異世界編:英雄になった異世界の私と再生する男5
# エピソード22 娘から父へのそれぞれの愛の形
風を切り、俺は馬を走らせた。
向かう先は男爵家の屋敷……。近づくと、門前に執事のオブサンがいた。
「今は眠っている。この気付け薬を使えば目を覚ます……」
俺は、御嬢様が包まれた頭陀袋を肩に担ぎ、執事に案内されて屋敷の中に入った。
「改めて、御礼申し上げます。それでは客人……この後は私が責任を果たします。貴方は見つかる前に、この場を離れて下さい……」
執事の言葉に頷き、俺は裏門から屋敷を立ち去った。
……この後は父娘の問題だ。何とかうまくいってもらいたいものだ……。
少し歩いたところで、何故か足が止まった。
何だ……何か引っ掛かる。
俺がユリカを嫁がせたとして、あそこまでのことになるか……。
いや、最初は相手を試すようなことを言ったり、拗ねたりすることもあるだろう……。
だけどな!
俺は男爵家の屋敷に戻り、障壁を乗り越えて中に侵入した。
「きゃー!」
「黙れ!」
人の声が聞こえた……!
俺は裏口の扉を蹴破り、中に入った。声が聞こえた二階へ上がろうとすると、階段の中腹にある踊り場で倒れている執事を見つけた。
「オイ! しっかりしろ!」
執事を見ると、腹から血が溢れている。傷は奥深くまで抉られていた。まるで爆発に巻き込まれたようだ……。
「す、すみません……! せ、責任を全うすること、叶わず……この有様……」
「もう喋るな。傷に障る」
助からねぇな、この傷……。
俺が執事を抱え起こすと、執事は俺の手を掴んできた。
「き、客人……私は貴方に黙っていたことが……! 旦那様は奥様を亡くされた数日後に、御嬢様の寝込みを襲いました……。私がそれを知ったのは、御嬢様の傷付き、泣き叫ぶ言葉を聞いてからです。それを知ってなお、私は懺悔し……旦那様が改心してくださると信じていました……。申し訳ない……客人! 御嬢様をどうか! ガハッ! たす……けて……」
「オイ! しっかりしろ!」
執事の手が離れた……。
息を引き取った……。
何だよ……これ。
俺は執事を寝かせ、その目を閉じた。
「クソ! 親父が!」
俺は立ち上がり、再び聞こえた御嬢さんの叫び声の元へ向かった。
***
ライルさんの雄叫びが響く中、私達はこれからの行動を決めた。
「行きましょう、男爵家の屋敷に!」
サイラス副団長がライルさんに呼び掛けた。
「私達も行きます!」
ルート団長も、すぐさま行動に移した。
それぞれ強化魔法を使い、家屋を飛び越え、一目散に目的の屋敷へと向かった。
屋敷の入口に最初に到着したライルさんが、雷魔法で扉を破壊した!
“ズーン!!”
早速中に入ると、階段の中腹にある踊り場に、燕尾服の男が腹を裂かれて絶命していた!
「イヤーッ!」
メリーさんの声だ!
声が聞こえた三階の奥へ向かうと、部屋の前にあの時の大男がいた!
「貴様ー! 死ね!」
しかし、その男は爆炎に吹き飛ばされ、後ろの窓から落ちていった……!
爆炎が飛び出した部屋へ向かうと、デュエル男爵と、上半身が裸になったメリーさんがいた。
「どうなさいました、義父様!? メリー!」
ライルさんが驚愕した……。
「貴様か! この盗人め!」
デュエル男爵が唾を吐きながら、狂人のように叫んだ!
「貴様のせいで! 我が娘メリーを儂から引き裂いて! 儂がどんな日々を味わったか!」
後ろから首を絞められた奥様が、苦しそうに泣いていた。
「ライル……!」
「一体、何故!?」
ライルさんが問い質す。
「この盗人が! 何故だと! この大事なメリーは! 儂にとって代え難い存在だ! そして! 身も心も! 儂の物だ!」
ライルさんの奥様は涙を流している。その上半身を、後ろから舐め回すようにデュエル男爵が触った!
「やめて! 見ないで……ライル……」
「な、何を言っている!」
愕然としたライルさんから言葉が漏れる。
「だから! 盗人だと言っている! 貴様が誑かす以前から、私達は愛し合っていた! そう、身も心もだ!」
「や、やめて!」
流石に辛抱できない!
私達が身を乗り出そうとした、その瞬間!
「動くな!」
私達の目前に、デュエル男爵の手から爆炎魔法が放たれた!
「動くと我が娘メリーもあの世に送る。勿論、儂諸共にな……!」
狂気を宿した笑みを浮かべ、我々を見渡した。
暫くの沈黙の間に……。
「そうか、可哀想に! そんな目に……何!? そのような! 許せん、出来るとも! 儂の覚悟と愛を知らぬから、そんなことを!」
デュエル男爵が一人で喋り出した……。
「煩い! 煩い! やってやるぞ! 儂はやってやる!」
チャンスと思い動こうとすると、直ぐに視線をこちらに向けた。
隙がない……。
「メリー、儂と一緒に行こう……。そして一つとなろう……」
デュエル男爵の手から爆炎魔法が行使される前兆が見えた。まるでスローモーションのように……。
その瞬間!
“ガシャーン!”
デュエル男爵の後ろにある窓から、先ほど爆炎魔法で外に吹き飛ばされた大男が、窓を蹴破って中に入ってきた!
そして、すぐさまデュエル男爵に組み付いた。
「オイ! 親父っていうのはな! 娘の一番の幸せを願うもんだ!」
「は、離せ! ギャーッ!」
“バキッ!”
デュエル男爵の右手を、あらぬ方向に曲げて折った!
「わ、儂はメリーと共に! 離せ!」
デュエル男爵の首と身体を、大男が背中から羽交い締めにする。
私達は急いでメリーさんをその場から引き離し、ライルさんの元へ連れて行った。
「ライル!」
「メリー!」
二人は抱き合う……。
私はメリーさんに毛布を掛けた。
「あなた、ごめんなさい……今まで黙っていて。私、怖くて! 苦しくて……!」
メリーさんが泣きながら謝罪すると、ライルさんは何も言わず、メリーさんを抱き締めた。
「クソ! 儂のメリーが! 離せ!」
デュエル男爵が暴れているが、びくともしない。
「貴方は、あの時の……方ですよね!」
私が問い掛けた言葉に、大男は答えた。
「悪いが……何を言っているのか分からねぇな。それより、このクソ親父を引き取ってくれねぇか。こいつは既に人を殺めてやがる。下の階段にいた執事を殺ったのは間違いねぇ……」
大男は、ふと悲しい顔をした。
その時、
「こうなれば、儂は! 儂は!」
デュエル男爵の身体から炎が立ち込めた!
「諸共に死ね!」
多分、自身に爆炎魔法を行使して爆発するつもりだ!
「オイ! 何も出来なかったこのクソ親父と一緒に飛ぼうぜ!」
大男はデュエル男爵を抱え、窓から外へ飛び出した!
すると、空中で爆発音がした。
“ズドーン!!”
私達は衝撃音が収まった後、窓の下を見た。
しかし、そこには跡形もなく消え去った二人の姿があった。
あの人は……また助けてくれた……。
その後、街の警備隊を呼び、事の顛末を報告することになった。
***
俺はあの爆発に巻き込まれ、屋敷の外に吹き飛ばされた。
頭部から再生し、裸のまま近くの家に干してあった毛布を盗み、それを被って自身の宿へと向かった。
警備隊が屋敷に殺到しているおかげで、何とか見つからずに宿に着いた。
捕まったら、ただの性犯罪者扱いだ……堪んねえな。
宿に暫く身を隠したが、次の日になっても俺を探す気配はなかった……。
流石に情報を聞ければと思い、顔が分かり辛い兜を被り、マントを羽織った冒険者風の格好で酒場に向かった。
その奥に向かうと、例の婆さんがいた。
俺は婆さんの前に座ると……。
「御前さん、生きてたかい……。生命の数は、まだ使い切らなかったようだね……」
水晶を眺めながら話しかけてきた。
この婆さん、何処まで分かって言っているのか、見当もつかねぇ……。
「あと、例の執事から預かっているよ」
膨らんだ袋を渡してくれた……。
中を見て、金貨が入っていることが分かった。
「改めて先に用意していたのか……」
「あの執事からは、済まなかったと伝えてほしいとのことだよ……」
そうか……残念だったな……。
俺はその場を去り、宿に戻った。
明日には出発して、オデッサ城塞都市に戻る。
***
私は、ルート団長と二人で隊舎の外の芝生に腰掛けていた。
「あれからライルさん、どうなりますかね……」
私はルート団長に呟いた。
「私は、多分乗り越えると思っているわ……」
ルート団長は少し間を置いてから、続けた。
「それより、あの大男。以前、リザベット団員から助けてくれた人物と同一人物なの? そんなことがあり得るの?」
ルート団長の問いに、
「御免なさい……自信はありません。動転していて、記憶が曖昧なのかもしれません……でも、何故か知っていると感じて……」
私にもよく分からない……。
「まぁ……良いわ! でも、父娘の愛情は人それぞれだけど……私達の父親は、純粋に私達を愛してくれたわ……そうでしょう?」
「ハイ! 間違いありません!」
心からそう思う……。
会いたい、御父様……。




