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観察対象【アルギュロス目線】




 ぱしぃん!


 気持ちのいい音が左頬で弾けた。思い切り腕を振り抜いたアレクシアは、怒りと羞恥に瞳を潤ませていた。


「唇にするものではありません」


 形容するなら『ぷんすか』というような具合で、薔薇色になってしまった髪を困惑気味に手で梳いている。また唇を尖らしかけるが、先程のことを思い出したようで慌ててやめていた。


 言われなくとも知っている。


 途中から数えるのも面倒になってやめてしまったが、これでも齢は千を越えている。その間人間の栄枯盛衰を見てきたのだから、アレクシアが思っているより私は人間に詳しい。ただ、王子の挨拶を受けて困惑するアレクシアを見ていたら、少し魔が差した。それだけだ。


 つう、と口の端から流れた血を拭いながら、飛んでくる殺気を威圧する。私を叩いたアレクシアへ魔獣達が向けてきたものだ。私が楽しんでいるのだから問題ない。

 と、口元にハンカチが押し当てられた。髪色が元の暗緑色に戻ったアレクシアだ。申し訳なさそうに眉を下げている。


「あの、申し訳ありません」


「問題ない」


 先程不意を突かれて唇を奪われたというのに殊勝なことだ。それにしてもこの少女は隙がありすぎる。だから王子にも易々と接近を許してしまう。そのくせ、貴族令嬢らしからぬ芯の強さや作り物ではない表情で人を惹きつける。反応が面白くてついつい色々試してやりたくなる。


 ハンカチを受け取るついでに手首に口づけると、逆の手で前髪を掴まれた。ムッとした表情で「おいたが過ぎます」と怒られた。また根元付近の髪が薔薇色になっていたのは黙っておく。


「それにしても、魔族の方も血が赤いのですねぇ。見た目もそうですし、人間とそう変わらないではありませんか」


 興味津々に呟くアレクシアは、なかなか鋭いところを突いてくる。だが魔族の成り立ちなどタブーに触れるので「人間などと一緒にするな」と適当に答えておく。話したところでもう誰に咎められる訳でもないが、わざわざ言う程のことでもないだろう。


「アレクサンドラ様~!」


 ぱたぱたと、先程ミラと名乗った少女が戻ってきた。


「はしたないので走るのはおやめなさい」


 注意するアレクシアだが、彼女の方こそ魔界で猛ダッシュしていたはずである。普段から体を鍛えていなければあのスピードは出ない。今は澄ましているが、規格外の令嬢であることは確かだ。


「ごめんなさい! 図書委員会のお仕事をお手伝いすることになりまして」


「そうなの、ご苦労様。私のことは気にしなくていいから行ってらっしゃい。ただ、お昼は抜かないようにね」


「はい!」


 ふわふわと桜色の髪を弾ませながら駆けていく。彼女から感じる気配、あれは――。


「気になるのでしたら、ついて行ったらいかがです?」


 アレクシアが提案してきた。ふむ、と自分の中で精査してみて、乗ってみるのもよかろうと結論を出す。


「そうしよう」


 ミラの後を追っていく。途中でふと振り返ると、アレクシアは既に背中を向けて昼食に移っていた。


 少し、面白くない。







アルギュロスはめっちゃ性格悪いです。

元々悪役の設定だったせいもあると思いますが、実は書いていて作者が一番こいつのことわかってません(爆笑)


物書き仲間に送りつけて考察してもらおうかな……いや恥ずかしいな……

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