弟らしいですが
「うにゃん! うにゃにゃ、にゃにゃにゃ!」
「にゃーん。にゃんにゃん、にゃーん」
「そうか」
シュールだ。
現在、エルエムエス三人娘とミラは別室で事情聴取を受けており、部屋には少年と二匹の猫、私、アントニオ、アルギュロス、呼ばれてきたエドガーがいる。エドガーは少年から事情を伺っており、アントニオはその内容の書き取り。アルギュロスは……猫と話している。
「あの、アルギュロス様? こちらの猫は……」
「うにゃにゃにゃ!」
「ひえっ」
アルギュロスに話しかけたら黒猫に威嚇された。よく見たら右目が青、左目が金で色が違う。すると隣の白猫が前足でぱしんと叩き、やれやれという風に溜息を吐いた……ように見えた。
「アレクシア。君には二人の言葉は聞こえないのだな」
「そうですね。可愛らしくにゃんにゃん鳴いているように聞こえます」
「ではこうしよう」
パチン、とアルギュロスが指を鳴らした。すると。
『おい人間! オレ様に向かって可愛らしいとはなんだ!』
『外見は猫なのだから当たり前でしょう。どんなに威嚇したところで猫は猫よ』
「まあ」
黒猫と白猫の会話が聞こえてきた。魔族だろうと見当をつけて礼をする。
「これは失礼いたしました。アレクサンドラ・アルバースと申します」
挨拶しても黒猫はツンとそっぽを向いた。白猫の方はぺこりと頭を下げる。
『ご丁寧にありがとうございます。わたしはルシア。こっちはアルビレオです』
「ルシア様……?」
どこかで聞いたような。と記憶をひっくり返していると、先にアルギュロスが答えをくれた。
「魔王四天王の一人『氷結の天使』ルシアだ。こっちのアルビレオは大将軍『黒炎の悪魔』私の弟にあたる」
「え!? 弟!?」
ぎょっとして黒猫を見れば、フンと鼻を鳴らされた。
「信じていないか」
「ま、まあ……。貴方がおっしゃるのならそうなのでしょうけれど、にわかには信じ難く……っ!?」
がし、と頬を挟まれてホールドされたかと思うと、アルギュロスの端整な顔が目の前に迫った。つい目をつぶると、瞼の裏に映像が閃く。黒炎を纏って闊歩する青年と、光の輪を頭上に戴く女性の姿だ。顔を合わせる度に二人は口論していて――。
ぐい、と腰を引かれた。映像も消える。目を開けると満足そうに瞳の炎をゆらゆらさせるアルギュロスがいた。
「なにをしている」
頭の上から聞こえた鋭い声はエドガーのものだ。ということは、今私を抱えているのはエドガーか。アルギュロスはククッと笑った。
「私の記憶を見せていただけだ。額を合わせてな」
あ?
一拍置いて状況を理解し、頬が熱を持つ。一瞬エドガーの拘束が緩んだ隙に逃げ出すと、視界を掠めた髪が薔薇色になっているのが見えた。ああもう。
「わっかりました! ええ、確かに弟君であらせられましたっ!」
無理矢理話を戻す。エドガーがアルギュロスを睨んだままだがそれどころではない。……アルビレオは人間を滅ぼそうとする過激派。対してルシアは親人間派の魔族。見せられた記憶の中では喧嘩ばかりしていた二人がなぜ猫になって一緒にいるのか。それはアルギュロスも疑問だったらしい。
「ルシア。もう一度経緯を語れ」
『はい。魔界が封印された後、先に障気にやられたのはわたしでした。わたしはそのまま魔界と心中するつもりでしたが、秘術という抜け道を見つけたアルビレオにより無理矢理こちらへ送られました。宿主となった少女が亡くなってからは魔獣王の温情により魔獣として転生、宿主だった少女の子孫を守護し行動を共にしています。今回はそのレナスが空間転移魔法の実験をしたところ、懐かしい気配を感じたのでそちらに意識が引っ張られた故に起きた事故です』
「愚弟とはなぜ一緒にいる? お前は特に仲が悪かったと記憶しているが」
アルギュロスの質問にルシアはそわそわと尻尾を揺らした。
『あ、はい……。実は恋仲でして』
「は」
アルギュロスが呆れびっくりした。ルシアがてしんてしんと尻尾でテーブルを叩く。
『わたしもびっくりしてるんですよ! でも、はい。なんかそういうことになりまして。どう申し上げればいいのか』
あわあわしているルシアに、ふとアルビレオが近づいてその首筋を舐めた。ルシアが閉口する代わりに、アルビレオがギンッと睨みつけてきた。
『ルシアはオレのもんだから。そこんとこよろしくな、兄貴』
「……すまない、ルシア。苦労しているだろうが引き続き面倒を頼む」
『それは、はい。喜んで……』
仲睦まじく尻尾でてしてし叩き合っている二匹に微妙な顔を向けていると、いつの間にかこちらに来ていた例の少年が口を開いた。
「おれ達……なにを見せられてるんだろね……」
全く知らない国の人でもその感覚は同じらしい。ちょっと安心した。




