それなりに楽しく生きてます!【ミラ目線】
ゲームだけど、ゲームじゃない。
私はこの世界にヒロインとして転生したが、誰かを攻略しようとは思わなかった。誰がどんなトラウマを持ってて~、コンプレックスを持ってて~、というのは勿論知っている。けれど本人が踏み込まれたくないものを利用するようかことはしたくなかった。
まあ、せっかくだしお友達くらいにはなりたいから、少し利用したりもするけれど。だからこうして様々な委員会の雑用とか積極的に引き受けている。
「姉上、そんな男に差し出すハンカチなどこの世に存在していません」
身も凍りそうな冷たい声にぎょっとして目を向けると、アントニオは窓の外を見てギリギリと歯軋りをしていた。中庭ではアレクサンドラ様がアルギュロス様の顔にハンカチを押し当てていた。
「そんなの本人の自由だと思いますけど」
意見すると、はっとこちらを見た。まるで自分が声に出していたことすら気づいていなかったかのような。私は落ち着いて彼の情報を思い出す。
アントニオ・アルバース。一人娘のアレクサンドラが王家に嫁ぐ可能性が出てきた為、遠縁のイルコット子爵家からアルバース公爵家の養子に迎えられた。実家のイルコット子爵家で実の姉二人にいじめられていたこともあって、気が弱く女性不信。義理の姉のアレクサンドラにもいじめられているが、ヒロインがそれを助ける……。
はずだが、アレクサンドラ様はいじめていないだろうし、アントニオ自身も義姉のことを嫌っていないようである。
「アントニオ様はアレクサンドラ様のこと、どうお思いですか?」
思いきって尋ねてみた。アントニオは僅かに目を泳がせた。
「……強くて優しい人だと思うよ。背中にあんな酷い火傷の痕があるのに、もう痛くないからってああして笑ってる。なのに、僕が怪我をしたりすると、まるで自分が怪我をしたみたいに悲鳴を上げるんだ」
ぎゅ、と袖を伸ばそうとするのは無意識だろう。アントニオの腕には実姉につけられた傷痕がいくつもあるはずだ。本来ならヒロインのイベントである慰めも、先にアレクサンドラ様がしてしまっているらしい。ゲーム内容は知らないと言っていたのに、そこは流石佐野先輩だと舌を巻く。
「あの、ミラさん。アルギュロス、様のことどう思う?」
様付けに抵抗があるのかもしれない。アントニオは妙なところで区切った。
「アルギュロス様ですか。普通に接している分には普通の方だと思います。あの気だるげで厭世的な雰囲気も、貴族社会のような堅苦しさや平民にありがちながっつく感じもなくて、艶かしいといいますか」
「艶かしい……」
呆然と繰り返したかと思うと、ぎゅうっと眉間にシワを寄せた。いけないいけない。推しキャラなものでつい熱が入ってしまった。
「あ、いえ、そりゃ世界を滅ぼすくらい強い力を持っている方ですし勿論怖いっちゃ怖いですけど」
「え」
「あ、アントニオ様は知らないのでしたっけ」
「恐らくアレクシアと一部の人間しか知らないであろうな」
答えたのはアントニオではなかった。振り返ると白銀の髪を揺らして、アルギュロス様が本棚の間に立っていた。アントニオが固まる気配がするが、アルギュロス様は意に介さない。
「未来が見えると言ったな。そのせいか? それとも……ミランダ様がそう言ったのか?」
ミランダ、はヒロインの守護獣で違いない。私は質問の意図に気がついて静かに首を横に振った。
「私にはミランダ様の魔剣が偶然もたらされただけです。お話することはできません」
魔剣と共に魔王ミランダの残留思念は残っているが、それは留守電のようなものにすぎない。アルギュロス様は炎がゆらゆら揺れる瞳を伏せた。
「そうか……」
「はい。でも『どうか自分のせいだとは思わないで。そしてこの先、貴方が守りたいものと出会ったら次こそは手離さないようにね』」
魔王として気高く散ったミランダが最期に言った言葉。本来ならそれはミラを守る理由になるはずだった。けれど今のアルギュロス様ならきっと。
アルギュロス様は少し間を置いた。これは動揺したり照れたりした時の癖。魔王の右腕たる彼はほとんど表情を動かさないから、ちょっとした仕草や瞳をよく見ないと心情がわからない。
……思ったよりも難しいな。
「そうか。ご忠告痛み入る」
ミラも設定ふわっふわしてますね。
反省します。




