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私達ならできます




 悪役令嬢本気モードなるものを、私は使ったことがない。どうしたら使えるようになるのかなんてわからない。


「なんでかな、アレキサンドライト」


 ベッドに入り、胸の上でリボンのように止まっているアレキサンドライトを見つめる。その翅の開閉を見ていると、眠くなってきてすとんと眠りに落ちた。


 また、変な夢を見た。


 私は籠の中にいた。これからまた、違う人の手に渡る。私は私に値段がつけられるのを静かに待っていた。もう慣れたものだった。悲しいとは思わなかった。けれど、白銀の炎が全てを燃やしていった。逃げ惑う人々は口々に『白銀の悪魔』と叫んで燃えていった。私は熱風に煽られ上空へと舞い上がった。


 そこにアルギュロスがいた。


 尖塔の天辺に立ち、白銀の炎が街ひとつを飲み込むのを無表情で眺めていた。けれど私を見つけるとふっと目を細めた。


『自由に舞え。その方がお前は綺麗だ』


 なぜだろう。言われ慣れていたことなのに気分が高揚した。アルギュロスの瞳の奥、炎がゆら、ゆらと優しく揺らめく。


『なるほどな。確かに閉じ込めておきたくもなる』


 ふわりとアルギュロスに近づく。それだけで白皙の頬は薔薇色に染まる。でもその横顔はなんて哀しそうなのでしょう。こんなに優しい人なのに、なぜこんなことをするのでしょう。


 わたしは知りたい。この人のことを。


 籠がなければ私は自由だった。大好きな花畑に甘い湖。でも一番のお気に入りはあの人の隣。わたしが姿を現すと、ほっとしたように微笑んでくれる人。いつも一人で抱え込んで、孤独に過ごしている人。

 わたしは絶対、貴方を一人にしない。けれど、わたしじゃ駄目だ。言葉ひとつ掛けてあげられない。疲れた肩を支えることもできない。できるのは、寂しさを埋めてあげることだけだった。それももう叶わない。障気が体を蝕んでいく。もう綺麗じゃない。綺麗じゃないわたしは見られたくない。でも、それでも会いたい。


『アレキサンドライト』


 私はその名を呼んだ。周囲の映像が消えて、真っ暗になる。目の前には、優雅に舞う緑の蝶。途中から気がついていた。これはアレキサンドライトが見てきた世界。アルギュロスへの想いだと。


『ずっとずっと、会いたかったんだね。アルギュロスに』


 尋ねると、その軌道は円を描く。だから無理をして私を魔界へ連れて行ったのだと、今ならわかる。移動した時アレキサンドライトはいつも弱っていた。それでも一旦人間界に戻って来たのは、宿主である私が弱っていたのと、アルギュロスに寂しいと思って欲しかったというちょっとした乙女心。


『ね、私達ならできるよ。寂しんぼな怠惰の魔王様のところに飛んでいこう』


 パアッ、とアレキサンドライトが薔薇色に光る。ミラが言っていた。アレクサンドラがミラに罪を着せた方法。


 ――ミラは桜色の髪をしているでしょう? 悪役令嬢本気モードになったアレクサンドラは、空間跳躍する時に髪が薔薇色になるんです!


 桜色と薔薇色。一瞬見ただけでは区別はつかない。そして空間跳躍という能力を使ったアリバイ工作をしてミラに罪を着せるのだと。私はそんな残念な使い方はしない。

 アレキサンドライトが私の中に吸い込まれるように消える。魔力の流れはそれこそ蝶の翅のように。あの白銀の炎目指して飛んでいく。


 ああ、ほら。


 見開かれた黄金の瞳、動揺して揺らめくそれ。


「お久しぶりです、アルギュロス様。まだ貴方の趣味が決まらないので戻って参りました」


 近づくと、白皙の頬を薔薇色に染め上げる。私の髪が光っているせいだけど。アルギュロスはふっと目を細めた。


「趣味ならできた」


「まあ、それはよかったです。お聞きしても?」


「アレクシアという人間の観察だ」


「えっ」


 それはちょっと予想してなかった。







人間観察も立派な趣味ですよ!!!

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