違いますから
「それ、ゲームで実際にあることですね」
あむ、とサンドイッチを咥えて、ミラ。いつものランチタイムだけれど、場所は中庭ではなく学内のサロン。私の名義で貸し切りにしていて、ゲームの話をするのでアルギュロスも叩き出している。
「エドガールートですね。エドガーと仲睦まじく話すミラに嫉妬して、雨上がりでぬかるんだ地面に突き飛ばすんです。『ごめんなさい、わざとじゃないのよ。でも田舎育ちの貴女にはお似合いね。その格好でエドの隣に立っていられて?』って」
「真似上手いわね……」
「嬉しいですけど、感心している場合じゃないですよ。アントニオをストレス発散に罵っていたのもそうですし。そのせいでアントニオは自信のない引っ込み思案で本の虫に」
「自信がなくて引っ込み思案の本の虫なのはゲームでもそうなのね。しかもめっちゃ頭がいい」
「でもゲームのアントニオはアレクサンドラのこと嫌いでしたけど、こっちのアントニオはアレクサンドラのこと大好きですよね」
「え、そう? 嫌われてると思ってた。昔っからなにかと割を食わせてたし」
「例えばどんな?」
「遺跡調査に行きたくてこっそり家抜け出した時、私の不在を誤魔化してもらったでしょ。木登りして落ちた時は下敷きにしたし。魔法の特訓に付き合わせて、魔力枯渇して動けなくなった私を運んでもらったこともあったかな。極めつけはクモの糸でハンモック作ってもらったら、足引っかけて反転して宙吊りの姉というトラウマを植えつけた」
「oh………」
ミラがなんとも言えない顔になる。うん、私は割と楽しかったけど、アントニオはどうなんだろ。
「いや、今この話は置いとこう。問題は、やってもいない私の悪行が噂で流れていることよ」
「私達以外にゲーム内容を知ってる人間がいる、ですか」
「いやいや、私は知らないから。ミラ以外にって話」
「そうでした。じゃあそれとなく噂の出所を調べてみます」
この手の調査はミラにお願いするしかない。私は公爵令嬢、変わり者、噂の対象でおまけにアルギュロスがついてくる。目立ってしょうがない。
話は終わったとサロンのドアを開けると。
「あらまあ」
なぜかアントニオがいた。慌てて挙動不審になっている。まあいいや。丁度いいし直接訊いてみよう。
「ねえアントニオ。貴方って私のこと嫌いよねぇ?」
「違います!」
びっくりするくらいの勢いで否定された。ミラが背後からひょっこり顔を出す。
「ドアの前にいたのならストーカーを疑った方がいいかと」
「それも違います! 僕はただ、頼まれて姉上の監視を」
そこまで言って、はっと口を押さえた。頼まれて、監視って。私はこめかみに手を当ててやれやれと溜息をついた。どうせエドガー辺りでしょう。
「まあいいです。でもアントニオ。私には今よくない噂が流れています。それに貴方まで巻き込まれると私は悲しいです。学園ではあまり近づいてはいけませんよ。ましてやこうして後を尾けるなんて」
お説教モードに入ったけれど、アントニオは逆にキリキリと眉を吊り上げた。
「またそうやって姉上は僕を除け者にする……! 姉上によくない噂があるのは今に始まった話ではないですし、昔っから一人じゃどうにもならないものを一人でなんとかしようとするのはやめてください! ……だから目が離せないんですよ」
あ、あれぇ? ポカンとする私の隣でミラがぷっと吹き出した。
「じゃあアントニオ様はアレですか。アレクサンドラ様が危ない目に遭わないように、草葉の陰から見守っていたと」
「違う。草葉の陰ではないよ」
見守っていたのは否定しないんかーい。




