異世界編:王国騎士団と異世界の私3
# エピソード7 王国騎士団の試験と同士達
私は、自分の班が試験を終了した時点で、その場を去った。
とても居られる空気ではなかった……。
そうだ、ルート嬢の試験を観に行こう。
先ほど歓声が聞こえた場所へ向かった。
試験が終わったのは、私たちの班だけだ。運がなかったな、皆……。あの試験官が特別だったのかな……。
そんなことを考えているうちに、目的の場所に着いた。
今は剣技の試合かな?
なぜかトーナメント表が土魔法で作られている。
ここの試験官は自由なのかな……。
表を観ると、既に準決勝まで進んでいた。
ルート嬢は既に準決勝を終え、決勝に名前を連ねている。
今は第二準決勝のようだ。対戦表には、[サイラス対カイネス]と書かれていた。
……正直、知らない。
次にルート嬢と当たる相手として観れば、楽しめるかな。
両者は互いに礼をして構えた。
騎士だ。
先ほど体術試験で相手にした人とは雰囲気が違う。いや、格が違う。
「それでは、始め‼」
試験官の掛け声とともに、カイネスと思われる男が距離を詰めた。
対するサイラスは、相手の猛追を難なく捌いていく。
カイネスはさらに速度を上げ、突きの連打に切り替えた。
先ほどまでその場にいたサイラスは、円を描くように右側へ移動する。
滑らかで、無駄のない動きだ。
ちょっと待てよ……。
あの動き!
そうだ、父だ!
もしかして、騎士団で父に指導を受けているのか?
まあ、父の立場なら、有能な剣士を十人や二十人くらい指導していてもおかしくない。
……!?
後ろに!
振り向くと、そこには片手で頭を抱えた父がいた。
「御父上?」
「驚いた。気付いたか!」
「いいえ、何となく……近くに御父上の気配を感じた気がして」
また嘘をついた。
「そうか。それより、おめでとう。見事、試験を通過したようだな」
いつものように、父は私の肩に手を置いた。
「ありがとうございます。まだ実感が湧かないです」
「聞いているとも。試験官は私の部下だからな。いや、気分爽快だったとも!」
そうだよね。
あっ、それより……。
「御父上、剣技のことをお聞きしますが、あのサイラスという方に御父上の剣技を感じました。気のせいでしょうか……?」
「そうか、流石は我が娘。その通りだ。彼が十歳くらいの時から剣技を指南している」
父は試合をしている二人に目を向けた。
「彼の父親は、私の部下だったんだ……」
……だった?
「彼が十歳になる五日前に、父親は任務中に殉職した。それから、彼の誕生日に父親の剣を渡したんだ。お願いされたよ。まるで誰かのように必死になって、剣技を指南してほしいと……」
やはり父は優しい……。
「ところで、どちらが勝ちそうだと思う?」
父は悪戯な笑みを浮かべた。
顔を見れば分かりますよ、答えなんて。
「何事もなければ、サイラス殿が順当に勝利するかと……」
私も試合を観た。
あっ、終わるな。
「そこまで!」
最後はサイラスがカイネスの剣を跳ね上げ、目の前に剣先を向けて終了だった。
互いに礼をした後、それぞれその場を離れた。
父は先ほどと同じ、悪戯な笑顔を浮かべていた。
「もう一つ質問したい。決勝は誰が勝つと思う?」
あ〜あ、分かっている。
こういう時の父が意地悪をするのは、大抵あの方が絡んでいる。
それに、あの強者の気配が近くにある。感じないわけがない……。
「ライデン公、御無沙汰しております」
私は後ろを振り向き、そこにいたライデン団長に、似合わないカーテシーをした。
嫌だ、気持ち悪い……。
「御無沙汰である、ユリカ嬢。そして、試験の通過おめでとう」
挨拶をしてくれた後、父に向かって言った。
「ハイデル公よ。しかし、何ともそなたの娘はよくできている。悪巧みも看破しておるようだぞ」
ライデン団長も悪戯な笑みを浮かべた。
「ところで、先ほどの続きだが、決勝は誰が勝利するだろうか、ユリカ嬢?」
あちゃ〜。この方も父と同類?
いや、親バカ!?
しかし、私の答えは決まっている。
「間違いなく、ルートお嬢様の勝利かと」
私はまた、似合わないカーテシーをした。
もう嫌だ……。
「ほれ、見ろ……」
ライデン団長が得意げに答え、悪戯な笑みを父に向けた。
御免なさい……。
「だろうと思うが、良い試合になると思うんだがな……」
父が少し気を落としている。
もしかして、代理戦なの……!?
挽回のチャンスだ!
「はい。恐らく、お互いに得るものがある試合かと」
ライデン団長が顎髭に手を置いた。
「そういえば、ユリカ嬢とルートが文を交わす同志だと聞いておるぞ」
「はい。とても良くしていただいています」
森でのことは、しっかり内緒になっている〜。
良かった。
「これからもよろしく頼む」
ライデン団長が頭を下げた。
え〜っ、勘弁して……。
「謹んでお受けいたします」
また似合わないカーテシーをしないと駄目じゃないか〜!
三回も〜!?
……しましたけど。
「それでは、両名、前へ」
試験官の声だ。
助かりました。もう今日はしたくない。
「いよいよだな」
「そのようだ」
私たちは試合を見守ることにした。
トーナメント表に二人の名前が書かれた。
[ルート対サイラス]
両者とも、騎士団式の礼をした。
雰囲気が、空気が、まるで違う。
私の時とは全く違う……。
「それでは、始め!」
掛け声とともに、二人は距離を詰めようとしなかった。
互いに構えたままだ。
緊張感が凄い……。
最初に初手を取ったのはサイラスだった。
跳び込むように一気に距離を詰める!
右側へ踏み込み、片手で突きを繰り出した!
しかし、ルート嬢は自ら右側へ円を描くように移動し、そのまま突きを一閃!
ガキーン!
互いの剣がぶつかり、金属音が鳴り響く。
今のって、サイラスが準決勝で見せた動き!?
ルート嬢が笑った……。
まさか、こんな時に試している?
「舐めないでいただきたい!」
サイラスが猛追し、斬撃を浴びせる。
あちゃ〜、終わったね。
案の定、父が頭を抱えている。
その横では、ライデン団長が悪戯な笑みを浮かべていた。
いや、ドヤ顔だ……。
周囲から歓声が聞こえる。
傍から観ると、ルート嬢が押されているように見える。
だが、顔を見れば明らかに分かる。余裕がある。
一方、サイラスは焦りから次の一手が思い付かないのか、攻撃が単調になっていた。
何だか可哀想だ。
このままでは、お互いに何も得ることなく終わってしまう。
ルート嬢にとっても……。
「剣技だけでなく、体も剣技の一つ!!」
私の声に、父とライデン団長が驚いてこちらを見た。
あ〜っ!
すいません! すいません! すいません!
私は両手を頭の上に置き、しゃがみ込んだ。
その体勢から覗き見ると、サイラスの動きが変わった!
ルート嬢の足元を狙って回し蹴りを繰り出す。
いや、フェイントだ!
下段蹴りを警戒したルート嬢は跳び上がった。
しかし、サイラスは既に上空への迎撃態勢を整えていた。
見事!
サイラスが突き出した剣に、ルート嬢は自分の剣を絡ませる!
“ギャリギャリ!!”
結果、手から剣が飛んだのはサイラスの方だった……。
すぐさま、ルート嬢の剣先がサイラスの目の前に突き付けられた。
「参りました」
「そこまで!」
試験官の声が一拍遅れた。
いや〜、欲しかったと言いたいところだが、あれ、私と何回もやっているのよね。
御愁傷様……。
対戦した二人は互いに礼をした後、こちらに向かってきた!
逃げるか!
いや、後ろには父とライデン団長がニコニコ顔でいる。
なぜこの二人が結託している!?
おかしい、談合反対!
「ユリカ嬢〜」
後ろからルート嬢の声が聞こえた。
嫌だ、誤解!
さらに、
「貴女がユリカ御嬢様ですか」
サイラスの声まで聞こえる。
……幻聴じゃない!
「不甲斐ない私にお救いをいただき、ありがとうございます!」
サイラスが頭を下げてきた。
なぜ!?
「この試合で、ルート御嬢様に我が剣技を覚えていただきたく、挑みました。しかし、冷静な判断ができず、醜態を晒したところに、貴女様のお声をいただき、冷静に対処することができました。おかげで、幾分かはマシな試合にできたと思います。御父上のみならず、御子女の貴女様にまで御恩を賜りました……! 有り難き幸せ!」
ルート嬢の悪戯な笑み。
なんて、御父様そっくり!
父は笑っているし!
もういい!
帰る!
このまま引きこもる〜!
……というわけにもいかず、この後、私たち三人は団長と父の面談を受け、見事、王国騎士団の騎士となった。
『大丈夫! ユリカは何でもできるから!』
……今日は、その声が聞こえなかった。




