保護されました
とりあえず不気味な森を出よう。
幸い、遠くからでも城みたいなものが見えていたので、そこを目指して歩くこと一時間弱。
倒れました。
魔界の空気が合わなかったんでしょうね。どんどん具合が悪くなっていくのが自分でもわかった。しかし城は遠かった。全然近づいて来ないんだもん。ぱったり倒れてああ、死んだなって思ったけど、目を覚ましたら知らない天井が見えた。黒い石の陰気な天井。半身を起こして部屋を見回そうとしたら、びっくり仰天。横の椅子に誰かいた。
は? 生きてる?
率直な感想はそれ。すっっっっげぇイケメンが腕と脚を組んで座っている。さらっさらの髪となっっっがい睫毛は白銀、頬も真っ白。色素薄い。寝ているのか目を伏せているためじっくり観察するも、呼吸している感じがしない。
頬に手を伸ばしてみた。触れると柔らかいが冷たい。死体か? と思ったら、ぱちんと目を開けたので手を引っ込める。切れ長の目は金色で、中に白銀の炎がゆらゆら揺れていた。
「ああ、起きたか」
いい声をしている。当たり前か。乙女ゲームの売りのひとつだし。
「貴方が私を助けてくれたのですか?」
とりあえず訊いてみた。たぶん彼は魔族だ。人間に友好的かどうかわからない。イケメンはなぜか少し間を置いて頷いた。
「近くの森に懐かしい魔力を感じたのでな。出向いてみたらお前が倒れていた」
「そうでしたか。ありがとうございます。助かりました。私はアレクサンドラ・アルバースと申します」
ぺこりと頭を下げると、ふむ、となにか納得した様子だ。
「だからか。おい、アレキサンドライト」
イケメンが私の守護獣の名前を呼んだ。ふわり、と私の右手に緑色の光る蝶が現れた。イケメンが手を差し出すと、そちらへひらひら飛び移る。
「その子をご存知なのですか?」
「顔見知りだ」
蝶に顔見知りという言葉を使うのはどうなのでしょう。一瞬そう思ったが、魔族だし、と思い直す。イケメンはアレキサンドライトを目の高さまで持ち上げて「大分弱っているな」などと話しかけている。すっげぇ絵になるなぁと見とれていると、イケメンは私に視線を戻した。
「アレクシア。君はアレキサンドライトと秘術で繋がっているな?」
「はいそうです」
私の住む国、ゲート・アインの貴族は、生まれた時にとある儀式を行う。魔界から魔族を召喚して守護獣とするものだが、秘術というのはそのことでしょう。ちなみにその守護獣の名前を自身の名前に組み込むので、イケメンが呼んだアレクシアというのが私本来の名前だったりする。呼ばれた時ちょっとドキッとした。
「そうか。ではアレキサンドライトが本来の力を取り戻すまで、この部屋からあまり出ないように」
「え?」
「魔界は今、障気に溢れている。ただの人間である君が外を出歩くと、また倒れるし最悪死ぬ」
「死にたくありません出ません」
即答すると、ふっと小さな息を漏らした。笑った……のだろうか。
「よろしい」
イケメンはそれだけ言うと立ち上がり、部屋を出ようとしたので思わず「あ」と声を出していた。戸口のところで振り返る。
「どうした」
「貴方の名前は?」
「……アルギュロスだ」
「アルギュロス様ですか。わかりました」
私が頷くと、なぜかまた少し間を置いてから出ていった。残された私の周りをアレキサンドライトがひらひら舞っていた。




