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異世界編:王国騎士団員になった異世界の私3

# エピソード10 王国騎士団員の剣


訓練は続く。次は剣技の訓練だ。


我々、見習い騎士は修練場の片隅に集まり、まずは軽く剣の素振りを行う。


上段から振り下ろす、上段斬り。教官の素振りに合わせて、皆が同じ動きを繰り返す。


次に、身体の横から水平に振るう水平斬り。


続いて、下段から上へ斬り上げる下段斬り。


最後は、前方へ剣先を突き出す突き。


一通りの動作を、ひたすら繰り返す。


時間にして、三十分ほどが経過した。


「よし、一旦休憩!」


教官の声とともに、皆がそれぞれ小休憩を取り始めた。


私はルート嬢と、すぐ近くの芝生がある場所に座っていた。


「木剣の組手も今日はあるわ。分かっているわよね、ユリカ嬢!」


ク~ン……。


やめて、ご主人様。ペット虐待です……。


「徒手空拳の組手では醜態を晒しましたが、剣技なら当たり判定です! 次こそ師匠に恥を晒せません!」


いつの間に後をつけてきたの?


それと、サイラスさん。貴方が負けても、私は何の問題もないよ!


「あ~ら、いいわね。元気があって♪ 前向きな子は好きよ♪」


あっ、オカマさんだ!


サイラスさんが私の後ろに隠れた。


「お疲れ様です……えっと……」


私は立ち上がり、挨拶をしようとした。


しかし、オカマさんの名前を知らない!


「あ~ら、ごめんね、ハイデル嬢。私はカーラよ。よろしく♪」


またウインクされた……。


「本当のお名前は、トーラス家の三男、ガーランドです……」


サイラスさんが私の耳元で囁いた。


「聞こえるわよ! カーラよ! お・わ・か・り!」


指先が、後ろにいるサイラスさんへと向いた。


光線でも出そう!


「ひっ!?」


サイラスさんが後ろで小さくなった。


「カーラさん、私のことは気軽にユリカとお呼びください」


うん、素直にしていれば絶対に大丈夫!


前世のコミュ障だった私とは違う。今の私は、しっかりとコミュニケーションが取れるのだ!


「珍しいわね。貴女が男性以外に意識を向けるとは……。ユリカ嬢は私の物よ!」


ルート嬢のペットです!


……いや、お待ちになって!


「心配しないで。取って食べたりはしないわ」


食べられるのは嫌です!


頭から丸呑みされそうです!


「噂の英雄ちゃんが気にならないとは言わないわ。でもね、私の勘が警鐘を鳴らすの。この子から目を離してはいけない、と」


なんか、ヤバい人に目をつけられた……!?


「どういう意味かは分かりませんけど、変なことをする気なら、全力で阻止します!」


ルート嬢、従順なペットをお守りください……。


「大丈夫よ……。言葉どおり、目を離さないだけよ。安心して♪」


そう言い残すと、カーラさんは去っていった。


そして私は救われた……。


「一体、どういう意味なのでしょうか?」


サイラスさんが私の影から現れた。


私を盾にしたよね!


「変態の考えなんて、分かるわけないわ」


「集合!」


そんなやり取りをしているうちに、教官の号令が掛かった。


「さあ、行きましょう」


私たちも隊列に並んだ。


「剣技では、木剣による一対一の対戦を行ってもらう。今から二組に分かれて隊列を作ってもらっているが、私を起点として左側が第一隊、右側が第二隊だ。それぞれの隊から、対戦する者を五名選抜してもらいたい。五対五の対戦で、先に三勝した隊を勝利とする。今から十分間与えるので、各隊で話し合い、選抜するように!」


各隊八名のメンバーが、教官の指示を受けて話し合いを始めた。


こちらの隊では、ルート嬢を中心に選抜が進められた。


「まずは確実に勝ちに行くために、私が先鋒を務めるわ。どうかしら?」


皆、異論はないようだ。


「次は私が!」


サイラスさんが申し出た。


「皆、それでよくて?」


ルート嬢の問い掛けに、皆が頷いた。


「次は……」


ルート嬢が思案していると、


「私が出るわ……」


カーラさんが前に出た。


「これで三勝できれば文句なしですが、次が重要ね……」


私もそう思う。


三人とも実力者だ。ルート嬢が負ける姿を想像する方が難しい……。


しかし、何が起きるか分からないのが剣の世界だ。


他の実力者は……?


「私が出ましょうか? 剣に関しては、保険になるくらいの実力はあるつもりです……」


先ほどの徒手空拳の組手では、私やカーラさんの次に出ていた小柄な女性だ。


素早い動きで相手を翻弄していた実力者でもある!


「リカメイ嬢。貴女の実力は、諜報団員の技を受け継ぐシンパとして知っています。ですが、だからこそ最後の砦として残っていてもらいたいわ。だからこそ次はユリカ嬢、お願い致しますわ!」


げっ!


リカメイさんでいいんじゃない!


……でも、先に三連勝してもらえば!


「分かりました……。よろしくお願い致します」


どうせ断ることもできないし……。


私は諦めた。


前世では、諦めの速さは音速だった!


「では皆、よろしくお願い致しますわ!」


一方、あちらの隊ではアリサさんが中心となって話し合いを進めているようだった。


「質問、よろしいでしょうか?」


アリサさんが教官に尋ねた。


「何だね?」


「木製であれば、棍棒やハンマー、それから二刀流もありでしょうか?」


その質問に、教官は少し考えてから答えた。


「あー……構わない。そこにある道具なら大丈夫だ」


教官が指差した先には、木製の武具が揃えられていた。


「ありがとうございます」


それぞれ準備を整えた。


「それでは、対戦する者、前へ!」


教官の指示により、両隊から選ばれた五名ずつの騎士が前に出て、向かい合った。


「先鋒、前へ!」


私たちの隊からは、ルート嬢が進み出た。


「はい!」


向こうから出てきたのは、先ほどの赤い髪が目立つヤンキーだ!


……失礼致しました!


ドンディさんだ。


「よろしくっす、ルートお嬢様」


両肩に木剣を担ぎ、前に立つ。


長尺の木剣だ……。


「それでは、構え!」


互いに構えた。


「始め!」


ドンディさんが長尺の木剣を振り回す。


ルート嬢はそれを受けず、体捌きで躱した。


正解だ!


遠心力のついたあの剣技を、わざわざ受ける必要はない。体勢を崩されると厄介だ……。


「へっ、流石!」


ドンディさんが二撃目を繰り出そうとした瞬間、ルート嬢が懐に入った!


決まった!


……いや!


ドンディさんは跳び上がると同時に、長尺の木剣に振り回されるようにして距離を取った!


意外と身体能力は高いが……あれではルート嬢に、ほんの少し時間を与えただけだ。


ルート嬢は続く二撃目も躱し、ドンディさんの首元に木剣を置いた。


「それまで!」


教官の声で終了した。


「あ~あ……やっぱ、駄目か」


ドンディさんが残念そうに呟いた。


「悪くはなかったわ」


ルート嬢が声を掛ける。


「へいへい……。ルートお嬢様には、まだ敵わねぇが、精進しますよ」


互いに礼をして、それぞれの隊列へ戻った。


「まずは一勝」


流石ルート嬢だ!


尻尾があったら振りたい気分だ……。


ヤバい! ペット化してる!


「次こそ、挽回の機会……」


気を引き締めたサイラスさんが、力強く宣言した。


「師匠! 次こそ、勝利を捧げます!」


サイラスさん、それは隊の皆にだよ……。


私は勝ちさえすればいいよ……。


なんか、フラグ臭いし……。


サイラスさんの相手は、ロマリックさんだった!


「構え!」


教官の合図で、両者が構えた。


「始め!」


ロマリックさんが先制攻撃を仕掛けた。


相変わらず、サイラスさんはそれをいなしている。


そんな攻防を、私は見つめていた。


あのロマリックさん、改めて考えると実力者の一人だ。


先ほどの徒手空拳の組手では、相手が悪かったのだろう。


ロマリックさんの攻撃をいなしていたサイラスさんは、試験の時にも見せた、右に円を描くように移動して相手の背後へ回り込む動きを見せた。


しかし、ロマリックさんはすぐさまサイラスさんの左方向へ跳び上がり、突きを繰り出した。


奇襲を受けた形になったサイラスさんだったが、その突きを払う!


だが、ロマリックさんは払われた反動を利用し、回し斬りのような動きでサイラスさんの木剣を叩き落とした。


決まった!


ロマリックさんがサイラスさんの首元に木剣を置いた。


「それまで!」


両者は礼を交わし、それぞれの隊列へ戻った。


素晴らしい攻防だった。


だが、サイラスさんの落ち込みが半端ではなかった。


「申し訳ございません……師匠。私は不貞の弟子です……」


いや、悪くなかったよ。


相手が一枚上手だっただけだよ。


「もう~! 男の子がいつまでもクヨクヨしないの! しっかりしなさい!」


カーラさんのベアハッグ……いや、抱擁が、サイラスさんにとどめを刺した。


サイラスさんは、そのまま膝から崩れ落ちた。


「私が敵を討つわ♪」


カーラさんが私にウインクした。


はい! よろしくお願いします!


カーラさんの相手は、あの時、サイラスさんが決め手を打てなかった魔物……いや、大柄な男性だ!


木製のハンマーを軽々と振り回している……!


あんな物で一撃でも喰らったら、私なんか四肢も吹き飛び、交通事故に遭った子犬のような状態になりそうです……。


安全運転、大事!


「それでは、構え!」


カーラさん、死なないでね!


「始め!」


大柄な男性がハンマーを振り回し、カーラさんを捉えようとする。


カーラさんは普通の木剣で受けることはせず、華麗に躱した。


「ウリャ~!」


大柄な男性が、間の抜けた雄叫びを上げながら何度もハンマーを振るう。


振り抜くたびに轟音が聞こえる!


しかし、カーラさんは次々と華麗に躱していく……。


何か、バレエの踊りに見える!?


……のは私だけ?


「ウフフ♪ 乗ってきたわ!」


大柄な男性が猛攻を続けるものの、一向に当たる気配がない!?


やがて、男性は少しずつ息切れを起こし始めた。


かれこれ十分以上は振り回している。


あの重量を何度も振るえるなんて、やっぱり魔物だ……。


「とウリャ~!」


間の抜けた雄叫びとともに、大柄な男性が上段からハンマーを振り下ろそうとした。


その隙を突き、カーラさんの連続蹴りが首と顔に決まる!


ハンマーを振り下ろそうとした反動もあり、男性は背中から後ろへ倒れた。


「あ~れ~!」


そして、カーラさんはすかさず木剣を首元に置いた。


「それまで!」


お見事!


私は小さく拍手した。


やっぱりオカマ拳法だ。


カーラさんは倒れた男性に手を差し出し、引き起こした。


凄い!


「参ったな~。アリサお嬢様に怒られる……」


男性が落ち込んでいる。


「お互い全力を出したのよ。胸を張りなさい」


そう言い残し、カーラさんと男性は互いに礼をして、それぞれの隊列へ戻った。


その直後、アリサ嬢が男性を蹴り倒していた……。


「このノロマ! 愚図! ロイ!」


痛くはないのだろうが、ロイさんは困り果てている。


まるで、ご主人様に怒られている大型犬だ。


「とりあえず、勝利の一手は取ったわ……。でも、向こうさんは次、負けられないわね。間違いなく、一番の実力者を出すでしょうね……。ユリカ嬢! 後は任せるわ!」


カーラさんはそう言うと、後ろを振り向いた。


「私はサイラスちゃんの心の傷を癒やす必要があるから、頑張ってね♪」


そして、いまだに地に伏せているサイラスさんを抱えて座った。


御愁傷様です……。


サイラスさん、安らかにお眠りください。


私に弟子は要りません……。


手を合わせ、私は前に出ようとした。


「存分に見せてきなさい!」


ルート嬢、圧が凄いです……。


「それでは、両者! 前へ!」


やっぱり、相手はアリサ嬢だ……。


「こんなに早く確かめることができるなんて……滾るわ」


「それでは、構え!」


アリサ嬢の獲物は、両手に持った木剣。


双剣の構えだ。


「始め!」


アリサ嬢が突進してきた!


連撃を繰り出しながら、一気に攻め込んでくる!


「さぁ! さぁ!」


獰猛な笑みを浮かべ、止まることなく連撃を繰り返す!


私はこの猛攻を受け流すので精一杯だった……。


「たまらないわ! 私の連撃を受け流すなんて!」


凄い! 速い!


でも、ルート嬢と比べたら軽いよ!


それに、目も慣れた……。


私は受け流す合間に、少しずつカウンターを入れて反撃を始めた。


「くっ……やるじゃない!」


そして、次の突きをいなすと、素早く右に円を描くように移動した。


嫌がらせのように追撃の突きを入れる。


アリサ嬢も怯まず、追撃の突きを繰り出した。


突き出されたアリサ嬢の腕が、限界まで伸びたその瞬間!


「今よ!」


ルート嬢とカーラさんの声が重なった!


私の木剣が、アリサ嬢の手の甲に当たった。


「あっ!」


左手の木剣が落ちる!


右手の木剣による追撃が来る前に、私はアリサ嬢の首元へ木剣の先を置いた。


「それまで! 第二隊の三勝先取により、終了!」


教官の声が、対戦の終了を告げた。


「やりましたわ!」


「やったわね!」


「グエッ!」


ルート嬢とカーラさんの歓声に続き、サイラスさんの首を絞められたような声が聞こえた。


……サイラスさん、生きてる?


「やるわね……。いいわ、とりあえず認めるわ……」


ありがとうございます。


これを機に、もう絡まないでください……。


「でも、次は私が勝つわ!」


あっ……。


これ、また絡まれるやつだ……。


唖然としていた私に、アリサ嬢が礼をした。


私も慌てて礼を返し、自分の隊列へ戻った。


「やったわね! あのアリサ嬢相手に圧勝とはね!」


違います!


最初はかなり押されていました……。


ペット自慢はおやめください!


「驚いたわ。まさか、あそこまでとは……」


サイラスさんは、生きているのか……。


この訓練の後は、魔法の行使が待っている。


もう対戦はないだろう。


今日も、王国騎士団の一日はまだ終わらない……。


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