異世界編:魔神王と異世界の私
# エピソード23 人々の苦しみと偽善
あのデュエル男爵の事件から数日後、再び隊舎の会議室に、いつもの五名が集まった。
リカメイさんからの報告で、会議が始まった。
「オデッサ城塞都市への襲撃依頼ですが、魔物の襲撃は途端になくなりました。街道や山道で魔物と遭遇することが稀にある程度となり、魔物たちは完全に姿を潜めています」
リカメイさんの報告に、ルート団長が答えた。
「では、人里への襲撃は一旦収まったようだな」
「はい。ただ、気になることがあります。襲撃を受けた人里では、多くの人々が魔物に連れ去られたという目撃情報が、数多く寄せられています……」
サイラス副団長が驚愕した。
「魔物が人を拉致する? 食糧の確保か……!?」
「確認は取れておりませんが、その可能性もあり得るかと……」
リカメイさんは冷静に答えた。
「オデッサ城塞都市への襲撃もそうだけど、何者かの意図を感じるわ……。魔物に統率が取れることなんて、今までなかったはずよ。魔神王を頭にしているという話は言い伝えられているけど、実際にその魔神王を見た人を、私は知らないわ」
カーラさんが、この異世界における疑問の一つを口にした。
「以前、我々が襲撃を受けた際、あの黒いフードの男が仕向けた魔物には、確かに統率の取れた行動をするだけの知能があった。しかし、オデッサ城塞都市には、あの魔物はいなかったと聞いている。だが、魔物が一斉に撤退していったという報告はあった。何か、魔物を支配できる者がいると考えるべきだな……」
ルート団長は思案した。
私は、あの黒いフードの男に何かあると思う……。
「黒いフードの男についての報告はありません……。それと、以前に報告いたしました、幻聴や幻覚を見る者が日に日に増えています。精神に異常をきたし、暴れる者や食事を摂らなくなる者、更には情緒不安定になって自死を選ぶ者、人を巻き込み、最後には自害する者もおります」
「あの時のデュエル男爵も、そのような状態だった……」
サイラス副団長が悔しそうに語った。
あの時のデュエル男爵は、独り言を繰り返していた……。幻聴や幻覚を伴う、統合失調症のような症状が出ていた。
しかし、あの年齢で……。認知症とも思えない年齢だし……。
そういえば、ここは異世界……?
「リカメイさん、その症状を治癒魔法による施術で治すことはできないのですか?」
私の疑問に、リカメイさんは答えた。
「はい。既に試みましたが、多少の効果はあります。食事が摂れるようになる、といった程度ですが……。しかし、根本的な改善には至りませんでした」
そうか……。魔法では効果がないのか。
やはり、前世のように投薬治療で症状を抑えるしかないのか……。
「そんな! 病は心よ、恋をすれば変わるわよ!」
カーラさんが声を上げた。
以前、ライルさんとサイラスさんを一度地獄に落としたことがあるカーラさんだけど……。それくらいのショック療法が一番なのかも……。
「今後も諜報団員の協力を仰ぎ、引き続き調査を進めます」
カーラさんの発言を聞き流すように、リカメイさんが話を取りまとめた。
「ご苦労。それでは、皆、解散だ」
私たちは会議室を後にした。
道中、カーラさんが私を呼び止めた。
「ユリカちゃん、あれから大丈夫?」
私を心配してくれている。
「あの時のカーラさんの言葉ですっかり良くなりました。もう安心してください!」
本当に、あの時は助かった……。
でも、首が飛ぶのは勘弁してください……!
「そう……。良かったわ。さっきも言ったけど、恋をしなさい! ユリカちゃんも……」
はっ! わ、私が恋?
何ですか、それ? 美味しいんですか!?
「はっ、はい? 私には無理です! 体型も幼児ですし!」
顔が真っ赤になっているはず。だって、顔が熱いもの!
「フフ……。可愛らしい顔をしているのよ。そのうち現れるわ……。貴女の王子様が♪」
王子様?
聖剣でも持っていますか、その王子!
「まあ……。元気になって良かったわ。それじゃ、また後でね〜♪」
カーラさんは去って行った。
私を心配して、元気づけてくれたんだ……。
今の私は大丈夫。大事な仲間に支えられている。
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遥か北の山脈、その奥深くにある地下神殿。
神殿を彷彿とさせる広大な空間の、更に奥には、巨大な玉座があった。
そこには魔神王が座していた。
その姿は、山羊の骸骨を顔に被り、巨大な人型の獣の姿をしていた。
その前には祭壇があり、黒いフードを被った男がフードを脱いで立っていた。その後ろには、黒いフードを被った集団とデーモンたちが並んでいた。
『アァァァ……!』
魔神王から、うめき声が漏れる。
「聞け! 皆の者! 魔神王様から、我らに道を示していただける! 闇に堕とされた我らに、光を与えてくださるのだ! 皆、続け! 我らに再び光を!」
「オオーッ!」
歓声が響き渡る。
祭壇から降りた、長い黒髪に浅黒い肌の男に、数名が跪いた。
「ジュダ様、新しい素体が揃いました。早速、作業に移ります」
ジュダと呼ばれた男は答えた。
「早速始めろ。それと、信者の一人が失敗したようだな……」
「はい。しかし、こちらの痕跡は発覚しておりません。それに、信者は次々と増えています。また次の手配を進めます」
ジュダが手をかざすと、皆は解散した。
ジュダは魔神王を見上げると、呟いた。
「まだ、彷徨っているか……。待っていろ、神を騙る者め。我が真の神を……!」
そして、闇に消えていった。
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俺は、オデッサ城塞都市に到着した後、情報屋の顔を拝みに行った。
酒を飲める相手が欲しかった……。
多分、あの執事のオブサンなら、良い酒を一緒に飲めただろうな……。
いつもの酒場に入り、情報屋の席に座った。
「旦那……! いつ戻ったんですか?」
「ああ……済まなかった。今日だ……。取り敢えず、酒を飲もうや……」
すぐにエールを頼んだ。自分の飲む分を二杯、情報屋にはブドウ酒を一杯……。
乾杯して、俺が一杯目を飲み干すと、まず仕事が無事に終わったことを報告し、依頼料を情報屋に渡した。
「旦那! ……こんなに? 話に聞いた額の倍になりますよ?」
情報屋は驚き、まくし立てた。
「色々あってな……」
「そうですか? まあ、取り敢えずお祝いでさぁ。今日は飲みましょう!」
しばらく飲み続けた。
「旦那……。何でですか? 生まれた身分の違いが、こんなに差があるのは神が決めたことなんですか? はっ!? 何ですか、選別って? 旦那! 聞いてます!? ……」
選択を間違えた。
情報屋は、だいぶ荒れていた。
ただ……冷静に一言、俺は言った。
「何があっても、大切な人は変わらない。選ぶとか選ばれるとか、身分とかは……。俺には関係ねぇ。まして神だ!? ふざけるな……。たった一人の少女の苦しみも救えねぇ……!」
俺は再びエールを飲み干した。
「最近、知っている奴が自死したんです……。冒険者なんですが、いい奴でした。ですが……大事な奥さんが亡くなった日から、心を病んでいたらしく……。奥さんを助けられなかったことを、ずっと悔やんでいたみたいでした……」
情報屋はブドウ酒を飲み干した。
俺は、自分のエールと情報屋のブドウ酒を頼んだ。
「話では、その病には教会が管理する秘薬が必要で……。俺ら一般人には、お目に掛かることすらできねぇらしく……。裏取引で扱う額は金貨百枚……。とても普通に支払える金額じゃねぇ。せがまれて、あっしも難しい高額依頼を紹介したんですが……。目標の金額に達する前に、奥さんが息を引き取ったそうです……」
情報屋は、運ばれてきたブドウ酒を飲んだ。
「旦那……! あっしらは選別されてるんですよ! 何もしなくてもブクブクと膨れる奴や、神さんの使いを気取って私腹を肥やす奴……!」
力説した後、情報屋はブドウ酒を飲んだ。
「そうだなぁ……。堪んねえな……」
俺たちは夜通し飲んだ……。
哀れな妻を愛した男と、哀れな忠義者の執事。そして、哀れな人の気持ちも分からない駄娘に……。
盃を捧げた……。
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私たちは調査報告を聞くために、再び会議室に集まっていた。
いつものメンバーが揃い、リカメイさんからの報告を受けた。
「以前から調査している内容について、新たな報告があります。心身を患った者たちの中に、教会へ熱心に通うようになった者が増えてきました……」
「心を病み、救いを求めて神にすがるのは、普通のことでは……」
サイラス副団長が、もっともな意見を述べた。
「その通りなのですが、教会では、それが神からの福音なのだと説いているようです」
「その信仰を、一時的な心の支えとしているのでは……」
サイラス副団長が、再びもっともな意見を述べた。
「はい。しかしながら、その信者になった者たちのほとんどに改善は見られず、むしろ症状を悪化させている節さえあります。更には、多額の布施を払わせるように誘導しているようです。そして、例のリザベット団員も、同じように教会へ多額の布施をしていたことが分かりました」
その報告に、皆が驚愕した。
「まさかと思うが……何か引っ掛かるな……」
ルート団長が思案に耽る。
「更に、デュエル男爵の屋敷に、何度も教会の者が訪れていたという情報もありました」
サイラス副団長が立ち上がった。
「デュエル男爵は、奥様の病気を治すために教会へ祈りを捧げていた。しかし、病が改善されなかったことで、祈りなど役に立たないと教会から距離を置いたことは、多くの者が知っているはずだ……。何故、今になって?」
「はい。私どもも不審に思い調査した結果、教会の方からデュエル男爵に接触していたことが分かりました」
ルート団長が意を決したように指示を出した。
「リカメイ! 引き続き教会の動きを調べるように。何……敢えて教会にも、こちらが動いていると見せ掛けろ。牽制になる!」
そして、全員に向かって告げた。
「それと、近日中に我が団の増員について、宰相閣下から許可をいただいた。近衛騎士団からも協力していただけるとのお言葉を頂戴している。全員、準備をお願いする。入団試験も時期に開始する。それでは解散!」
私たちは、それぞれに行動した。
入団試験か……。魔物の襲撃が多くなってから、久しぶりに行うことになる。
今回、新たな仲間が誕生する。
新しい出会いを、期待に胸を膨らませて待つ。




