第二十五話
「随分とお優しいことだ。さすが、お伽話にもなる騎士、というところだな。」
完全に怒っている。顔には少ししか出していないが、言葉のいくつかに嫌みがこもっていた。
覚悟をしていたがまさかこんなにお怒りになるとは…。
「先に言いますが、別にお伽話に憧れてやった訳じゃないですよ?」
「へぇ、そうだったのか。」
肩をすくませながら言ったら、全く信じていないというように返事が返ってきた。
「あの子が実行犯ではなく捨て駒なのは明らかでしょう?それなのに捕えて聞き出しても意味が無い。」「ただ単に偽っているだけかもしれない。」
「私が助けずに団長さんがあの子を捕える確率の方が大きいのに?偽った方のリスクが高すぎる。やる意味がない。」
そのまま睨み合い、暫くして団長さんが折れてため息を吐いた。
「・・・わかった。確かに騎士殿の意見の方が現実的だ。けどな、オレが言った可能性もない訳じゃない、そこのところはちゃんと頭にいれといてくれよ?」
「わかっていますよ。今怒ったのも私の身を案じているからというのも含めてね。」
「なんだ、分かってたのか。」
苦笑い混じりに言われたが、今の会話の裏にお伽話の騎士はあり得ないというのが見えていた。鈍い人でなければわかる。
「じゃあ俺は仕事に戻るわ。部屋から出るんじゃないぞ?」
ガシガシ頭を撫でられながら返事をすると『ほんとだろうな?』と疑われた。
そこまで疑わなくていいと思うんだ。頭撫でてる力、強くて痛いし。
ひとしきり頭を撫でていって仕事に戻ろうとする団長さんを引き留めた。
「あっ、ちょっと待って下さい。」
「ん?なんだ?」
止まった団長さんにさっき女の子に渡したクッキーとは別のものを渡した。
「あ~すまんが騎士殿。俺ちょっと甘いもんは・・・」
「知ってますよ。これは甘さ控えめのクッキーですから安心してください。」
本当に嫌そうな顔をしている団長さんに苦笑いを送りつつ渡す。
団長さんが甘いものが苦手なのは、国王様と王妃様にマドレーヌの追加を作った時やお菓子を作ってた時に少し離れた所にいたからなんとなく気づいていた。
お菓子や甘いものが嫌いな人はよく似たような反応するからね。
「あとお願いがあるんですけど。」
「お願い?」
渡した袋を覗きながらそう言われた。
変なものを入れたとでも思われたんだろうか?
「あのですね、正直、わりと普通な話し方なのに”騎士殿”って呼ばれるのはなんというか、気持ち悪くて。元々私がそう呼ばれるのが好きじゃないですし。」
「そうなのか?どうせしばらく一緒に行動したらボロが出ると思って、最低限の礼儀としてそう呼んでいたんだが。」
まあ、ボロ出てただろうね。この国の騎士は全体的に言葉が荒い人が多いみたいだし。
「私は特に気にしませんよ。普通に名前で呼んでいただいた方がいいです。」
「そうか、分かった。ユキ、でよかったよな?」
「はい。」
うん、やっぱり名前で呼ばれた方がいいね。
ユキ、ユキ、と何度も繰り返し言って練習している団長さんはふと思い出したほうな顔をして私に向き直った。
「なぁ、俺のことも団長さんじゃなくて名前で呼んでくれないか?理由はユキと同じだ。元々、団長なんてがらじゃないもんでな。」
「そうなんですか?えっと、ロイスさんでいいんですよね?」
「”さん”もいらないんだがな~」
それは諦めてください。
言う代わりに曖昧に笑ってごまかした。
「それでは仕事頑張ってくださいね。」
「はいはい、じゃあな~」
ヒラヒラ手を振りながら仕事に戻るロイスさんを見送って私はさっきの続きの本を読むことにした。
その頃とある廊下にて。
「結局何も見つけられなかったのか。」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ふん、まあいい。次はいい情報を持ってこい。いいな?」
「・・・はい。」
敵は動き出し始めていた。




