対等でいたい
な。
な。
なんだったんだあれは!?
どぎまぎしながら石の廊下をかつかつと歩いていく。左右には先程私がいたのと同じような牢獄が続いている。しばらく歩いているもののまだ心臓がばくばくしている。普段あまり意識しないよう努めてはいるが、アルギュロスはくっっっっっっっそイケメンだ。まともに顔を直視できるのは十秒くらいが限界だろう。それがああしてこちらを真剣に見つめていたのでは……。
AED! 誰かAED持ってきて!
前世で度々そう叫んでいたいずみちゃんを思い出す。昔はなにを大袈裟な、と呆れたものだけれど。今はもう馬鹿にしていられないみたいだ。
そして少しの後悔がちくちくと刺さっている。悶々としているのもよくないので、覚悟を決めて口を開いた。
「あの」
「なんだ」
私はこうして聞き返してくれる声が割と好きだ。他の人が話しかけると目線だけやって続きを促すので、こうして聞く姿勢を示してくれることは嬉しかったりする。
「言葉にはちゃんと言葉で返したい、とは思いますけれど。今はちょっと気持ちがまとまらなくて……。言葉にできるくらい整理できたらお伝えしますので、その時は貴方の時間を少しもらっても構いませんか?」
アルギュロスは微かに目元を和らげた。
「いいもなにも、君との時間はたっぷりあるからな。私の時間など、いくらでも持っていけ」
改めて言われるとそれはそれで照れる。視線を逃がそうとすると、冷たい手で頬を挟まれた。頬に熱が溜まりかけるが、アルギュロスは硬い声で「見るな」と言ったので気を引き締める。
「……なにがあるのです?」
「亡者の群れだ。……あまりいいものではない」
アルギュロスの手の向こうで白銀の炎が亡者らしきものを焼いた。
『痛い』
『苦しい』
『助けて』
『解放して』
次々に上がる声にぎょっとした。白銀の炎が見えたのか、鉄格子に亡者の群れがへばりついてきた。こんなにいたのかと驚いた。けれど、私はアルギュロスの手を掴んだ。
「ま、待ってください! 貴方、貴方は……!」
亡者の声は魔族達の声を思わせる。アルギュロスに救済を求めた魔族達。アルギュロスは私と目を合わせた。その金の瞳はどこか冷ややかだ。
「大丈夫だ。君が気遣ってくれるだけで私は救われる」
「わ、私は貴方の免罪符になりたい訳でも、精神安定剤になりたい訳でもありません」
「……厳しいことを言ってくれる」
「当たり前でしょう! 私は貴方と対等でいたいの!」
「対等、か」
いつの間にか亡者の呻き声は止み、アルギュロスの呟くような声だけが廊下に響いた。途方に暮れたような声音に、私は悲しみを通り越して怒りを覚えた。
「蝶よ花よと愛でられていたいだけなら貴方を選んだりしないわよ」
「……そうか」
一瞬返答に詰まったものの、アルギュロスが手を離した。私は覚悟を決めて牢獄を注視した。覚悟を決めていたものの、その姿に血の気が引いた。腐敗した泥の塊のようなものがズッ、ズッと動いていて、目と口にあたる部分には空虚な穴が空いている。彼らは一体なんなのか。そう問おうとしたらアルギュロスが先に口を開いた。
「あれは不老不死の研究の犠牲者達だろう。中途半端に術が作用して、体が腐敗し、崩れていながらも死ぬことはできない」
「……私もああなっていたかもしれないと?」
「ああ」
アルギュロスは淡々と答えて亡者を燃やした。白銀の炎の中で踊る人間だったものは、やがて塵も残さず燃え尽きた。
「彼らが望んでああなったのか、それとも第三者にされたのか、そこまでの判別はできないが。……以前ならこのような愚か者共など自業自得だと捨て置いただろうな。君のお人好しが移ったのかもしれない」
ああ、珍しい。そんなことを言えば私が気に病むのは知っているだろうに。そう思いかけて、これは弱音なのかなとふと考えた。表情を盗み見れば、ほんの少しだけ自嘲しているらしいのがわかった。が、一瞬のうちに表情が強張った。
「しかし、なにごとも原因はあるものだ。どうしようもなく、業に塗れた愚か者が」
アルギュロスが鋭い視線を投げた先、そこは未だ白銀の炎が燃えていた。魔界の障気に千年以上耐える程の浄化の力でも燃やせない亡者が、そこに立っていた。




