異世界編:英雄になった異世界の私と再生する男
# エピソード18 離別と出会い
近頃、魔物が人里や街を襲撃する事件が極端に増えていた。
各国に救援要請を出したが、どの国も自国の領地で発生している魔物の襲撃への対応に追われているようだ。
最近、特に気になることがある。魔物の数が異常なほど増えているのだ。
長寿であるエルフ族などの話によると、過去数百年、これほど多くの新種の魔物が出現したことはないらしい。
私は王国騎士団の修練場に来ていた。
家に一人でいるのが辛くなったからだ。
異世界に来てから、聞こえなくなったはずのあの声が、再び聞こえるようになった……。
『何がヒーローだ!』
『どうせ、何もできない』
『なんで、助けてくれないの!』
『寒いよ……死にたくないよ……』
「何で、また!」
私は両手で耳を塞いだ。
「うるさい! うるさい!」
もう、嫌だ!
「ユリカちゃん! どうしたの?」
カーラさんが駆け寄ってきた。
「嫌だ! もう嫌だ!」
何で、また聞こえるの!
私は生まれ変わったのに!
「落ち着きなさい!」
バシーン!
カーラさんが私に平手打ちをした……。
「痛い!」
首が飛ぶ……!
「良かったわ、元に戻ったみたい♪」
悪意がないのは分かりますよ……。
「カーラさんが平手打ちしたら、首が飛びます!」
マジで!
「あら、加減してるわよ♪ それより、何があったの?」
見られたのなら、仕方がない……。
「実は……」
私はカーラさんに話した。
街が魔物に襲撃された事件の後、あの声が聞こえるようになったこと。そして、自分の力が足りず、皆を救えなかったことが苦しいのだと。
「ユリカちゃんはね、優しいのよ……。そう、誰よりも人の痛みが分かるのよ……。その声は、そんなユリカちゃんの心の痛みにつけ込む卑怯な呪いね……」
呪い……?
前世の先生も、両親も、そんな言い方はしなかった。
この声は、本当は自分自身の声なのだと聞かされたことがある。
「私……どうすれば……」
藁にもすがる思いだった。
「そんなの、ぶっ倒すしかないでしょう!」
カーラさんは、きっぱりと言い切った。
「ぶっ倒す……?」
私は、たぶん間の抜けた声を出したと思う。
「そうよ♪ でも、ユリカちゃん一人で苦戦したら、私が助けるわ! さっきみたいに、バシーンってね♪」
いや! それは……。
「少しでも加減を間違えたら……死んじゃいますよ……」
私はげんなりした。
「その調子なら、大丈夫ね♪ 次は強化魔法を掛けてから打ってあげるわよ♪」
「私、木っ端微塵になります!」
ぎゃー!
「冗談よ♪ またね」
カーラさんは、そう言って去っていった。
少し元気になった……。
そして、声も聞こえなくなっていた。
呪いか……。
考えたこともなかった。
「ユリカ様!」
サイラス副団長が、こちらへ駆け込んできた。
「サイラス副団長? どうしたのですか?」
何かあったのだろうか。
「オデッサ城塞都市に魔物の大群が出現しました! 先ほど、伝令が早馬で到着したばかりです!」
大変だ!
もし城塞都市が陥落すれば、道中の街や、この王国まで危険にさらされる!
「今から、向かいます!」
「お待ちください、ユリカ様! あれほど単独行動は……!」
再三、ごめんなさい!
「変身!」
私は走りながら変身した。
「風のメンタル!」
“WINDS!! MOTION!!”
光り輝き、どこからともなく派手な音と声が響き渡る。
私は突風のごとく、飛び去っていった。
---
この出来事の二日前。
東の街道を進んできた荷馬車が、オデッサ城塞都市に到着した。
「ありがとうな、助かった」
よく鍛えられた、ガタイの大きい男が荷馬車の持ち主に声を掛けた。
「こちらこそ、道中の危ないところを助けてもらった。気を付けてくれ」
俺は手を挙げ、城塞都市の門へ向かった。
「身分を証明するものを提出するように」
門番か。検問だな。ご苦労さん、と……。
「これでいいか?」
俺は、冒険者ギルドの証明となる魔法が込められた水晶を渡した。
「冒険者ギルドのものか。コウイチ、珍しい名前だな。なっ! 銀等級か……これは失礼した」
この異世界では、鑑定魔法を使える者は多い。
どこかの小説みたいに、鑑定魔法を使えるだけですごい、という世界ではない。
「気にするなよ……。別に依頼で来たわけじゃない。それに、俺みたいな名前は東では結構いる」
少し愛想よくすると、門番も安心したようだった。
「承知した。ところで、最近この辺りでは頻繁に魔物が出没する。もし依頼がないなら、こちらのギルドで依頼を受けてもらえると助かる。銀等級の腕なら、頼りになるだろう」
門番はそう言って、俺を通してくれた。
「ああ……ここのギルドには顔を出す。ありがとうな」
俺は、まず酒場に向かった。
酒が先だ。
街に入ると、城壁に守られた街中を多くの人々が行き交っていた。
「こりゃ……」
外から見れば頑丈な城塞だが、中から攻められたら一巻の終わりだな。
さて、俺は本物の冒険者ギルドの証明書なんて持っちゃいない。
外道冒険者を始末した後、そいつの身分証を偽装したものだ。
水晶を眺めながら、俺は考えた。
俺が魔物の手先なら、どうする……?
「まあ……俺には関係ねぇ……」
一人つぶやいてから、目の前の酒場に入った。
酒場には、昼間から酒を飲んでいる連中がいた。皆、辛気臭い顔をしている。
俺はカウンターに座り、エールを頼んだ。
周囲をさりげなく観察する。
店内全体と入口を見渡せる、中央の壁際のテーブルに、一人で座っている男がいた。
俺は店主からブドウ酒をもらい、その男の席へ向かった。
「なあ、少し飲まないか」
そう声を掛けると、男は俺を見上げた。
「見ねぇ顔だな……。まあいい、座りな」
俺は男にブドウ酒を渡した。
「何で、俺に声を掛けた?」
「アンタなら、いろいろ知っていると思ってな……。それに、一人でテーブル席に座って、壁に背を向けているのはアンタだけだ」
男は小さく笑みを浮かべた。
「はっ! そうか。しかもカウンターから、俺が今飲んでいるのがブドウ酒だってよく、分かったな。ここらじゃ、大抵エールを飲んでるぜ」
少し警戒させたか……。
「ああ……それは顔立ちだ。知り合いに北西の出身者がいてな。その辺りじゃ、ブドウ酒をよく飲む。店主に頼んで無ければ、エールにしたさ」
俺がニヤリと笑って顔を向けると、男は感心したように言った。
「はっ……面白ぇ奴だな。で、何が聞きたい?」
「最近のここの情勢と、マスラ王国の英雄さんのことだ……」
俺はエールを一口飲み、銀貨を三枚取り出した。
情報屋と推測した男が口を開いた。
「そうだな。ブドウ酒の礼だ。」
「まず、最近は異常なほど魔物が出現して、人里への襲撃も頻繁に起きている。当然、他国に救援を依頼したが、どの国も自国の領地で魔物の襲撃に対応するので手いっぱいだ。『こっちも襲撃を受けてるから、無理です!』ってなもんだ。」
「他国が疲弊したら、後で自治領にするつもりなんだろう。魂胆が丸見えだ。」
「そして、新種の魔物が出現している。しかも、ほかの魔物と違って、かなり知性が高い。誰が指揮しているのか、統率まで取れている。魔物相手に有効だった戦略も、あまり通用しなくなっている。」
「そこで……」
情報屋はブドウ酒で喉を潤した。
「ゴリ押しの戦いが必要な、一騎当千の戦力だ。」
「まずはマスラ王国騎士団。一際目立つのは、女団長だ。投影魔術の行使を得意としていて、千の斬撃で攻撃する。」
「そして、お待たせだ……。神から力を授かり、光り輝いて福音が聞こえると、神の使徒へと変わる。四大魔術をその身にまとい、炎や冷気、旋風、そして金剛の力を使う。まさに一騎当千の力を発揮するらしい。」
「しかも、女団長も英雄さんも、十代後半の女の子だとよ」
最後に、情報屋は驚きだろうと言わんばかりに笑った。
「へぇーっ、年頃の女の子か。名前とか分からねぇか?」
情報屋から、いやらしい笑みを向けられた……。
下衆が!
「はっ、まあ……いいってことよ。確か……ハイデルとライデンだったな……」
俺は立ち上がり、一気にエールを飲み干した。
「助かったよ。またお願いしに来る」
そう言って、その場を去った。
外に出ると、何やら周囲が騒がしい。
ここの騎士団員たちが走っていった。
何か始まったな……。
俺は少し距離を置いて、騎士団員たちについていった。
城壁に上がる階段がある。俺も後ろから上がっていったが、誰にも声を掛けられなかった。
「おい! 外だ!」
「見ろ!」
「何だ、あれは!」
周囲から慌ただしい声が聞こえる。
ようやく外が見える場所まで上がった。
「たまんねぇな、こりゃ……」
俺は、自分の運の悪さを呪いたくなった。
城壁の上から外を見渡すと、魔物の大群が東から北、そして西までを埋め尽くしていた。
「魔物の襲撃だ! 全団員、戦闘用意!」
慌ただしい声が飛び交う中、俺は南門へ向かうため、階段を降りた。
冗談じゃねぇ。こんなでたらめな状況に付き合っていられるか!
襲撃を知らせる鐘の音と、民衆の混乱した声が、阿鼻叫喚となって街中に響き渡る。
それを無視して、脱出を図る。
俺には、やることがあるんだ!
走り出した先に、あの情報屋がいた。
「さっきの旦那! 何があったんで!」
俺の走る速度に合わせ、並走してきた。
こいつ、意外と体力があるな。
「あっ! ついて来るんじゃねぇ。襲撃だよ、魔物の!」
俺は少し走るペースを上げた。
「待ってくださいよ……!」
チッ! さっきとは態度が違うな。
状況に合わせて立ち回れる奴は長生きする。
「取引だ。さっき北側の城壁の上から確認した! 東から西まで魔物で埋め尽くされていた! 南門から脱出する。案内できるか!」
「はい! 行けます!」
「よし、それまでは護衛するから、先導してくれ」
俺は走るペースを落とし、情報屋に案内させた。
「旦那、俺はエルニーニョです」
うるせぇな! 面倒くせぇ……。
「旦那、もうすぐですぜ!」
よし!
悪いな。俺は正義のヒーローじゃねぇ!
南門に近づくと、何人か街から脱出しようとしている人々がいた。中には女や子供もいる。
「旦那! 外に魔物が!」
情報屋が叫び、こちらへ戻ってきた。
「門番や騎士団は!」
「戦ってますが、数が足りないみたいで!」
クソ!
何匹か始末して、脱出するしかねぇ!
短剣を持った大きな猿のような魔物が、南門の橋の周辺にいた。道を開くには、数十匹は片付けなければならない。
魔物に押されている騎士の後ろへ近づいた。
「邪魔するぜ!」
驚いた騎士が横へ動いたのと同時に、俺は魔物の首に、爺からもらった剣を突き刺した。
「ギッー!」
魔物は絶命した。
この魔物は、今まで何度も殺してきた。
戦っている騎士たちの陰から、魔物の意表を突いて始末していく。
ただし、騎士に斬られないよう、必ず声を掛ける。
「ちょっと、横から入るぜ!」
そして、十匹ほど始末した頃に叫んだ。
「行くぞ!」
情報屋に声を掛ける。
「今、行きますぜ!」
その時、魔物が襲い掛かってきた。
俺は持っていた剣を、その魔物に投げつけた。
「ギッー!」
「助かりました、旦那!」
武器は失くしたが、撤退するチャンスだ!
「きゃー!」
まだ幼い女の子が、魔物に襲われていた。
バカだ、俺は……。
考えるより先に、身体が動いた。
俺はその子に覆いかぶさった。
次の瞬間、背中に衝撃が走った。
ドスッ!
魔物の短剣が、俺の背中に突き刺さった。
「グワーッ!」
痛みに思わず声が出た。
それから何匹もの魔物が、仲間の仇を討つかのように集まり、俺を何度も刺した。
「旦那!」
気付いた騎士たちが魔物を追い払ったが、何匹かはまだ俺を刺していた。
ようやく魔物が離れたところで、先ほどの女の子の母親が駆け寄ってきた。
「エリカ!」
「ママ、助かったの! あのおじさんが……!」
「旦那! あれじゃ……」
情報屋が近づいてきた。
「クソーッ!」
俺が立ち上がると、誰かが叫んだ。
「ゾンビ~!」
「うるせぇ! 生きてんだよ!」
俺は急いで自分の剣を拾った。
背中の傷は……大丈夫だ。塞がっている。
「おじさん、ありがとう!」
助かったか……。
一瞬だけ気絶していたらしい。
寝覚めが悪い。
この辺りの魔物を減らしてやるか!
「情報屋! 予定変更だ。腹が立つから、さっきの魔物どもを殺す!」
俺は、すぐさま先ほどの猿どもを始末した。
残りの魔物も、騎士たちと協力して全滅させた。
「あんた、すごい戦いぶりだな。あんな剣技は初めて見た」
騎士に褒められたが、嬉しくねぇ。
お前らの剣技がままごとみたいだから、対処が遅れるんだよ。
「旦那、背中の傷は?」
「ほっときゃ治る」
「……よくあることだ」
そんな時、空を飛んでくる緑色のコスプレが見えた。
「英雄様が来た!」
はっ、英雄?
コスプレーヤーの間違いだろう。
まあ、ユリカは好きそうだな……。
「おい、情報屋! あれが、さっき話していた英雄様か?」
「はい、そうですぜ、旦那。それより、早くここから逃げましょうぜ」
俺一人なら、この戦線で生き残って脱出することは可能だ。
「悪ぃ。俺は少し残る」
そう言うと、俺は先ほどの北側の城壁へ駆けていった。
「あっ! 旦那! 危ないですよ、旦那!」
エルニーニョは、唖然として立ち尽くした。
---
俺が北の城壁に戻ると、魔物の大群と戦う騎士団の姿が見えた。
そして、その戦線の中に、先ほどの英雄がいた。
疾風怒濤のごとく戦場を駆け、風をまとった身体から風の魔法を繰り出して、次々と魔物を斬り裂いている。
何だ、ありゃ……。
でたらめだ。
多分、城壁から魔法やバリスタなどの長距離攻撃を浴びせるのが、城塞都市の基本戦術のはずだ。
だが、あのコスプレが戦線を突破したことで、魔物を押し返すチャンスだと思ったのだろう。
しかし……あのコスプレ、突出しすぎていないか?
単独で。
いくら圧倒的な力があっても、討たれる奴を俺は知っている。
いや、俺はそういう奴らを始末してきた。
しばらく様子を見た。
俺なら、どうする……?
「そうだな……俺なら」
考え込んでいた頃、魔物たちに動きが見られた。
ゆっくりと撤退していく……?
何か引っ掛かる。
くそっ!
そうか……。
俺は、あの戦線へ駆け出した。
道中、戦線に取り残された魔物がいたが、構わず駆ける。
時間がねぇんだよ! 邪魔だ!
進路を塞ぐ魔物だけを始末しながら、ひたすら駆けた。
まだ、魔物たちは撤退している……!
---
「ユリカ様、魔物たちが退いていきます。我々の勝利です!」
あの時、お世話になった国境警備団のジャン団長だった。
私は魔物たちの撤退を確認して、変身を解いた。
「流石は英雄ですな! 疾風怒濤のごとくとは、まさにこのこと!」
北の国境への調査に同行したケンさんも、そう言ってくれた。
その時、後ろからざわめきが起きた。
何だろう?
「貴様、止まれ!」
「味方だって言ってんだろうが!」
剣がぶつかり合う音がする。
まだ敵がいるの?
どうやら、一人の大柄な男性が、国境警備騎士団の人たちと打ち合っているらしい。
すごい……あの人数を一人で相手にしている!
だが、少しずつ斬られている。
人間同士なのに、どうして?
「やめてください! 何で人間同士で……!」
「ユリカ様、ありがとうございま……こ……こ……れ……は! 私の……わた……私……かん……」
後ろを振り向くと、確か……リザベットさん?
何か様子がおかしい。
「俺なら、一番油断した時を狙う!」
「リザベットさん?」
「私の……か、感謝……!」
リザベットさんは狂ったように笑った。
その瞬間、光が走った。
そして私は、お尻を蹴飛ばされた!
「えっ!?」
身体が宙を舞う。
「だよな!」
リザベットさんから閃光が放たれた。
私を蹴飛ばした大柄な男性が、私のいた場所に覆いかぶさる!
ドーン!!!
その場が爆発した!
「うおーっ!」
「キャー!」
皆が、それぞれ絶叫を上げた。
砂埃が舞う。
先ほどリザベットさんがいた場所には、あの大柄な男性が持っていた剣と、真っ黒に焦げた靴、そしてリザベットさんのものと思われる、血まみれの千切れた手が残されていた。
「ほかに罠がないか、確認しろ!」
ジャン団長が、雄叫びに近い声で指示を出した。
ケンさんが私に寄ってきた……。
なぜか、私は後ずさりした。
「大丈夫ですか、ユリカ様?」
ケンさんが心配そうに尋ねた。
そこへ、王国騎士団の皆がやってきた。
「ユリカ様ーッ!」
「本当に心配しました!」
サイラスさんが、こちらへ駆け寄ってきた。
私はケンさんから離れ、皆に向き直った。
「皆さん、本当にごめんなさい!」
真剣に頭を下げた。
そして、その時……急に涙が溢れた。
リザベットさんが、なぜ?
あの時、一緒に調査に行ったのに……。
それに、先ほどの大柄な男性!
私のために、死んでしまった……。
なぜだろう。
涙が止まらなかった。
嗚咽を上げて泣いた。
その時、頭に浮かんだ言葉があった。
『私のために死なないでね』
私の狼狽ぶりに、皆は何も言わず、ただ見守ってくれた。
---
それから、数時間後。
「旦那!」
あの爆発現場から百メートルほど離れた場所にある瓦礫の陰で、情報屋が半裸状態の俺を見つけた。
「よく見つけたな」
こいつ、逃げ出さなかったのか……。
「って言うか、こっぴどくやられましたね。まるで、一度木っ端微塵になったみたいに……」
「ああ……なったよ。ったく……ひでぇ目に遭ったよ」
俺は、とりあえず服を探すことにした。
「ところで、用事は何とかなったんですか? 旦那……」
ああ……取りあえずはな。
「やりたいことはできた……。娘のケツを蹴飛ばすこと。そして、命を救ったこと……までは、何とかな」
情報屋は、は? という顔になった。
そりゃそうだろうな……。
しかし、はっきりと顔は見られなかったが……あれが、ユリカか。
長かったな……。
俺は空を見上げた。
少し、涙が溢れた。
「情報屋、あの剣を回収しよう。それと服だ。あと、無一文になっちまった。服もねぇ。助けてくれ。そしたら、しばらく用心棒になる。どうだ?」
情報屋は笑った。
「やっぱり、面白い人だ、旦那! 任せてくださいよ……。あと、エルニーニョという立派な名前を、いい加減覚えてくださいよ」
エルニーニョ?、呼びたくねぇ。災害を引き起こしそうな…?もしかしたら、コイツの性なのか、絶対に呼ぶもんか!
「よし、頑張って覚えるよ、情報屋」
肩を落とした情報屋は、ため息をついた。
「分かりました。取りあえず、服と食事、それに宿ですね。しっかり返してくださいよ」
俺は、ようやく会えたユリカのことを思いながら、再び歩き出した。




