3ー27
状況についていけない私は、唖然としたまま、仲間達を見ています。皆さんも頭から砂を被ったらしく、身体中が埃だらけです。口の中にも砂が入って、少しジャリジャリします。
「ゴホッ、あの・・・彼らは・・・何で急に消えて」
何処かへと、消えてしまったのです。未だに唖然としたままの私へ、雅君が教えてくれました。
「真由合さんが、張り切り過ぎたんだよ・・・まったく」
呆れを含ませた苦笑気味なのは、仕方ないと思います。今回のやらかしは、張り切っちゃった真由合さんが、力加減を間違えてしまったが故に起きた、事故みたいですね。一流の術者ですが、力が入りすぎるのが、たまに傷です。
当のご本人は、やらかした自覚があるらしく、珍しく、項垂れていました。
「はぁ・・・、どうしましょう? まさか、宿っていた品物を置いて、何処かに飛んでいくとは思っていませんでした」
私も困り果てて呟きました。そう、我々が困っているのは、品物が置き去りにされているからです。普通、こういった宿るタイプの霊は、体の代わりである品物からは、絶対に離れません。それがどうでしょうか。あり得ない事が、目の前で起きてるのです。
「追いかけるのは、二人がやってるし、僕らは取り敢えず、品物を片付けてから動こうか」
妙に達観した雅くんの提案に、場は動き始めます。と言っても、下に書いた魔方陣を消したり、道具の片付けなので、手慣れた我々はものの数十分で終わります。
一番面倒なのが、駐車場のアスファルトに直接書いたチョークの魔方陣です。水道を借りて、さっと水で洗い流します。落ちないところをブラシで擦ります。手慣れてるので、あっさりと終わりました。
という訳で、終わった我々は、車の前でまた集合しています。
「まだ、二人から連絡きてないのよねぇ」
不機嫌さながらに、髪をかきあげたのは、真由合さんです。美人なだけに、さまになっています。砂だらけですけど。
「矢上さんが運転だっけ?」
雅くんに確認された龍崎さんが、僅かに頷きました。そういえば、うちの事務所は自動車免許持ちが、多いんでした。私と雅くん、水島くんは、持っていませんけど。
因みにですが、一番運転が静かで上手いのは、龍崎さん。一番運転が荒いのが、真由合さんです。矢上さんは初心者マークが付いてましたっけ?
「そろそろ、連絡が来てもいいはずなんだけど・・・」
訝しげに雅が、スマホの画面を見ています。と、付近を見ていた真由合さんが、夜空の一角を眺めながら、目を細めます。
「あら、雅様・・・式が此方へ来てますわ」
夜でも夜目が効く術者なだけあって、直ぐに皆さんも気付いたようです。私も、眼鏡は外していますから、はっきりと見えます。
それは、夜空に浮かび上がる白い鳥の式でした。満月の光もあって、くっきりと白い姿は暗闇に浮かび上がっています。術者の霊力から見て、矢上さんみたいです。式は陰陽師の十八番ですからね。美しい白い鳥は、真っ直ぐに龍崎さんの手元へと降りてきました。
それは、直ぐに小さな四角い紙になります。龍崎さんは、さっと紙に目を通します。
「ほう・・・雅様、矢上が見つけたようです、場所はこの先のダム、そこで対峙してるようです」
頭の中で、近くの地図を思い浮かべます。確か、ここから30分くらい車で行った場所だったはずです。
「行こう」
雅くんの一言で、我々は動き始めます。これが最後なんだと、直感した瞬間でした。
◇◇◇◇◇
行きの車の中は、シーンと静まったままです。五人乗りの普通車は我々を乗せ、田舎にしては広く綺麗な道を、ダムに向かって走っています。とはいえ、辺りはうっそうとした森の中ですが。因みに、道具等を乗せたワゴン車は、先程の場所に置いてきました。
運転は勿論、安全性と信頼が高い、龍崎さんがやっています。勿論、ドライバーを巡り、ちょっとばかり言い合いがありましたが、雅くんの鶴の一声であっさり決定しました。
真由合さんの運転は荒いので、内心ホッとしたのは内緒です。
助手席には、清流院さん、後ろには、左から私、雅くん、真由合さんです。
車を走らせて、それなりの時間が過ぎた頃。辺りが少し、開けました。
「・・・あら、また式が来たわ」
窓の外を見ていた真由合さんが、ポツリと呟きました。夜目が効くにしても、ちょっと凄い気がします。だって、真っ暗な中に飛ぶ小さな白い鳥ですよ? やはり、一流の陰陽師は、違う物を見てるんでしょうか?
・・・・・時々、私はどうなのかと、悩んでしまう時があります。だって私は、術者と呼ばれる事もなく、ただ視るだけの人であって、祓ったりも出来ません。中途半端なんです。本当に、ただ視るだけ。お役に立つには、少々、心許ないです。
私が少しボンヤリしてる間に、白い鳥の姿の式は、いつの間にか文の姿になって、真由合さんの手にありました。
「面倒ねぇ・・・、辺りに力の影響が出てきてるわね」
忌々しいとばかりに、顔をしかめています。美人さんは、どんな表情でも、絵になります。
「・・・矢上さん、結界張ってるかな?」
雅くんの呟きに、僅かに期待が込もっていますが、果たしてあるのでしょうか? 意外に抜けていますからね、矢上さん。白木さんが一緒に居るので、大丈夫だとは思いますが、ちょっと不安なんです。矢上さんも、白木さんも一流の術者なんですけど。
「白木が張ってると思うわよ? 仏教信仰は、陰陽師よりも自然の中が力は働くそうだし」
真百合さんのぼやくような話が出ますが、適当な会話に聞こえるのは、気のせいでしょうか?
「見えて来ましたよ、ダムの駐車場です」




