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異世界編:英雄になった異世界の私と再生する男4

# エピソード21 思わぬ再会


俺は昨日の婆さんに言われた通り、酒場に向かった。


昨日の元気な女はいなかった。代わりの従業員が声を掛けてきたが、俺は手をかざし、待ち合わせをしていることを伝えた。


例の婆さんと会ったテーブルに着くと、この酒場には似つかわしくない、燕尾服を着た男が一人座っていた。


年齢は五十代くらいだろうか。背筋がしっかりと伸びており、いかにも執事といった雰囲気だ。


「初めまして。私、デュエル男爵に仕える執事のオブサンと申します。それでは、これより我が主の屋敷へご案内いたします」


執事は立ち上がり、店を出て行った。俺もその後に続いた。


少し歩いた先に馬車があり、言われた通りに乗り込む。


二十分ほど経った頃、馬車を降ろされた。


屋敷を見上げる。大きくはないが、歴史を感じさせる佇まいが印象的だった。


「中にお入りください。男爵がお待ちしております。何卒、失礼のないよう、よろしくお願いいたします」


執事は頭を下げて伝えてきた。


執事に案内された部屋には、憔悴した男がいた。何やらブツブツと呟いている。


「旦那様、例の客人をお連れいたしました……」


執事が頭を下げて伝えた。


「おお……っ! そなたが我が愛娘を……! 奴は、あの下衆は我がメリーを誑かして、儂から奪い、その上、あの気弱なメリーに地獄のような日々を送らせているのだ! 己……! できるものなら儂が奴を引き裂いてやりたい! 何だと? そんな酷いことを……やっぱりそうか……!」


男爵は俺の方を見ている様子もなく、一人で話し始めた。


「旦那様……」


執事の声にも反応せず、また一人で話し始める。


一頻り話し続け、ようやく座り込んだ。


その後は急に落ち込み、一人で何かを呟いていた。


「宜しいでしょうか……」


執事は恭しく俺を別の部屋へ案内した。


席に座ると、お茶を出された。執事と向き合う。


「お見苦しいところをお見せしました……」


「大丈夫では……ないな」


「以前はあのようなことはなかったのですが、奥様が亡くなり、そして溺愛しておりました一人娘の御嬢様まで嫁ぐことが決まってからは、もうあのようになってしまいました……」


執事は痛ましそうな表情で話した。


「別に気にはしていないが、どうするつもりだ? あれじゃ依頼の内容に沿えるのか? せめて説明くらいはお願いしたいな……」


執事は改まって話し始めた。


「正直なところ、旦那様が正常な判断をできないことは重々承知しております。しかし、このままではあまりにも不憫で……お願いします! 一度、御嬢様を連れてきていただければ、お話しできる機会が取れます」


ちょっとおかしくないか?


「率直な疑問だが、それなら本人に頼めば済む話じゃねぇか?」


執事は俯いた。


「それができればと、何度もお願いしておりました……。何度もライル殿と共に御嬢様が屋敷に来られましたが、旦那様は会うことを頑なに拒否しておりました。

その後、旦那様から御嬢様お一人で来てほしいとの申し出がありましたが、御嬢様はそれを断られました。

それから何度も手紙を旦那様宛てに送っておりましたが、全て破り捨てられ……。終いには旦那様が脅迫状を刃物と共に送りつけ、恐怖した御嬢様は、お一人で屋敷に来ることを更に拒むようになりました……」


「じゃあ何だ、俺はやはり誘拐しないと駄目か……?」


執事は頭を下げた。


「危険なご依頼とは存じております。そして、御嬢様は私が責任を持って、旦那様とのお話し合いが終わりましたら、伴侶であるライル殿のもとへお連れいたします。どうか、この依頼を受けていただけないでしょうか……。元の依頼料の倍の金額をお支払いいたします!」


ああ……倍か。


参ったな。


まぁ……父親の気持ちも分からないわけでもねぇしな……。


「よし……依頼を受ける。先ほどの、果たすべき責任は必ず約束しろ……!」


「承知しております。身命に代えましても、お約束いたします」


執事は立ち上がり、頭を下げた。


「よし、じゃあ御嬢様のいる屋敷の案内と、分かる範囲で屋敷の警備状況、それに警護する者たちの能力が分かれば助かる。そして、脱出の際に馬の用意を頼めるか?」


「分かりました。早速、準備いたします」


執事は颯爽と動き出した。


――


サイラス副団長とルート団長、そして私の三人は、明日、シンゴール近衛騎士団長のもとへ行き、ライルさんとデュエル男爵との仲立ちを依頼することを、ライルさんご夫妻に報告した。


「シンゴール団長にお願いすることは不躾ではありますが、やむを得ません」


ライルさんは意を決したように話した。


「明日は夜には戻る。シンゴール団長からの仲立ちを無下に断ることはないはずだ。だから、あまり気に病まないでほしい」


ライルさんは奥様に優しく伝えていた。

「メリー…」「ライル…」


あっ……抱き締め始めた……。


お目目に毒です……。リア充爆発しろ!


「ちょっと……どうしたの?」


ルート団長が私の様子を気にしたのか、小声で窘めてきた。


「ごめんなさい。慣れてません、こういうの……」


私は真っ赤になった顔を手で覆った……!


「まったく……」


呆れたように呟いたルート団長は、佇まいを正した。


「それでは明日、よろしくお願いいたします」


そう言って、屋敷を出る。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


ライルさんから謝辞をいただき、私たちはライル邸を後にした。


――


俺は今夜、潜入する予定の屋敷を目立たないように監視していた。


物陰に隠れたり、遠くからでも遠視が可能な双眼鏡もどきの魔道具を使ったりしながら、昨日の夜から様子を窺っていた。


大まかな屋敷の配置や、警護する者たちの能力なども確認していた。


昼が過ぎた頃、三人の騎士が屋敷に入っていった。


王国騎士団の二人と、あの英雄さんだ。


俺は固唾を呑んだ。


あの時、俺はユリカだと思った英雄さんは、似ても似つかぬ姿をしていた。まだ幼さが残る美人さんだ。


「違うのか……」


俺は少し悔しい気持ちを抱きながら呟いた……。


それから一時間ほどして、この屋敷の主人は馬車に乗り、屋敷を後にした。


このまま帰りが遅くなれば好都合だが……。


聞くところによると、ここの主人は雷魔法を使役するらしい。


溜まったもんじゃねぇ……。


日が暮れた瞬間に実行だな……。


俺は一度、自分の宿に戻った。


この後、例の執事に会い、最終確認をした。


「では、手筈通り、馬は指示された場所に配置しております。それから、屋敷に到着しましたら、後日ナナイ様を通じて依頼料をお渡しいたします」


「ああ……」


「それでは、よろしくお願いいたします」


執事の言葉を受け、俺は闇に潜った……。


――


私たちはシンゴール近衛騎士団長にお会いし、事の経緯を説明した。


陳情を申し上げると、シンゴール団長は二つ返事で引き受けてくださった。


「シンゴール団長の懐の深さに感謝しかありません……」


サイラス副団長が感謝の意を言葉にした。


「これで事が収まることを願うばかりです……。皆様、ありがとうございます」


ライルさんから謝辞をいただき、私たちはライル邸からの其々帰路についた。


――


日が暮れた……。


俺は黒い装束に身を包み、目元以外を黒い布で覆い、依頼の御嬢様に会いに行く。


その前に、手筈通りの演出を行った。


屋敷の前で老婆と通行中の馬車が事故を起こしたように見せかけ、護衛たちの目をそちらに向けさせる。


残った護衛の目を掻い潜り、目標の部屋へと向かった。


屋敷に入り、部屋の近くまで忍び込むと、門前の騒動のおかげで、御嬢様の周囲には人影がなかった。


部屋の扉を音を立てずにゆっくりと開ける。


例の御嬢様は、静かに目を閉じ、祈りを捧げていた。


俺は足音と気配を消すように近づく……。


背後から御嬢様の口元に、眠りの魔術を込めた布を当てる。


すぐに気絶したかのように眠りについた御嬢様に猿轡を噛ませ、手足を縛り、準備していた頭陀袋に入れ終えると、肩に担いだ。


「すまねぇな」


そして俺は、この屋敷から脱出した。


――


ライルさんの屋敷に着くと、門前が騒がしくなっていた。


「何が!?」


ライルさんが駆け出した。ルート団長とサイラス副団長も後に続いた。


私も馬車を降りて駆けつけようとした。


しかし、なぜか後ろ髪を引かれるような感覚に襲われ、その場に立ち止まり、後ろを振り向いた。


すると、頭陀袋を肩に担いだ大男が、馬に跨がり走り去っていった。


少しだけ目元が見えた!


「あっ!」


私は思わず声を上げた……。


あの時の!?


見たことがあるようで、ないような感覚が過ぎり、私はその場で固まった。


……確か、あの人は……。


向こうから喧騒が聞こえてくる。


けれど、私はその場から動くことができなかった。

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