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質問責めにします




「どうぞお入りください」


「やめれ」


 という会話をしたのが少し前。原因はシルヴァが用意した大釜風呂がぐつぐつと煮立っていたこと。シルヴァの冷たい手を取って人肌を教え込み、上手く温度調節をしてもらった。部屋の中央の大釜を風呂代わりにしているので、気分は石川五右衛門だ。

 そして入ってから気づいた。


「あ、着替えは?」


 敬語は要らないらしいので取らせてもらった。白銀の炎で温度調節に励むシルヴァは無表情で答える。


「とりあえずセイル様の服を持って参りました」


「許可取ったの?」


「セイル様はもう魔界にはいらっしゃいません」


 お礼を言おうと思ったのに、残念。そうだ、お礼を言わなければならない人はもう一人いる。


「ねぇ。シュトルギース様は?」


「シュトルギース様は随分前にお亡くなりになられました」


「え」


 それはちょっとまずいのではなかろうか。確かシュトルギースという魔族は魔界きっての親人間派だと言っていた。死んでいるのでは魔界の情勢はどうなっているのだろう。と、また私の表情を読んだのか、シルヴァが付け足した。


「ご心配なさらずとも、魔界にはもうアルギュロス様以外の魔族はおりません」


「はい?」


「障気に蝕まれ、蒸発してしまいました」


 じょうはつ。それは行方不明になること? なんて冗談は言えなかった。たぶんそれこそ水蒸気のように、じゅっと蒸発してしまったのだろう。障気のせいで倒れた私ならわかる。あれはそういうものだと。


「え、でも、おかしいわよね? 魔界がアルギュロス様しかいないなら、魔界から守護獣を召喚するとかできないじゃない」


「蒸発してしまった魔族の残滓が召喚されているか、魔獣界から召喚されているかのどちらかでしょう」


「魔界と魔獣界って違うの?」


「元々魔界しかなかったのですが、このように障気に溢れてしまった為に魔王様が魔界を障気ごと封印なさいました。魔獣界は、その後魔獣の王によって拓かれた別の世界です。封印されたここは本来もうどの世界とも二度と往き来はできず、朽ちるだけの世界となっていますから、アレクシア様がいらっしゃったのはイレギュラー中のイレギュラーです」


 今、ちらりと重要なことを言われた気がする。二度と往き来はできない、とか。私はそれでもいいやとか楽観的に思っているけれど、問題は同居人だ。


「アルギュロス様は……蒸発しないの?」


「アルギュロス様は魔王四天王ですし、力が強いので。その時はまだ来る気配はありませんね」


「とんでもなく偉い人だった……」


「魔王様に次ぐ立場ですね。しかし、最後の魔王様はワガママ放題でしたので、アルギュロス様が叱り飛ばすことが多かったようです」


 それはもう最高権力者と言って過言ではないのでは。あ、魔界にはもう誰もいないから実質最高権力者か。


「ちなみに他の四天王はシュトルギース様、ルシア様、セイル様なのですが、シュトルギース様は先程言いましたがお亡くなりになられていますし、ルシア様も同様に。セイル様は魔界を封印した時は既に人間界におりました」


 なるほど、同等の力を持つ魔族達もなんらかの理由で魔界にいないと。

 ……でも。そうしたら。


「寂しくないのかなぁ」


 私の呟きにシルヴァは少し間を置いてから答えた。


「どうでしょう。私はあの方から知識と記憶を共有してはいますが、感情までは共有していませんので」


「シルヴァはどうなの? その記憶を見てみて、寂しくないの?」


 シルヴァはまた間を置いた。今度は少し長い。


「……寂しいかどうかはともかく、虚しいなとは思いますね」


 それだけ聞ければ十分だ。ぶく、と一度沈んでから風呂から出た。





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