異世界編:王国騎士団員になった異世界の私4
# エピソード11 王国騎士団の魔法
さあ、最後の訓練過程である魔法の行使だ。
この五日間、攻撃魔法を使うことはなく、基礎となる魔術の流れや、魔力の調整などを中心に訓練してきた。
今日は何か新しい展開があるだろうか。
「さあ、次は魔法よ!」
ルート嬢が張り切っている。
その一方で、私の後ろには魂が抜けたサイラスさんが、亡者のように歩いていた。
アンデッドだ……。もうすぐ、あのロイという魔物の仲間になるに違いない。
「生まれてきて、ごめんなさい……」
サイラスさんが末期症状だ……。
「大丈夫よ。死んだら、私が生まれ直させてあげる♪」
カーラさんが、にこやかに言った。
「た、助けて!」
サイラスさんが私の後ろにしがみついてきた。身体が震えている。
多分、もうすぐ全身の体温がなくなり、アンデッドと化すのだろう……。南無。
「冗談の通じない子ね」
カーラさんは、まるで悪びれる様子もない。
もう次の修練場が見えてきた。
魔法の修練場は、先ほどの場所から少し離れた、広い敷地に設けられている。
すでに、先ほどの第一隊の面々も集まっていた。
「次こそ! 格の違いを教えてあげる!」
アリサ嬢だ……。
「相変わらず、負けず嫌いね……」
ルート嬢、ダメです! 煽るのは禁止です!
その腹いせなのか、アリサ嬢は足元にいる魔物のロイを蹴りつけていた。
ペット虐待反対!
……ロイには、あまり効いていないようだけど。
「皆、揃ったな! 先ほどと同じように、二組に分かれて隊列を作るように!」
教官の指示に従い、私たちは整列した。
「次の訓練は、魔法の行使だ。まず、そちらの崖の方を向いてみろ。向こうに的がある。各隊から一人ずつ、自分の得意な属性魔法を使って、あの的を攻撃してもらう」
教官が崖の方を指し示した。
「事故防止のため、魔法の行使は一人ずつ行う。周囲の者は、指示があるまで待機するように。では、早速準備をしてくれ」
周囲を見渡すと、ここにいるのは私たちだけだった。
本日は、見習い騎士だけで訓練を行うようだ。
これなら、万が一のアクシデントが起きても、被害を最小限に抑えられる……はず。
いや、フラグじゃないからね?
さて、我々の先陣を切るのは、もちろんルート嬢だ!
「私から先に行くわ。皆に、この国の守護者は私たちだと教えてあげましょう!」
ハイ! 複数形にしないでください……。
とはいえ、あの日に聞いたルート嬢の言葉もある。ここで無下にするわけにもいかない。
「お先にお願いします、ルートお嬢様」
私は意を決して、声を掛けた。
ルート嬢と同じく、先陣を切ったのはアリサ嬢だった。
「魔法なら、私の独壇場よ!」
アリサ嬢がルート嬢を指差した。
もう、すっかりお約束ですね……。
「あら、今は競う場ではないと思いますが……。それとも、先ほどユリカ嬢に一方的に敗北したことが、よほど堪えたのかしら?」
出た!
ルート嬢の痛烈な嫌味!
アリサ嬢の顔が、まるで猿のように真っ赤になった。怒り心頭である。
ルート嬢、これ以上の煽りはやめてください!
私にまで、とばっちりが来そうです!
「それでは、第一隊から順番に魔法を行使するように。では、始め!」
教官の合図とともに、アリサ嬢が詠唱を始めた。
「ウインドカッター!」
複数の風の刃が放たれ、岩の的を次々と刻んでいく。
鋭い斬撃が岩肌に走り、的の表面にいくつもの傷が刻まれた。
「どうよ!」
アリサ嬢が胸を張った。
「次、始め!」
続いて、ルート嬢が前に出る。
「ウインドカッター……」
アリサ嬢と同じ風魔法を使った。
しかし、放たれた風の刃は、あからさまに違っていた。
刃の大きさも、込められた魔力も、先ほどのものとは比べものにならない。
巨大な風の斬撃が岩の的を真っ二つに切り裂いた。
ドーン!!
「貴女、さっき競う場ではないって言ったわよね!」
アリサ嬢が叫んだ。
……流石に、私もそう思います。
「何か、問題でも?」
あっ……。
わざとだ。
ルート嬢、完全にわざとやっている。
シャーッ!
……次は猫になった!?
いや、気持ちは分かりますけどね!
「下がってよし!」
教官の言葉に、アリサ嬢は渋々その場を離れた。
そのついでに、ロイがまた蹴られていた。
だから、虐待反対です!
「では、次!」
「お姉様、先に行きます」
次に前へ出たのは、可愛らしい少年だった。
……いや、待って。
女の子かと思ったけど、男の子!?
可愛らしい男の子だ!
しかも、双子らしい。先ほど声を掛けたのは、よく似た顔立ちの姉の方だったのだろう。
「可愛らしいけれど、私の好みではないわ」
カーラさん?
何のために王国騎士団に入ったんですか?
まさか、男漁りが目的ですか!?
「やっと、出番ですね……。うふふふ……」
……誰!?
眼鏡を掛けた女性が、いつの間にかそこにいた。
こんな人、いましたっけ?
「魔法を舞台にしている以上、いつか必ず、私にも出番が来ると思っていました……」
彼女は眼鏡をクイッと上げた。
……何だろう。
前世の私と、同じ匂いを感じる。
「可愛らしい男の子がいるのに、私が関わらないなんてあり得ない! さあ、物語の始まりよ! お姉様は私よ!」
あっ……。
違う。
前世の私と同じ匂いがすると思ったけれど、やっぱり違う種族だった……。
何の話をしているんですか、この人は!?
眼鏡の女性――シュウレイは、少年の前まで走っていった。
「私はシュウレイよ……。よろしく!」
そう言って、彼女は手を差し出した。
「オロビオ、平民と関わらないで!」
双子の姉から、厳しい叱責が飛んだ。
オロビオと呼ばれた少年は、差し出された手を見ようともせずに答えた。
「すみませんが、馴れ合う気はありません!」
その言葉を聞いたシュウレイは……。
膝から崩れ落ちた。
玉砕した……。
いや、訓練は!?
「準備はいいかね? よければ、第一隊から順番に魔法を行使しなさい」
教官が改めて促した。
「はい。オロビオ、参ります!」
オロビオが詠唱を始めた。
「ウォーターカッター!」
水の刃が放たれ、岩の的を綺麗に真っ二つに切り裂いた。
ズン!
切断された岩が、滑り落ちるように地面へと落下した。
詠唱は速く、魔力の流れにも一切の無駄がない。
見事な魔術行使だった。
「次!」
教官の声が響く。
すると、先ほど膝を着いたシュウレイが、ゆらりと立ち上がった。
……復活した!?
「行け……青龍」
その瞬間、地面から大きな樹木が勢いよく伸び始めた。
枝葉を広げながら、天へと向かって成長していく。
そして次の瞬間、巨大な樹木が滝のように、的のある場所へと雪崩れ込んだ!
「何だと!? しまっ……全員、退避!」
教官が叫んだ。
シュウレイの魔術が、想定を超える規模に膨れ上がっていた。
本来なら、魔力の流れを調整し、樹木の成長や広がる範囲を制御できたはずだ。しかし、オロビオに拒絶されたショックから、彼女は冷静さを欠いていた。
魔術そのものを制御できなくなったわけではない。ただ、普段ならできるはずの微調整ができていなかったのだ。
その結果、樹木はシュウレイの想定を超える勢いで成長し、周囲を巻き込みながら広がっていった。
「しまった……!」
シュウレイ自身も、そこで初めて異変に気づいた。
しかし、すでに魔術は止められない。
「全員、退避!」
教官は即座に詠唱を始めた。
動揺していた私たち見習い騎士の前に、巨大な岩壁が立ちはだかった。
ドッドッドッ!!
轟音が修練場に響き渡る。
シュウレイの魔術によって生み出された巨大な樹木が、教官の作り出した岩壁へと激突していた。
木々が岩壁を打ちつけるたびに、凄まじい衝撃音が響き渡る。
教官は、私たちを守るために岩壁を維持しながら、迫り来る魔術を受け止めていた。
その光景に、私は息を呑んだ。
見習い騎士たちを守りながら、これほどの魔術を防いでいる。
教官の判断も、魔術の行使も、あまりに速かった。
数分後、ようやく衝撃音が止んだ。
そして、修練場に静寂が訪れた……。
「助かった……」
「びっくりした……」
「いったい、何があったんだ……?」
皆から、無事に事が収まったことへの安堵の声が漏れた。
「皆、無事のようだな……」
教官は周囲を見渡し、全員の無事を確認してから、安堵の息を吐いた。
「皆、一堂に集まり、隊列を作るように!」
教官の指示が飛ぶ。
予想もしなかったアクシデントが起きても、真っ先に冷静さを取り戻し、周囲を守り、皆を導く。
……騎士団の鑑だ。
教官は一流の王国騎士なのだろう。
おかげで、私たちは助かった。
それにしても……。
あのショタ眼鏡。
いや、シュウレイは、この騒動の発端を作り出したというのに、先ほどオロビオから受けた塩対応のショックを、まだ引きずっていた。
放心状態である。
……いや、そこは反省してください!
「本日の訓練は、ここで切り上げる。これより、この修練場を整理する。連帯責任とするので、全員で後片付けを行うように!」
教官の指示に、皆は渋々従った。
シュウレイの魔術によって生み出された巨大な樹木を、各自の魔法や身体を使った土木作業で片付けていく。
私たちは魔術を使い、あるいは自分の身体を動かしながら、修練場の復旧に取り掛かった。
それから数時間後……。
ようやく、修練場は元の状態に戻った。
岩壁や岩の的は、教官の土魔法によって、たちまち修復された。
そのおかげで、本来なら数日掛かるであろう整地作業も、数時間で終えることができた。
教官は土魔法の上位者なのだろう。
おかげさまで助かりました……。
「皆、ご苦労だった。これにて本日の訓練は終了とする。各自、解散!」
皆、それぞれ思うところはあるようだったが、疲れ切った表情で修練場を後にしようとした。
シュウレイも、その一人だった。
「後で、シュウレイ嬢には時間をもらう」
教官の言葉に、シュウレイがビクッと身体を震わせ、振り返った。
……当然です!
ちゃんと指導を受けてください!
しかし、散々な一日だった……。
宿舎へ戻る途中、ルート嬢が考え込むように呟いた。
「驚いたわ……。あのシュウレイという彼女、五行術の使い手だったとは……」
「そして、かなりの上位者よ……」
カーラさんも、独り言のように呟いた。
「五行術とは何ですか? 初めて聞きます」
……いつの間に復活したんですか、サイラスさん?
先ほどのショック療法が効いたのでしょうか。
それより、五行術?
私も初めて聞く言葉だ。
流派のようなものだろうか?
「詳しくは分からないけれど、遥か西に、古くから伝わる五行術というものがあると聞いたことがあるわ」
ルート嬢は、考えを整理するように言葉を続けた。
「万物は『木・火・土・金・水』という五つの要素から成り立っている、という考え方に基づく術らしいわ。そして、その五行を守護する四聖獣を使役するとも言われている。彼女が見せた青龍も、その一つよ」
……なるほど。
五つの要素と、四聖獣を使役する術。
通常の属性魔法とは、仕組みそのものが違うのだろうか。
それにしても、あの樹木を生み出した魔術は凄まじかった。
もし教官がいなかったら、いったいどうなっていたことか……。
「私も話には聞いたことがあるけれど、実際にこの目で見るのは初めてよ」
カーラさんも、知識として知っていただけらしい。
それを実際に目撃したのだから、驚くのも無理はない。
「あんなに残念そうなのに、世の中、分からないものね……」
本当です。
あのショタ眼鏡……。
いや、シュウレイ。
絶対に怒らせないでおこう……。
私たちは宿舎へ戻り、食事と入浴を済ませた後、眠るためにそれぞれの部屋へと戻った。
王国騎士団に入団してから、見習い期間中は宿舎で生活する決まりになっている。
私の部屋は、ルート嬢と同室だった。
「貴女の魔法を見られなかったのは、残念だったわ……」
ルート嬢が、少し残念そうに言った。
「今日は色々ありすぎましたし……。まだ始まったばかりですから」
ルート嬢のお気持ちは、お察しします。
……私の中身は大人ですからね。
「ところで、見習い期間中は、二人だけで鍛錬することができないわね……」
ルート嬢が、ため息をついた。
「確かに……。でも、こちらでも騎士団の訓練がありますし……」
「違うのよ。確かに、ここにもそれなりの実力者はいるわ。でもね、貴女が与えてくれた日々は、ほかの誰にも代えられないものだったのよ。特に、変身した後の貴女との鍛錬は……」
ルート嬢は、言葉を切った。
その気持ちは、私にもよく分かる。
「私も、変身できない日々には不満が溜まりますが……。いつかまた、一緒に鍛錬したいですね」
はあ……。
フラストレーションが溜まっていく。
変身したときの高揚感は、何にも代えがたい。
あの感覚だけは、何をしていても忘れられない。
「さあ、明日も早いわ。寝ましょう」
「はい。お休みなさい」
こうして、王国騎士団に入団してからの日々は、色々なことがありながらも、それなりに充実していた。
明日からも、この生活は続いていく。
明日も頑張っていこう。
前世では味わうことのできなかった充実感を胸に抱きながら、私は深い眠りについた……。




