の救助を最優先とし、速やかにフィクトスを撃破せよ!」
『はッ!』
隊員達を見送り、アルベリヒも地上に降りた。辺りは濃い瘴気だけでなく、炎と血の匂いに包まれ、フィクトスが我が物顔で闊歩している。アルベリヒもフィクトスを倒しながら生存者を探すが、誰も彼も既に息絶えていた。
「誰か生存している者は……あ、」
騒音の中、僅かに拾った呻く音。アルベリヒは急いでそこへ駆けつけると、今にも消えてしまいそうになっている灯火を見つけて優しく抱える。
「まだ息がある。だが、この怪我では……」
息があることすら奇跡ともいえる大怪我で、例え魔法で治したとしても失った血までは戻せないため、失血死してしまうだろう。
「仕方ない、か。ま、彼女なら許してくれるよね」
アルベリヒは腕の中の子供に時間停止の魔法をかけ、一時的に死を防ぐ。簡易的な救護所に瞬間移動してその子を任せると、再び生存者を探すべく戻って行った。
その後、フィクトスは全て倒され、フィクトスが生まれてくる瘴気溜まりもなくなり、火災は鎮火された。
しかし、たった二人の生存者だけを残して、ヤーグラッタ王国は一夜にして滅んでしまった。




