異世界編:英雄になった異世界の私と再生する男2
# エピソード19 この異世界で生きる事
私は、ルート団長を筆頭に、サイラス副団長、カーラさん、リカメイさんが集まった会議室にいた。
私はまず立ち上がり、深々と頭を下げた。
「皆さん、私のこれまでの独断専行をお許しください。どのような処分も覚悟しています。そして、今後は二度と同じことを繰り返さないようにします……」
まずは、私の落ち度が招いた事態について謝罪した。
私のために、誰かを死なせてはいけない……。
「気持ちは分かったわ……。サイラス副団長が慌てふためきながら、いつも貴女の独断行動について報告してくるのを毎回聞いていると、私の聴覚も限界を迎えそうよ……」
ルート団長は、少し疲れた様子で答えた。
「私の声が、そんなに酷いとは……」
サイラス副団長が肩を震わせると、
「馬鹿ね、物の例えよ……」
カーラさんが呆れた様子で、サイラス副団長にぼやいた。
「話を進めましょう。皆さん、すでにご存じだと思いますが……。城塞都市の国境警備騎士団員、リザベットの件が重要かと」
リカメイさんがその名前を口にすると、皆が固唾をのんだ。
「以前から、彼女の動向を探っていました。しかし、聞き込み調査では、皆が口をそろえて、いつも笑顔の絶えない団員だったと証言しています。あのような凶行に走る動機も兆候も見当たらず、ほとんどの団員は彼女の死を悲しんでいます」
リカメイさんの話に、皆が頷いた。
「魔術を行使した痕跡は?」
ルート団長がリカメイさんに尋ねた。
「調査を実施しましたが、それらしい反応はありませんでした」
サイラス副団長は考え込んだ。
「では、なぜあのようなことが……。とてもではありませんが、常人にできる所業とは思えません」
皆が考え込む中、カーラさんが口を開いた。
「それに、あの時、国境警備騎士団が死守していた場所へ、一人で駆けつけた男がいたわ。騎士たちの守りをかいくぐり、結局、ユリカちゃんを助けた。しかも、自分の身を犠牲にしてね」
カーラさんの話を聞き、私は手を握り締めた。
あの人は、私を助けてくれたのだと思う。
「しかし、考えようによっては、そいつが首謀者だった可能性もあるのでは?」
サイラス副団長が立ち上がり、皆に問いかけた。
「それでは辻褄が合いません。あの時、その男が口にした言葉は……」
リカメイさんは、一度言葉を切った。
『俺なら、一番油断した時を狙う!』
「とのことです。首謀者が、そのようなことを言うでしょうか?」
さらに、リカメイさんは続けた。
「私が首謀者なら、リザベットさんの行動を見届けてからでなければ、次の行動には移りません。それなら、リザベット団員に自爆という手段を取らせる意味もありません」
「つまり、今のところ、まったく手掛かりがないということね……」
ルート団長はそう言うと、皆を見回した。
「リカメイは引き続き調査をお願い。他の者は、魔物の襲撃があれば、いつでも出動できるようにしておいて。以上、解散!」
皆が会議室を退室した。
その場には、私とルート団長だけが残った。
「ユリカ、今回は貴女も肝を冷やしたでしょう」
ルート団長の声には、少し怒りがにじんでいた。
「あの人は……、なぜ、私を身命を賭して救ってくれたのでしょうか……」
私は、また考えてしまう。
「そうね。本当に初めて会った人なの?」
「顔ははっきりと見ていません。でも、一度も聞いたことのない声だったと思います……」
だけど、何かが引っ掛かる。
この感じは、何なのだろう……。
「とにかく、今は分からないことだらけね。それから、これから先、何が起こるか分からないわ。本当に単独行動はやめてね!」
さすがに、私も控えるべきだと思った。
「分かりました……」
その瞬間、
「バシッ!」
「うわっ!」
ルート団長に両頬を挟まれた。
「しっかりしろ、英雄!」
「ヒャイ……!」
変な声が出てしまった!
そのまま、私はペタンと座り込んだ。
蹴られたお尻が痛い!
……そういえば、お尻を蹴られたこともあったっけ?
少しだけ腹が立った。
……何だか、変な感じだ。
---
――オデッサ城塞都市の酒場、その二階にある安宿にて。
目が覚めた。
昨日飲んだ酒は美味かった。久しぶりに、ゆっくりと酒を飲めた気がする。
昼からは、酒場で情報屋と会う予定だ。
「旦那……。飲み過ぎでさぁ……」
昨日、一緒に飲んだ情報屋が、最初に会ったテーブルに座っていた。
気怠そうに呟いている。
「よぉ! 昨日は良い酒が飲めたな」
俺は、その向かいに座った。
「旦那……? 何でそんなに元気なんすか……。酒も強いんでさぁね……」
「とりあえず、水を飲め」
娘にも、酒を飲んだ後はいつも水を飲まされたものだ。
「よくあることだ……」
「先ずは腹が減ったな……」
俺は店主に食事を頼んだ。
この身体になってから、よく食べるようになった。
俺の前に置かれたのは、豚肉と根菜が入った、前世でいうポトフのような料理だった。味付けは塩だけだ。
前世の料理とは比べ物にならない。
それに、硬いライ麦パンを浸して食べる。
「旦那、よく食べられますね……」
俺の食べっぷりを見て、情報屋は呆れていた。
食べられる時に食べておかないと、この世界では餓死することだって珍しくない。
前世とは違うのだ……。
「ただ飯を食うだけの奴は、淘汰される。そろそろ仕事をくれないか? アンタなら、何かあるだろう」
パンを千切りながら尋ねた。
「まぁ、あるっちゃあるんですが……。旦那の実力なら、とっておきを手配しますよ」
急に嬉しそうになりやがった……。
「割に合うならな? ……分かっていると信じているがな」
警告も兼ねて、そう言っておく。
「旦那……。分かってますって。お互い、あの戦地で生き残った戦友じゃあないですかぁ……」
最後は少し語気が弱くなった。
相変わらず、変わり身の早い奴だ。
情報屋は溜息をつくと、小声で話し始めた。
「旦那、実はあまり気分の良い依頼じゃあないんです。場合によっては、殺しも含む内容でして……。ただ、報酬の額は半端じゃありません」
俺は顎で続きを促した。
「貴族からの依頼ですよ。内容は、娘の奪還。事の次第では、相手の始末も含まれます……」
「あん? よく分からねぇな」
言葉の含みに疑問を感じ、考え込んだ。
「相手は娘さんの伴侶です。依頼者は、娘が不憫な結婚生活を送っていることに憤慨しているらしく、再三、娘に別れて帰ってくるよう手紙を送っているそうです。しかし、監視されているため、娘から返事が来ないと心労を募らせているようでして……。痺れを切らした貴族さんは、自ら娘を迎えに行ったそうなんですが、娘は会ってくれなかったらしいんでさぁ……」
情報屋はパンを千切り、一口食べてから話を続けた。
「まぁ、建前はそんなところでして……。業を煮やした貴族さんが、暗部の者たちに娘の奪還を依頼したんです。さらに、邪魔をしてきたら、その伴侶もついでに始末しろと……。ですが、その伴侶も貴族です。貴族殺しとなれば、今度は自分の身に火の粉が降りかかる。だから、誰も依頼を受けようとしないんですよ……。旦那、というわけで。多分、旦那の性分には合わない依頼だと思いますが……」
俺は、残りのポトフもどきを一気に食べ切った。
「ああ……、構わねぇ。受けるぜ、その依頼」
そう答えると、情報屋は驚いた。
「旦那……、良いんですか! まぁ……、受けてくれると助かりますがねぇ……」
情報屋は、残りのポトフもどきを匙でかき混ぜながら話した。
「それじゃ、支度金はこれで……。それから、あの時の剣も回収できませんでしたので。ここから北に少し向かうと武器屋があります。そこにダディという爺さんがいますんで、そいつにあっしの名を伝えれば、話は通してあります」
名を伝える、か……。
嵐が来るなぁ……。不吉な予感しかしねぇ……。
「分かりましたよ……」
そう言うと、情報屋は一枚の札を差し出した。
「この札を渡してくれりゃ、分かりますんで……」
名前を言わない俺に、諦めたのか。それとも、別の手段を用意してくれたのか。
「それは、あっしの依頼の証でさぁ……。いい名前なんですがねぇ……」
確か、スペイン語で神様だったか……。
厄災だ。神なんて……。
「ああ……、すまねぇな」
俺は、その印が描かれた赤い札を受け取り、そのまま店を出た。
言われたとおり北へ向かうと、武器屋の看板が見えた。
俺は、その店に入った。
古臭い店だな……。
店先には誰もいない。奥から、鉄を叩く音が聞こえてきた。
「すまねぇ!」
俺が声をかけると、奥から返事があった。
「何だ! 忙しいんだ! 用があるなら、早く言え!」
声の聞こえた奥の部屋に入ると、髭を生やした爺さんが槌を片手に、俺を睨んだ。
「何だ? 何の用だ!」
苛立ってやがる。偏屈爺だな……。
「すまねぇな。これなんだが……」
情報屋から預かった札を渡した。
「はっ! あのクソ餓鬼か!」
大丈夫か……、あの情報屋。
「武器だな。おい、その中から好きなもんを持っていけ!」
爺さんが槌で示した先には、さまざまな武器が並んでいた。
俺は言われたとおり、その中から物色した。
何本か手に取り、重さを確かめながら振ってみる。
「何かねぇかな……」
どうもしっくりくるものがない。
某漫画に出てくるような斬馬刀や、竜殺しのような大剣には憧れるが、実際には使いこなせねぇ……。
「何だ、まだ決まらんのか!」
いよいよ癇癪を起こしてきたな……。
「ああ……、どうもしっくりこなくてな。すまねぇ」
こればかりは妥協したくない。
「……なら、そこにあるのはどうだ?」
髭の爺さんが槌で示した先には、壁に飾られたバスタードソードがあった。
俺はそれを手に取り、重さと握り心地を確かめた。
片手剣として持つと、手にしっくりとなじむ。
重さも長さもちょうどいい。
この長さなら、ロングソードにはない立ち回りの利く戦い方もできそうだ。
「これは良いな。すまねぇ、ついでに短剣もねぇかな?」
「はっ! よし、これはどうじゃ!」
髭の爺さんが、俺に短剣を放り投げた。
俺は片手でそれを受け止めた。
「ほう……、良い反応じゃ!」
爺さんはケラケラと笑った。
「危ねぇな……、爺さん」
改めて短剣を見る。
良い短剣だが、少し長めだ。
もう片方の手に持つと、これもしっくりくる。
「ありがてぇ、助かった」
俺は両手に武器を持ち、店の奥から出ようとした。
「店内に、その武器に合う鞘がある。選んでいけ」
「ああ……、ありがとな」
俺は言われたとおり、それぞれの武器に合う鞘を選び、店を出た。
あとは道具を揃えて帰るか……。
俺は街の中を歩いていった。
---
私がルート団長と修練場にいると、サイラス副団長がこちらへやって来た。
何やら、少し考え込んでいる様子だ……。
「団長、ユリカ様。少しご相談が……」
「どうした?」
先にルート団長が声をかけた。
「実は、近衛騎士団員のライルから相談がありまして……」
そういえば、見習い期間を経てから、二人は旧交を温めているようだった。
「彼が昨年結婚した伴侶の御父上が、貴族の方でして……」
ライルさんも、確か貴族だったはずだ。
「その御父上が厄介なことに、執拗にライルとの婚姻を解消させようとしているそうで、困り果てているようなのです……」
「何か、お二人の関係に問題でもあるの?」
ルート団長が当然の疑問を口にした。
「いえ、お二人は互いを慈しみ合う関係だそうです。どうも御父上は、話を聞く耳を持たないようでして……。何度もライルと伴侶の二人で屋敷へ向かい、説明しようとしても、門前払いされるそうなのです」
いや、それはモラルハラスメントのような……。
「しかも、娘を取り戻そうと、陰で暗部の者たちに依頼をしているとの噂もあるようでして……」
いや、さすがにそれはまずいでしょう……。
貴族同士でそんなことになれば、国王も黙ってはいないはずだ。
「そこまでのことになれば、さすがに国王も黙ってはいないのでは?」
ルート団長が尋ねた。
「はい。私もそう思い、ライルに尋ねたのですが……。こんな勘違いで義理の御父上を貶めるようなことはしたくない、と。話せば分かるはずだと、今でもお二人で手紙を送っているそうです……」
居たたまれないな……。
「私に何かできないかと、思い悩んでいまして……」
サイラス副団長は、手を握り締めていた。
「とりあえず、今はライル殿から詳しく話を聞いてあげるほかないだろう」
そうですよね……。
私にも、すぐには良い考えが浮かばない。
そうして、日が経った……。
まさか、また出会うことになるとは。
しかも、思いもよらない形での再会だった……。




