アレクシア様防衛隊【シルヴァ目線】
「シルヴァさん」
「はい」
「これはなんですか」
「掃除です」
アルバース家のメイド長はなんともいえない顔になりました。そう、ただいま私はアルバース公爵邸でアルギュロス様にあてがわれたお部屋の掃除をしております。
「普通にできませんか?」
「これは普通ではないのですか?」
「違いますね。普通にやっていたら部屋は燃えません。これは掃除ではないですね」
「なんと」
これは驚きました。一番手っ取り早いので、部屋を白銀の炎でさっと炙って埃を燃やしていたのですが、これは掃除ではなかったようです。
「では掃除を教えていただけませんか」
お願いしてみると少し驚かれました。そしてメイド長はゆっくり口を開きました。
「では、私からもひとつお願いしても?」
「はい。なんなりと」
という訳で、私はアルバース公爵邸のメイドの仲間入りをいたしました。最初は少し遠巻きにされましたが、メイド長のお願いをこなしてみたら皆様大喜びで迎えてくださいました。アレクシア様のように懐の深い方々でよかったです。
ですから、人間界での暮らしは概ね満足しているのです。目下悩みの種は、アルギュロス様のぐうたら具合です。私はアルギュロス様と記憶を共有していますので、あの方が昔はバリバリ働いていたことを知っています。なぜあのようになさらずアレクシア様にご迷惑をおかけするのでしょう。理解に苦しみます。
私はアレクシア様のお世話の為に作られた個体故、アレクシア様を第一に考える傾向にあるようです。アルギュロス様の性格の悪さを考えると、人間らしく溜息のひとつもつきたくなるものです。
「「はぁ……」」
おや、偶然にも溜息をつく人がもう一人。亜麻色のふわっとした髪に緑色のくりくりした瞳の可愛らしい少年です。確か、アレクシア様の弟君でしたね。廊下を掃除していた私を見るなりぎょっとしています。アルギュロス様をご覧になっても眉ひとつ動かさなかったアレクシア様とは大違いですね。弟君は気まずそうに目を逸らすと、自室に引っ込みました。
「あ」
私がそう呟いた瞬間、顔面蒼白の弟君が飛び出して参りました。先程の遠慮はどこへやら、私の肩をガシッと掴みます。
「なになになに!? あれ君の仕業!?」
「はい。申し訳ありません。本日は繕い物をしていて掃除の時間が遅くなってしまい」
今、弟君のお部屋は私流掃除術の洗礼を受けています。というのも、弟君の守護をしているアントリオンはクモの魔獣なのですが、夢でうなされたりすると部屋中を糸だらけにしてしまうそうなのです。メイド長にお願いされたのは、糸だらけの部屋を掃除することでした。
「シルヴァと申します。魔界でアレクシア様のお世話係を務めておりました。今はアルギュロス様のお世話係です」
「あ、そう……。ええと……。アルギュロス、様について訊いてもいい、かな?」
様付けを躊躇ったということは、アルギュロス様にいい印象はないのでしょう。もしかしたら、姉のアレクシア様に近づいて欲しくないのかもしれませんね。
「はい。私に話せる範囲でしたらいくらでも。生成時にアルギュロス様とは記憶を共有していますし」
「え?」
「ああ、申し遅れました。私、あの方の髪から生成された使い魔なのです。ですが、なによりもアレクシア様を優先いたしますのでお気になさらず」
「……主に対して随分だね」
「あんなぐうたらよりもアレクシア様を優先させるのはおかしいことでしょうか」
「ぐうたら……」
「事実でしょう。それにここ最近、アレクシア様にベタベタしすぎではないかと思うのです」
アルギュロス様が過度なスキンシップを行うと、アレキサンドライトが反応してかアレクシア様の髪が薔薇色に変わることが判明いたしました。それが面白いのかアルギュロス様はことあるごとにアレクシア様にベタベタしております。アレクシア様もきっとご迷惑でしょう。
「なので、学園ではアントニオ様がアルギュロス様を監視していただけると助かります。学園へは私、お供できませんので」
「そう……そうか。僕は君のことを誤解していたみたいだ」
「そうですか」
「できれば、アルギュロスから姉上を守る為に協力して欲しい」
「私にできることであれば、なんなりと」
種族は違えど、弟君と私は同一目標を掲げる同志になったようです。




