お茶会サプライズです
「お招きありがとうございます。エルディアナさん、エムリニアさん、エスプリッサさん」
私は左から順に声を掛けた。キツそうな赤髪の長身の少女がエルディアナ、ほんわかしている金髪のおっとり少女がエムリニア、クールな白髪の小柄な少女がエスプリッサ。エル、エム、エス。よし、わかりやすいぞぉ。
お茶会に集まったのは私と、ミラ、アントニオ、おまけのアルギュロス。それとなぜかシルヴァ。
「アントニオ様からおもてなしの勉強にどうかと言われまして。メイド長から許可はいただいております」
「アルバース家の客人に失礼があってはいけないし、学園で経験を積んではどうかと思ったんだ。サロン棟で給仕の訓練ができるように取り計らってある」
出るわ出るわ、驚きの新事実。シルヴァが学園にちょくちょく通ってくることになるのは嬉しいけれど。
「あなた達、いつの間にそんな仲良くなったの?」
「そんな……普通ですよ、普通」
少し笑って指を組み替える。家族にしかわからない、動揺した時の癖だ。いつの間にそういうことになったんでしょ。シルヴァはぺこりと礼をして仕事に戻った。残った全員が席に着いて、お茶会開始。
「それで、そちらの方がアルギュロス様?」
単刀直入に訊いてきたのはエルディアナ。私は頷く。
「ええ。聞いているとは思うけれど、魔族の方ですの。マナーには疎いので多少はお目こぼしいただけると」
「構いません。アレクサンドラ様が同席させる方ですもの。信頼しています」
「そうですねぇ。えっと、綺麗な方ですねぇ」
エムリニアがぎこちない笑顔のまま同意する。エスプリッサはただこくりと頷いた。この三人はこの調子であるらしい。アルギュロスは意外にも上品な仕草で紅茶を口にしている。会話に加わる気はないようだけれど、僅かに目元を和らげて瞳の中の炎を踊らせたのを見るに、それなりに楽しんでいるみたい。
「では、三人を代表して私が礼を。イルコットの双子に忠告してくださってありがとうございました」
エルディアナの掛け声で三人揃って頭を下げた。私はミラと困り顔を披露し合ってしまった。
「私、エルディアナは長身と気の強さが気に食わないという理由で、エムリニアはどんくさくてイライラするからという理由で、エスプリッサは珍しい髪色と口下手なのが理由で、それぞれ目をつけられていたのです。一つ一つは小さな嫌がらせでしたが、こうも続くとすっかり参ってしまっていて……」
「お三方共に、実家では微妙な立場だったと聞いていますわ。むしろ、親戚の非礼を私は詫びなくてはなりませんわね。ごめんなさい、気づくのが遅くて」
「僕も謝罪します。あれでも一応実の姉ですから」
三人共災害の被害や当主の失政で崖っぷちの領地経営をしている子爵家の令嬢だ。それでも二人で謝ると、三者三様に首を振る。微妙な雰囲気を吹き飛ばしたのはミラだった。
「ね、せっかくのお茶が冷めちゃいますよぉ。いただきましょ!」
「そうですわね。いただきましょう」
気を取り直してお茶会開始。食器はバルバドス領の、お菓子はマーゴット領の、紅茶はコケット領の名産品であるらしい。彼女達が心を尽くして用意してくれたのがわかる。……まあそれ以外の打算もあるでしょうけど。
「これほどの良品、埋もれさせてしまうには惜しいですね」
アントニオがそう口にすれば、一番わかりやすいエムリニアが複雑な顔になる。そしてとうとう耐えられなくなって「ご、ごめんなさい」と謝ってしまった。
「わ、私は……領主の娘として領民の生活を支える義務があります。申し訳、ありません」
「いいえ、エムリニアさん。お三方は自身の領の名産品に自信があるからこそ、こうしてお出しになっているのでしょう? アントニオもお世辞でわざわざ話題にはしませんもの。ねぇ?」
「そうですね。率直に言うと、最高級品と称するにはまだまだ改良が必要です。しかし、民の嗜好品としては推していいと思います。いい品だ。……ああ、これから力を入れれば、勿論最高級品質まで改良できる可能性も十分ありますよ。残念ながら、うちの両親は社交界では地味な部類に入るので上手い宣伝はできませんけれど」
「あ、それなら我がノイヤー商会にお任せ願えませんか? 没落したというお話は知っているかもしれませんが、運搬中の荷を失って大損害を出しただけで腕は確かです」
私達の提案に三人は息を呑んだ。エムリニアどころか三人の顔にはありありとそこまでしてもらうなんて、と書かれている。ずっと黙っていたアルギュロスが鼻で笑った。
「随分親切にするのだな」
「人は」
窘める前に同じように沈黙していたエスプリッサが口を開いた。
「助け合わないと、生きていけないから」
その言葉を受けて、なぜかアルギュロスは私を見た。
「そうだな」
そして、テーブルの上を指差した。菓子でも摘まむのかと思ったけれど、指を差すだけ。
「なにか来るぞ」
そう言うが早いか、テーブルがブワッと光った。広がるのは複雑な紋様。魔法陣と形容するのが正しい。は!? ここで!?
サプライズではないのは絶句する三人の顔を見れば明らか。そしてドンガラガッシャーン! という派手な音を立ててテーブルに降り立ったのは、鮮やかな緑の髪の少年と白と黒の猫二匹。固まった空気の中で少年は目を開く。澄んだ紫の目。
「あ、れ? 座標間違えた……?」
間違いない。説明書に載っていた攻略キャラだ。見ればミラが目をキラキラさせている。が、それよりも問題はこっちだ。
「……なにをなさっているのですか、アルギュロス様?」
アルギュロスは、少年が引き連れていた二匹の猫を捕まえていた。やってはいけない首根っこを捕まえるやり方で。
文章書きの難易度は、登場人物の多さに比例して跳ね上がります。
単純に「誰がどの台詞を喋ったか」がわからなくなるからです。やがて「~と◯◯は言った」という単調な文章になってくるのでつまらなくなります。
その点、ミステリー等はかなり難易度高いです。刑事、犯人、犯人候補が複数必要になるからです。元々私には複数人数を扱う技量がないので、今回相当苦労してます。
なお、ノープロットと宣言している通り、まだ犯人は誰か決めていません(おい)。誰が犯人になるかお楽しみに……?




