異世界編:王国騎士団と英雄になった異世界の私
# エピソード17 異世界の英雄
あの北の国境への遠征調査から、しばらくの時が経った。
教会の教皇から英雄としての祝福を受けた私は、国王に謁見する機会を与えられた。
謁見の場に呼ばれたのは、私のほかにルート団長、アリサ嬢、そしてリッキー教官だった。
目の前には、マスラ王国の国王、マスラ・ルコス国王が玉座に座しておられた。
「よく来られた。英雄ハイデルよ……。今後も、この国と民にそなたの力を貸してくれ」
国王の声からは、物腰の柔らかさと優しさが感じられた。
「ありがたきお言葉。身命に代えましても、この国と民をお守りいたします」
私は平伏し、ルート嬢の監修のもとで練習した台詞を、一度も噛まずに言い切ることができた。
ルート嬢、厳しかったけど……練習しておいて良かった……。
謁見の間を退室すると、近衛騎士団長のシンゴール団長が、私たちの前にやって来た。
「お父様……!」
アリサ嬢が驚いた声を上げた。
「アリサよ、はしたない声を出すものではない。そして、人前では団長と呼びなさい」
シンゴール団長は、優しくアリサ嬢をたしなめた。
「失礼いたしました。ところで団長、本日は宰相としての執務に当たられているとお聞きしておりましたので……」
シンゴール団長は手をかざし、アリサ嬢の言葉を制した。
「英雄ハイデル様、私はシンゴールと申します」
そう言って、私に恭しく礼をした。
「覚えてはいらっしゃらないでしょうが、幼少の頃に何度も顔を合わせておりました。御父上のことは、残念です……」
「シンゴール団長……。ありがとうございます。ですが、私は今も、御父上とライデン団長が生きていると信じています」
私も礼を返した。
「そうですね……。失礼いたしました。本日はお会いできたことを、心より感謝いたします。それでは、これにて失礼いたします」
そう言い残し、シンゴール団長は去っていった。
会ったことを覚えていないけれど、とても気品のある方だ……。
でも、アリサ嬢の狼狽ぶりを見ると、厳しい方なのだろう。
私たちも、その場を後にした。
その後、私は王国騎士団の副団長を退くことになり、後任を決めることとなった。
ルート団長が指名し、私も推薦したのがサイラスさんだった。
当初はダナソン公かリッキー教官が後任になるという話もあったが、お二人とも頑なに固辞された。
サイラスさんは初めこそ戸惑っていたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「ハイデル副団長とユリカ様の後任! しかと務めさせていただきます!」
涙ながらに決意を語るサイラスさん。
これで、ようやく師匠枠から外れることとなった……。
……いや、そもそも私は、師匠になったつもりなんてないのだけど。
ともあれ、サイラスさんに後を託した私は、ルート団長たちと共に、各地に現れた魔物の討伐へと向かった。
あの日以来、私は英雄として戦地に赴くようになった。
私が孤軍奮闘を続けるたびに、名声が集まってきた。
けれど、私は名声が欲しくて戦っているわけではない。
ただ、多くの人々を救いたい。それだけだった。
私が憧れたヒーローは、基本的に孤軍奮闘することが多かった。いつだって、人々がピンチに陥れば、すぐさま駆けつけていた。
だから、私もそうありたいと思っていた。
しかし、そのたびに王国騎士団の団員たちから苦言を呈された。
「なぜですか、ユリカ様! お願いです! 単独での出立は自重していただきたい……」
そう訴えるのは、王国騎士団の副団長となったサイラス副団長だった。
「ごめんなさい……! でも、一人……。そう、一人でもいい。私の手が届く限り、一人でも多く救いたい! 皆を信じていないわけじゃないの!」
サイラス副団長は、悲痛な表情を浮かべた。
申し訳ない……本当に、ごめんなさい……。
「サイ副団長、お願い……。二人にさせて」
ルート団長が、サイラス副団長を見つめた。
多分……すべてを察したのだろう。
サイラス副団長は、敬礼をすると、その場を去っていった。
「変わらないわね、ユリカ様……」
「やめて! 何よ、それ……。何だか、私は別人みたい……」
私は泣きそうになった。
前世の自分を思い出したからだ。
何かをやっているつもりで、結局、何もできなかった自分を……。
『もう……いいかな、ユリカ! やっぱり、分からないの!? 何で分からないの?』
やめて……。
答えは知っている。
でも、どうして……死にたくない人まで、死んでしまうの……?
「何で……!?」
「貴女は英雄になった……。でも、どこまで行っても一人の人間なの。貴女がどんなに手を広げても、一人なの……」
ルート嬢は、私を真っすぐに見つめていた。
「だから、分かってほしい。私は……いえ、皆がいる。貴女と共に、人々を守る仲間がいるの。お願い、これ以上、独断で行動するのはやめて。今まで、何度肝を冷やされたことか……」
ルート団長……いや、ルート嬢……。
「ごめんなさい……。これからは気を付けるね……」
私は頭を下げた。
すると、ルート嬢は笑った。
「貴女のそれ……。絶対にまたやるやつでしょ。ねえ、ユリカ?」
ちょっと待って……。
私、結構、素直に言うことを聞く方だけど……。
「ひどくないですか……ルート嬢」
でも、ごめんなさい……。
「私をそう呼ぶの、久しぶりね」
王国騎士団長になった日から、肩書きなしで、こうして呼ばれるのは久しぶりだった。
そして、私が英雄として認定されてからは、ルート嬢も含め、皆が私を敬称付きで呼ぶようになった。
絶対に慣れない、こういうの……。
「そういえば、もうすぐ十八歳になるわね、確か」
ルート嬢は、すでに十八歳。私の誕生日も、もうすぐだった。
父がいた頃は、必ずお祝いしてくれた。
そういえば、前世でも、両親が必ずお祝いしてくれた。昔は兄も一緒だった……。
「御父様が行方不明になってから……かなりの時が経ったわ。まだ生きていると思う……」
多分、ルート嬢は答えを求めているわけではないのだろう。
「はい。必ず……」
それでも、私は答えた。
そこには、私自身の願いも込められていた。
「そう……。なら、戦って勝って、あの時の黒フードを引きずり出しましょう!」
ルート団長が立ち上がり、私に笑顔を向けた。
「それでは、よろしくね。英雄ユリカ様!」
えっ!?
最後の締めがそれですか、ルート嬢……。
私はガクッとなった。
そんな私を笑いながら、ルート嬢はこの場を離れていった。
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場所は変わり、人知れぬ場所。
地下へと続く入口があった。
その奥には、黒いフードを被った男がいた。
「また、新しい素体を用意しないとな……」
男の背後に、黒い空間が現れた。
「お呼びでしょうか?」
二人の、同じく黒いフードを被った者たちが、黒い空間から姿を現した。
「素体が足らん……。少し人里を急襲せよ。最近は警戒されているのか、山や森に入る者が減った……。素体を確保する方法を変えよう」
「承知いたしました。それでは、準備を整えます」
二人が下がろうとした、その時だった。
「ああ、そうだ。例のマスラ王国の英雄の件だが……。奴をもっと試したい。魔物の増強を頼む」
二人は頭を下げ、再び闇の中へと消えていった。
「あいつは、確か……魔神王が執着していた奴だったな……」
黒いフードの男は、少し考え込んでいた。




