不慮の事故です
中途半端なんで、これだけ載っけて犬とタコさん狩りに行ってきます。
私とミラが件のイルコット子爵令嬢達のいる教室に到着すると、アントニオは既に彼女達を連れ出した後だった。
「どこへ向かったかご存知?」
私がクラスの人に尋ねると、ぎょっとされてしまった。あ、やば。噂の公爵令嬢に話しかけられたら怖いよね。怖くないよ~とにっこり笑ってみたら逆効果だった。ミラがすかさず前に出る。
「あの、図書委員会のことでアントニオ様に伝言を預かっているのです」
するとすぐに裏の庭園だと教えてくれた。こういう時委員会とか理由に使えて便利だな。
「私もなにか入ろうかしら、委員会」
「アレクサンドラ様はアルギュロス様の更正を優先させてください」
「そうよね……」
それ以外にもエドガーの嫁探しとかやることはあるのだ。確かにミラの言う通り。
「あ、あそこです!」
ミラが廊下の窓の外を指差した。二階でもちらっとしか見えないような木陰だ。位置を頭に入れてミラの腕を掴む。
「飛ぶよ」
正確な位置さえ把握すれば空間跳躍が使える。月面を漂うような浮遊感の後、会話が徐々に聞こえてきた。
「姉上の悪い噂なんてくだらないと思って放置していましたが……」
「なによ、姉上って……」
「あんたの腕にそれを刻んだのは誰だと……」
ぷつん。
腕の傷の話をする甲高い声が聞こえた瞬間、頭の中でなにかが切れた。即座に着地点を調整する。そして足の裏に確かな衝撃。二人の悲鳴は地面近くから、
「あら、ごめんなさい。着地点を間違えてしまいましたわ」
そう、これは不慮の事故。運悪く着地点にイルコットの双子がいただけ。足蹴にしてしまったのは偶然なのだ。
「な、なんてことを……」
と、ミラが呟くが、貴族令嬢を蹴飛ばしたことを嘆いてはいまい。
「いつまで乗っているのよ!」
「早く降りなさいよ!」
至近距離でぎゃあぎゃあ喚かれてうるさいのと、あくまでも事故を装っていたのでよいしょと降りてやる。サリーリエとナターシャはお互いを支えるようにして立ち上がった。
「お母様に言いつけるわよ!」
「伯父様にかかれば書庫番なんて地味な役職、すぐになくなるわ!」
「そこの平民の娘もよ!」
「アントニオにも仕置きが必要ね!」
あーあー、本当にどうしようもないご令嬢だこと。
呆れすぎてすうっと目を細めてしまう。父の仕事を馬鹿にするなんて許せない。ミラは私が巻き込んでしまったけれど、アントニオに仕置きとは聞き捨てならない。
公爵令嬢の言い回しを練り上げようかというところで、アントニオがクスクス笑い始めた。大嫌いな実姉を前にして、壊れた? 全員が注目する中、アントニオは口を開いた。
「いや、私の姉はつくづくアレクサンドラ姉上しかいないと思いましてね。アルバース公爵家に迎えられてから知ったのですが、姉というものは弟を守るものらしいですね。……それで、お二人は私になにをなさったか覚えておいでですか?」
あ、と私は思った。昔、怯えてばかりだったアントニオに私が毎日のように言っていた。『なにがあってもおねーちゃんが守ってあげるよ~。それがおねーちゃんだからね~』と。前世じゃ一人っ子だったから弟という存在にちょっとテンションが上がっちゃってつい。
「な、なによ……」
「私達に楯突いたらどうなるか、わかっているでしょう……っ」
サリーリエとナターシャの手が煌めく。二人の守護獣は火蜥蜴と水蜥蜴。サリーリエの火蜥蜴が攻撃型でナターシャの水蜥蜴が防御型。二人が揃うとかなり手強いのだけれど………。
「甘い」
アントニオの後ろに巨大なクモが現れた。八本の脚を動かして、器用にサリーリエとナターシャを糸で拘束する。
「私はもう貴女方を姉と思っていません。アレクサンドラ姉上の……アルバース公爵家の敵として認識します。覚悟してくださいね」
サリーリエとナターシャが真っ青な顔で震え上がる中、私は……立って目を開いたまま気絶していた。
私、クモが大の苦手なんで。はい。
私もクモ苦手です。
ちっちゃい頃に顔面にクモの巣かかって以来駄目です。




