飼育されます
私はとりあえず部屋の探索をすることにした。察するに、ここは研究室だと思う。小さな魔物がホルマリン漬け? になっている瓶が棚に並んでいて、部屋の中央には魔女がニヒヒと笑いながらかき回していそうな大釜がある。人間を培養できそうな巨大な水槽に、壁にはずらりと本棚が並ぶ。
えー、一応私公爵令嬢なんですけど、よくもまあこんな不気味な部屋に運んだよね。並みの令嬢なら気絶しているんじゃなかろうか。でもたぶんここは障気が一番薄い部屋なのでしょう。仕方ない。
あ、転生している私は勿論並みの令嬢ではないので、部屋の隅々までしげしげと眺めて堪能した。大釜をはじめ置いてあるものは埃を被っているので、長らく使われていないのでしょう。本棚を舐めるように見ていると、コンコン、とドアが鳴った。
「はい?」
「失礼します」
入って来たのは、アルギュロスと同じ色素の少女だった。
「アレクシア様のお世話の為、アルギュロス様に創造されました、シルヴァと申します」
「創造された?」
いやに引っかかる単語を復唱すれば、シルヴァはこくりと頷いた。
「はい。アルギュロス様の髪から生成されました。アルギュロス様の知識、記憶、生成時に全て共有されましたので、人間の飼育にも必要な情報は大方揃っているかと」
「私はペットか」
思わずツッコミを入れてしまったが、大事なことを尋ねておかねばならない。
「あの、シルヴァさんの目を通してアルギュロス様が私を監視していたりはしますか?」
「可能ですが、四六時中はいたしません。あの方は基本怠惰に生活されていますので、アレクシア様にもご興味はないかと」
おいおい眼中にないってか。それはそれで複雑だな。でもあれも一応攻略対象ではあると思うけど。だがシルヴァはこう付け足す。
「それに、アルギュロス様と色々共有したとはいえ、シルヴァという名前を与えられた時点で私には自我が芽生えております。倫理に反するようなことをあの方がしでかすようなら、私は存在が消し飛んでも止める所存です」
「あ、ありがとう……」
ぐっ、と無表情で握りこぶしを作るシルヴァ。随分強情そうな世話係を生み出したもんだなぁ。私のお礼にぺこりと頭を下げたシルヴァは、つかつかと本棚に向かうとある本を取り出した。
「それはなに?」
「人間との正しい接し方のバイブルです。ここの研究室をお使いだったシュトルギース様は魔界きっての親人間派でしたので、研究記録や日記を読めばアレクシア様のお世話に役立つかと」
勉強熱心なのはありがたい。魔界と人間界では勝手が違うだろうし。しかし聞き捨てならないことを耳にしたものだ。
「ねぇシルヴァさん。アルギュロス様は親人間派なの?」
「いいえ」
その答えにひゅっと喉の奥が締まる。だが、シルヴァは淡々と続けた。
「強いて言うなら、魔王様派でしょうか」
「まおう」
それは喜んでいいのだろうか。私は微妙な顔になっていたのでしょうな。シルヴァは更に付け足した。
「魔王様は親人間派でしたよ」
それはなにより。むっちゃ意外だけど。




