↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/67

蝋燭五本でって言ったじゃないですか




 学園の裏庭にある、アルギュロスのお昼寝スポットは健在だ。


 余程邪魔をされたくないらしく、その入口は巧妙に隠されていて、私やアントニオのように以前入ったことのある人間が注意深く観察してやっと見つけられるくらいの小さな穴だ。手を突っ込むとするりと吸い込まれて、あの不思議な森に辿り着く。


 アルギュロスは木に上って昼寝をしていることが多かったけれど、最近は木陰にいる。大きな木の間をいくつか回ってみたら、見つけた。昼寝といっても実際に寝入っている訳ではないので、私が近づけばぱちんと目を開ける。アルギュロスの上目遣いが見られるちょっとお得な瞬間だ。


「まだ午後の授業には早いと思うのだが」


 私がここに出入りする用件といえば、午後の授業をサボろうとするアルギュロスを引きずり出すことと決まっている。


「い、いけませんか。早めに私が来ちゃ」


 若干喧嘩腰になってしまった。アルギュロスはふっと鼻で笑うと目を伏せた。


 ええい、やってしまえ。


「お隣、失礼しますね」


 えいやっと内心勢いづけて隣に座り、アルギュロスに寄りかかる。肩にこつんとこめかみを当てたら、ぴく、と少し跳ねた気がしたので軽く睨む。


「なにか」


「……気を遣わなくていい。嫌なら」


「気を遣ってくれるなら大人しくしていてください。ちょっと、補充させてもらいますので」


「補充」


「補充です」


 ルシアが言っていた。『率直に言って恥ずかしいならば、恥ずかしくない言葉に言い換えるまで。そして少し寄り添う姿勢を見せれば、アルギュロス様は大人ですから向こうがなんとかしてくれるわよ』と。

 だからって物理的に寄り添えという意味ではないと思うけれど……いや、それはそれだ。別にどんな形でも問題なかろう。慣れないことして全身ガチガチだけれど。うん……。


「補充……。魔力が足りないのか?」


「……蝋燭五本まででお願いします」


 違うわ! という突っ込みは全力で飲み込んだ。アルギュロスは少し笑い声を漏らすと私の手を取った。お願いした通り蝋燭五本分だと思われる魔力が流れてくる。雪の朝に得たカイロくらいの心地よさに口元が笑む。


「アレクシア。君は変なやつだな。なぜ私から離れない? 私は大体のことはできると豪語しておきながら、君の窮地にはなにもしてやれていないのに」


「貴方に変と言われるのは心外ですね。しかも私が泣きつくのを待っていた癖になにを今更」


「それは……。君がすぐ諦めると思ったからだ。そうして悠長に構えていたらどうだ。君は根を上げることなく厄介な方へ向かっていく。厄介な方へ向かった結果、いつの間にか私でもどうにもならない所で迷子になっている」


「好きで厄介事に首を突っ込んでいる訳ではありません。……それに、まずは自分でなんとかしてみてから人に頼る質ですし。あとそう、私はアルギュロス様の側にいたいからいるだけです。文句あります?」


 つんと言ってのけると、アルギュロスに特大の溜息を吐かれた。


「……アレクシアも存外、私がいないと駄目だな」


「え、なんですかそれ。ってきゃあ!? なんで魔力強めるんですか蝋燭五本までって言ったじゃないですか!」


 髪まで赤くして抗議すると、元の蝋燭五本分に戻った。が、「アレクシア」と呼ぶ声がやけに悲痛な響きだったので文句を飲み込んだ。


「君が一月眠っていた間、私がどんな心持ちをしていたかわかるか? 複雑に絡み合った君達を無理やり分離させる訳にもいかず、蝶が消えるしか方法もなく、それを見送ったのだぞ。君は見ていて飽きないが、些か浅慮がすぎる」


「あ……ごめんなさい」


 つい謝罪が口をつくと、アルギュロスがこちらに頭を寄せてきた。


「謝罪は不要だ。だが、くれぐれも私を置いていくなよ、アレクシア」


「ふふ。引っ張ってでも連れていきますよ。約束します」


「約束、か」


 あえて約束という言葉を使ったことに気づいたのか、小さく笑った。振動が私にも伝わってくる。

 あ、いいことを思いついた。私の方から魔力を流せばアルギュロスも心地よくならないだろうか。試しに重ねている手から流してみる。水道の蛇口を捻るようなイメージだ。流れ出した魔力はアルギュロスのものと混じり合い、緩やかな循環を始めた。


 ぱち、と目が合った。


「……そろそろいいか」


 なにが、と問う前に膝の上へ移動させられた。バランスを取ろうとして思い切り抱きついてしまい、飛び退こうとしたが抱え込まれてしまった。この体勢はかなり恥ずかしい。恥ずかしいけれど、なんだかほっとするような気もして急激に眠くなってくる。


「……午後の授業、遅れちゃう」


「出なくていい。たまにはサボれ」


「そう、ですか……」


 目を閉じる前に、光るシャボン玉が漂っているのが見えた。それもたくさん。魔力を食うと言っていたのをすっかり忘れていたことに気づく。


「共に長い夢を見ようか、アレクシア」


 その声が聞こえた時にはもう夢うつつ。パキンと薄氷が割れるような音を合図に、私は深い眠りに落ちた。




書いていて、アルギュロスが時折ボケるから困る。アレクサンドラ目線ですので、彼女がボケに気づかないとアルギュロスの言動おかしいな~となるからやめて欲しいですね。



あと、一週間ほど某お空ゲームのイベントあるので、次の更新は来週になりそうな予感です。

もし更新したら「あ、逃げてきたなこいつ……」と思ってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。