そりゃあ羨ましいですよ!
「ところで、これで『永遠の約束』の魔術はおしまい……ってことでいいのですよね?」
確認すると「ああ」と返ってきたので、そうなのでしょう。……あんまり自覚はないけれど。改めてこれでずっと一緒なのだと思うと少し恥ずかしくもなる。
「どうした?」
「いや、ちょっと照れただけです。これでも恋愛初心者なんで」
部活! 部活! ゲーム! でいっぱいだった生活だ。甘酸っぱい青春なんて幻みたいなもの。ふいっとそっぽを向いてプレッツェルをポリポリ。その音に混じって低い笑い声が耳に届く。
「恋愛初心者か。それにしてはゲームとやらで何人を落としてきた?」
「はっ!? あれは、ゲームですから! 生身の人間が箱の中に入ってる訳ではないし、決められた答えしか返せませんからね!?」
ゲームという概念のない世界だ。これこそ誤解されては堪らない。見境なしに見られるのはごめん被る。しかしアルギュロスは悪戯っぽく笑っていた。
「別に覚えた手練手管を披露してくれても構わないが」
「てれっ……!? ないからそんなの! 貴方こそ、私よりずーーーーーっと長く生きてらっしゃるんですもの。膝枕とかあれやこれやしてたんじゃありません!?」
「ほう? 見たのか」
「やっぱり心当たりがあるんですねっ!?」
そりゃそうだ。イケメンで魔王の副官となったら女が群がらない訳がない。自分で言ってて悲しくなってきた。
「女がいなかったとは言えないが、心を傾けたのはアレクシアだけだ」
「う、嘘だぁ」
「本当だ。ルシアにでも訊くか?」
ルシアを引き合いに出したところで白確定な気がする。そういうところ本当にずるい。
「……ミランダ様は?」
尋ねると一瞬黙った。しかしすぐに答える。
「確かに親愛の情はあった。魔王であるというのに、なにも望まず、怠惰を貪り、ただ世界に満ちる障気を減らす為だけに死んだ。その在り方は歴代魔王の中でも異質ではあった。私が教育係を務めたが、はて、どこで育て方を間違えたのかとは幾度となく思ったものだ」
私はあ、と思って先入観を捨てた。ミラから教えられた『アルギュロス様の元カノ』という情報。
「ミランダの在位は本当に短かった。本当に、君と同じくらいの歳で死んだ。彼女とは教育係と教育される者、副官と魔王という線を越えたことはない」
ああ、わかった。ミランダ様の片想いだ。
想像でしかないけれど、確信に近い。ミランダはアルギュロスを好いていたけれど……立場と境遇で足踏みしていた。でも構って欲しくて、からかって、小さなワガママで甘えて。敵わないな、と思う。強くて可愛らしい魔王だ。
「なんだ、そのなんとも言えない微妙な表情は」
アルギュロスの声音に不機嫌な響きが混じる。私は知らず知らず生暖かい目になっていたらしい。
「あ、いえ。少し羨ましいなと思っただけですので」
「羨ましい? ああ、さっき膝枕がどうとか言っていたあれか」
「そうですけど違いま、はっ!?」
失言を正すどころか更に重ねてしまった。とうとうアルギュロスに声を上げて笑われた。
「ふっ、はははは! 君は本当に面白いな。しかし、男の膝など固くて気も休まらないだろうに」
ちょいちょいと手招きされたので、若干不貞腐れつつも近づけば、立ち上がるついでのような淀みない動作で抱え上げられた。バランスを崩すまいと首にしがみつく。
「ちょっとなにするんですか!?」
「膝枕程度を羨ましく思うなど、どうやら私の愛情表現に不満があるらしいな?」
「さも残念そうに言ってますけど、面白がってますよね、絶対!」
足をばたつかせるが、よろめきもしない。一体どうなってるんだあんたの体幹は!
「さて、いつまでその照れ隠しが保つことやら」
「ば、ばれてるーーーー!?」
ここはアルギュロスの作ったお昼寝スポット。この悪ノリを止めてくれそうなアントニオもシルヴァも、いない。




