異世界編:王国騎士団員になった異世界の私2
# エピソード9 王国騎士団員の組手訓練
王国騎士としての日々は、過酷な訓練の連続だった。
日課として、走り込みや筋力トレーニングを行い、さらに梯子や階段、家屋を想定して組み立てられた訓練設備を、甲冑を装備したまま移動する訓練も行う。
各自の体力が限界に達するまで追い込む。それが毎日の基礎訓練だった。
そこまで終えると、ようやく一息つくための休憩が与えられる。
「きついー!」
王国騎士として日課になった、いつもの一次訓練を終えた私は、修練場の端にある野原に寝転がり、一息ついた。
「でも、気持ちいい……」
一人、呟いた。
「先に着いておいて、私に掛ける言葉もないの?」
少しだけ息を切らせたルート嬢から声が掛かった。
「いえ、お二人とも早すぎます! 体力には自信があったのですが……」
さらに息を切らせたサイラスさんもやって来た。
この五日間、同じ訓練を繰り返していたが、父と毎日行っていた修練のお陰か、私には周りよりも体力的な余裕があった。
前世なら、間違いなくいつも皆の後ろを追い掛けていたはずだ……。
もしかして? 私のスキルって、人より体力が凄いとか、そういうスキルなのでは……!
「一緒に修練した時から思っていましたが、本当に底なしですわ」
やめて! 何だか野生児みたいじゃない!
前世では空調大好きなニートだったんだから……。家着にしていたシャツにまで「ニート」って書いてあったんだから……!
「お二人には感服致します。この基礎体力があってこその実力。改めて、ルートお嬢様と師匠の奥深さを感じました!」
サイラスさん、私はユリカです。師匠ではありません。
「小休憩の後は、体術や剣技を指南して頂けるのがいつもの流れですが、私が聞いたお話では、組手もあるとのことです。実力を示すチャンスにもなりますわ」
やる気満々なルート嬢が、意味深な笑みを浮かべた。
その笑みを見た私は、不安しかなかった……。
「私は、それが見たくて仕方ないわ……。ねぇ、ユリカ嬢!」
出ました! ルート嬢の、自慢のペットを見せるようなシチュエーション!
もし、そのペットが無能を晒したらどうするのだろう?
今日は調子が悪いだけ、と周囲には説明するものの、飼い主には見えない!
自宅に連れて帰った後、自分が寝るまで尋問するタイプの飼い主だ!
嫌だ! ペットに、どうか御慈悲を!
「はい! 私も師匠の実力を目の前で拝見させて頂ける、初めての絶好の機会です! 可能であれば、組手の相手を私にさせて頂けるのが理想です! ぜひとも師匠に蹂躙され、我が至福を頂けることを期待しております!」
サイラスさん、そういう性癖なの!?
ヤバいの! 私、付き合えないから……。
やっぱり、はっきり伝えよう……!
「そろそろ行きましょう」
ルート嬢の声掛けに続いて、私たちは次の訓練に参加した。
まずは剣の素振り。重量のある武器をそれぞれ試すように振り、自分に合った戦闘スタイルを確認する。
次に、徒手空拳での体術を学ぶ。これが、これまでの日課だった。
「それでは、本日から組手を取り入れる! まずは徒手空拳から始める。皆、王国騎士として恥じぬよう、一切の手心なしで相手をするように!」
教官の掛け声に、皆が一斉に指示されたとおりに整列した。
「それでは、各隊列を整えたら、まずは目の前の相手と軽く手合わせをしてもらおう!」
私の目の前にいるのは、初めて見る相手だった。
「ユリカと申します。本日はよろしくお願いします」
相手は一瞬、身をすくませた。
「わ、私、ロマリックと申します。お会いできたことを光栄に存じます。では、よろしくお願いします!」
お互いに構え、基礎的な組み手を行う。
いいリズムだ。基礎がしっかりしている。
こういう場面は、前世では憧れだった。でも今は、父との修練によって、私の日常になっていた。
「隊列、直れ!」
号令とともに、皆が再び整列した。
「それでは、各自、今の隊列から私がいる方角を起点に、二人ずつ前に出なさい!」
私の順番は、まだ先だ。
先に、ルート嬢とサイラスさんが私と同じ隊列から出ていく。
前方の隊列からは、先ほど私と手合わせをしてくれたロマリックさんと、もう一人、大柄な男性が出てきた。
「よろしくお願い致しますわ」
ルート嬢が構えた。
「ルートお嬢様、よろしくお願い致します」
ロマリックさんも構える。
「よろしくお願い致します」
サイラスさんも構えた。
「よろしくお願い致します」
大柄な男性も構えた。
「始め!」
号令とともに、互いが動き出した。
「はっ!」
ルート嬢とロマリックさんは、互いに正拳を繰り出し、一方の手で相手の攻撃をいなす。その後も、次々と突きや蹴りが交差した。
両者とも、無駄のない動き出しだ。
一方、サイラスさんたちの戦いは、大柄な男性が一方的に攻め、それをサイラスさんがすべていなしていた。
受け流しを主体とした戦い方だ。
徒手空拳でも、あの剣技の型と同じだ。父の型だ。
サイラスさんが相手の攻撃をいなしながら、背後に回り込む。
あっ、いつものだ!
父との修練で経験した立ち回りだ。次に決まる!
サイラスさんが流れるように相手の背後へ回り込むと、首元に見事な蹴りを入れた。
決まった!
……いや、相手は一瞬怯んだものの、すぐさま殴り返した。
「痛いな、もう~!」
多少のダメージはあるようだが、身体のキレは変わらない。
タフすぎる、あの人!
サイラスさんはその拳を躱し、再び後頭部に蹴りを入れた。
綺麗に決まっている!
今度こそ……。
流石に相手も片膝をついた。
「痛いな~」
また立ち上がった。
もしかして、魔物の類!?
サイラスさんも、少し苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「次は捕まえるよ」
大柄な男性はサイラスさんに突っ込んでいった。
もちろん、サイラスさんは躱す。
その後も何度か攻撃を繰り出し、傍から見れば決定打と思えるような一撃を当てていたが、なかなか勝負が決まらない。
一方、ルート嬢とロマリックさんは、互いに攻守を繰り返していた。
しかし、ルート嬢の動きが少しずつ速くなる。
「くっ!」
ロマリックさんが押され始めた。
ルート嬢のエンジンが温まってきたな。
最後にルート嬢は足払いを仕掛け、ロマリックさんを転倒させた。
そして追撃に、全体重を乗せた両膝をロマリックさんの胸部へ叩き込む。
「ぐはっ!」
決まった!
「そこまで!」
教官の声とともに、ルート嬢たちの組手は終了した。
一方、サイラスさんは、まだ決め手を欠いていた。
攻め疲れが顔色にも滲み出ている。
「すばしっこすぎるよ~」
大柄な男性は、間の抜けた声を出しながら、相変わらず単調な攻撃を繰り返している。
「そちらも、そこまで!」
教官の声で、こちらも終了となった。
ルート嬢とロマリックさんは互いに礼をし、それぞれの隊列へ戻っていった。
ロマリックさん、あの一撃を受けても立ち上がれるんだ……。凄い!
サイラスさんと大柄な男性も互いに礼を交わし、隊列に戻った。
ルート嬢、ナイスファイト!
サイラスさん、お疲れ様……。
こちらへ戻ってきたルート嬢が、私に声を掛けた。
「次は貴女よ。分かっているわよね?」
その笑顔……怖いです。
ペット、頑張ります!
「それでは続いて、次の二人、前へ!」
教官の声で、私たちは前に出た。
私の隣にいるのは女性……?
いや、男性?
「頑張りましょう、ハイデルお嬢様~。うふっ」
ウインクされた。
あっ、心が女性の方だ……!
身体つきは逞しく、顔立ちも整っている……!
複雑だ。
「は、はい!?」
気を取り直して前を見ると、真っ赤な髪の毛が目に入った。
「よぉ! よろしくな!」
あっ! ヤンキーだ! 不良だ!
ジャンプしても財布はありません!
「よ、よろしくお願い致します!」
慌てて構えた。
隣の相手は、細身ながらもしっかりと鍛えられた男性だった。
「よろしくお願い致します」
相手も構えた。
「あら、可愛らしいわ。タイプね。よろしくお願いするわ」
構えた。
オカマ拳法とかするのかな~?
「始め!」
教官の掛け声とともに、ヤンキーが向かってきた!
素早い!
「やってやるぜ!」
叫びながら、私の顔面に向けて前蹴りを放つ!
私は横に躱した。
ヤンキーはすぐに向き直り、再び蹴りを放つ。
……もう動きに目が慣れた。
また躱し、私は跳び上がってヤンキーの背後に回り込む。
そして、体重を乗せた蹴りを後ろから首元に放った。
「ぐはっ!」
倒れた!
「そこまで!」
先ほどの大柄な男性とは違い、ヤンキーは体力がなかったのだろう。
タバコの吸いすぎは良くないよ。
一方、隣のオカマさんの戦いは、しばらく相手の攻撃を受け続けていた。
しかし……。
「甘~い!」
カウンターの一撃を放った。
相手は、自分の隊列の近くまで吹き飛ばされました……!?
怖い!
「そ、そこまで!」
教官は急いで吹き飛ばされた犠牲者の安否を確認した。
死なないで……。
生きてた!
「もう~、最近の子はひ弱な子ばかり」
いえ! あなたがゴリラです!
……振り向いた!?
心が読めるの!?
「貴女の戦い方、とっても素敵だったわ~!」
またウインクした。
怖かった……。
「いてぇっ!」
ヤンキーが立ち上がった。
多分、根性だ。
ヤンキーは根性で戦う。
すると、彼は私に手を差し出してきた。
……組手は終了ですよ!?
「やるね、お嬢。俺はドンディだ。よろしくな!」
握手かな?
しないとダメですよね……。
「私はユリカと申します。よろしくお願い致します」
握手を躱した。
その後、あの時のアリサ嬢の組手も見たが、圧倒的な立ち回りだった。
素早く、無駄のない動き。上澄みだ。
その後の皆も個性的で、それぞれに見せ場のある組手を繰り広げていた。
あの時のオカマさんの犠牲者は、本当に可哀想だった……。
今日の訓練は、まだ続く……。




