異世界編:王国騎士団の新しい力と異世界の私
# エピソード14 王国騎士団の再編成と国境の調査
あの御二人、王国騎士団の団長と副団長が戻らないまま、十日が経った。
結局、王命が下り、王国騎士団の再編成が行われた。団長にはダナソン公が、副団長にはリッキー教官が任命された。
ダナソン公は、私の騎士団入団試験の時の試験官だった。
ただ、お二人とも、あくまで代理として、その役目を引き受けていた。
ライデン団長とハイデル副団長は、何処かで生きている。いつか必ず戻って来る。そう信じていたからこそ、お二人は帰還までの間、騎士団を守ることを決めたのだ。
しかし、時が経つにつれ、その想いにも少しずつ陰りが見え始めた。
それでも、私達は戦い続けた。
あれから私は十六歳となり、王国騎士団の中枢を担うようになっていた。多くの魔物を討伐し、私達の奮戦が大勢の民を救ったことは間違いない。
その中でも、最も多くの魔物を討伐したのはルート嬢で、次いで私だった。
特に、ルート嬢のスキルによる斬撃の嵐と、私の多彩な魔術を織り交ぜた体術。そのコンビネーションは、魔物の屍の山を築き上げた。
そんな私達の覚悟と活躍を目の当たりにしたダナソン公とリッキー教官は、やがて決断した。
私達二人を王国騎士団の団長と副団長に据え、自分達はその補佐に徹することを。
それは、ただ次の世代に役目を譲るためだけではなかった。
あの事件で何が起きたのか。そして、行方不明になった御二人は今、何処にいるのか。
その真相を知りたいという想いもまた、お二人の胸の内にあったのだ。
そして、私が十七歳になる手前、私達は歴代最年少で王国騎士団の団長と副団長に就任することになった。
こうして、ルート団長とユリカ副団長が誕生した。
もっとも、ダナソン公とリッキー副団長が自ら辞任を申し出て、私達の補佐に徹すると固辞したことが、一番の理由だったのだが……。
私達は辞任式の後、二人でいつもの森の奥へと向かった。
「ユリカ副団長、此処まで来れたわ……」
ルート団長が、私の目を真っ直ぐに見つめる。
「はい、ルート団長……」
私は黙って頷いた。
「私の目標は達成したわ。想わぬ形だけど……」
そう言って、ルート団長は私に手を差し出した。
「御父様達の安否を確認したいの……。今回の遠征は、そのための調査でもあるわ。もしかしたら、リッキー教官から話のあった黒いフードの男に遭遇するかもしれない。行きましょう、一緒に!」
「はい!」
私は、ルート団長の手を握った。
あれから、私達はダナソン公とリッキー教官に何度も相談を重ねた。そして、例の北にある国境付近の調査を目的とした遠征が決定した。
今回の遠征には、私達のほかに、見習い騎士である第二隊のメンバーとリッキー教官が参加することになった。
そして、何故かドンディさんとレイシーさんも参加する。
さらに驚いたことに、既に王国騎士団を抜け、近衛騎士団に入団していたアリサ嬢と、その従者のロイまで同行することになった。
ロマリックさんとライルさんも近衛騎士団に入団しており、今回は同行しないそうだ。
というか、アリサ嬢は近衛騎士団団長である父上から、今回の遠征への参加を命じられたらしい。
私達は、遠征の準備に取り掛かった。
ルート団長がアリサ嬢の近くへ行き、頭を下げる。
「近衛騎士団の御協力、感謝する」
私もルート団長に倣い、頭を下げた。
「勘違いしないで! 私の御父上が、ライデン団長とハイデル副団長の安否を気にして、貴女達の助けになるよう、私に命じられたからよ!」
相変わらずですね、アリサ嬢……。
「ロイ! 行くわよ!」
アリサ嬢はロイを引き連れ、遠征の準備を手伝いに向かった。
ありがとうございます……。
「ルート団長、ユリカ副団長! 本日の夜までには準備が整います。その後は、いつでも出立できます!」
サイラスさんだ。今回の遠征に、誰よりも早く賛同した一人でもある。
「報告、ご苦労だった。だが、出立は明朝からだ。余り焦ると、思わぬ危険を招く可能性がある」
ルート団長は、きっぱりと命じた。
「了解致しました。それでは、不備がないよう、再度点検を行います!」
敬礼をして踵を返すと、サイラスさんは準備の現場へと向かった。
「はぁ~、私のオロビオ君は何処に……?」
荷馬車の中に蹲っているショタ眼鏡がいた……!
「貴様、何をしている! さっさと皆の手伝いをしろ!」
ルート団長が荷馬車を蹴った!
「ヒェッ! す、すいません!」
ショタ眼鏡は、慌てて現場へと駆け出して行った。
ショタ眼鏡、未だ諦めていなかったのか……。
私達の後ろに、リカメイさんが現れた。
「団長、私が先行する案は、やはり受けて貰えないか……」
「有難い申し出だけれど、貴女に何かあれば、諜報団員達に申し訳が立たない。貴女の実力は十分に認めているわ。それを考慮しても、許可するわけにはいかない。二度と同じ轍を踏みたくないの」
ルート団長の気持ちは、私も同じだった。
大切な人を失った者の痛みは、計り知れない。
「了解した。では、後程」
リカメイさんは、そう言い残して姿を消した。
そして翌朝、私達は王国騎士団の皆に見送られながら出立した。
道中、リッキー教官が私達の馬に近寄ってきた。
「ルート団長……少し良いかね?」
「はい……」
リッキー教官は、私達と馬を並べながら口を開いた。
「私は今回、生命を懸ける所存だ……」
「待って下さい。そんなことをしても、誰も報われません」
ルート団長が、真剣な表情で答えた。
「いや、これは私にとって最後の使命なのだ。必ず、あの御二人の至宝を無事に護らなければならない」
リッキー教官は、私達を見つめた。
「実は、貴女達の教官を務める際、見習いの皆だけでなく、御二人からも、貴女達のことを重々に頼まれていたのだ。そして最後に、教官の役目を私が務めることを信頼していると、そう伝えられた」
そこで、リッキー教官は少しだけ視線を落とした。
「私は未だに、自分自身を信頼できない。いつも怯え、自信のない自分が嫌いだった。だが、あの御二人は、最後まで私を信頼し、後を託してくれた」
そして、再び顔を上げた。
「だからこそ、最後まで自分の務めを果たす。今度こそ、御二人から託されたものを護り抜いてみせる」
そう言うと、リッキー教官は天を見上げた。
そして、私達に頭を下げると、隊列の後方へと戻っていった。
私達は道中の中腹にある、川原で休憩を取った。
人間だけでなく、馬にも休息は必要だ。
私とルート団長は、自分達の馬に食事を与えた。
馬に水を飲ませ終えた頃、ドンディさんとレイシーさんがこちらへやって来た。
「団長達と出会えると良いな……」
ドンディさんが、ぼそりと呟いた。
少し照れ臭かったのか、いつもの調子とは違う。
気を遣ってくれたのだろう。何時ものヤンキーらしさも、少し影を潜めていた。
「私も、出来る限りのことをさせて頂きたい。団長達には、大変お世話になりましたので……」
レイシーさんも、凛とした表情で言った。
静かな言葉だったが、その想いは十分に伝わってきた。
「とても助かります……」
ルート団長は、恐縮した様子で答えた。
この二人も、近いうちに近衛騎士団へ入団することになっている。
ドンディさんは貴族なのだ……。見た目だけで判断してはいけない。
二人は一礼すると、その場を離れていった。
私達が馬の引綱を杭に繋ぎ、休ませていると、リアンさんとジョイさんがやって来た。
「ルート団長様、お食事の御用意が出来ております」
「ユリカ副団長も参りましょう」
二人に促され、私達は野営地の中心へと向かった。
そこでは、カーラさんが調理をしていた。
「先ずは栄養を摂らないと、いざという時に力が出ないわ」
カーラさんは、野菜と肉を煮込んだスープを木の深皿によそい、皆に順番に配っていた。
野営では、一度に栄養を摂れるスープは有難い食事だ。
うん、身体に染み渡る……。しかも、味付けも絶妙だ。
今日の夕方には、オデッサ城塞都市に到着する予定だ。
その後は一度、そこで情報を収集し、次の調査方針を改めて組み立てることになっている。
皆から少し離れた場所で、私達が食事をしていると、アリサ嬢が神妙な顔をしてやって来た。
「こんなこと、多分、私しか言えないと思うから、敢えて聞くわ……」
アリサ嬢は、ルート団長を真っ直ぐに見つめた。
「この遠征に期待を抱いて臨むのは、私にも理解できるわ。でも、余りにも個人的な感情が滲み出ているように見える。皆は何も言わないけれど、貴女はどう考えているの?」
少し間を置いて、ルート団長が答えた。
「有難い忠告として受け取るわ。でも、誤解しないで。決して、個人的な感傷だけで動いているわけではない。それは本心よ……」
アリサ嬢は、それだけでは納得しなかった。
「では、今回の遠征調査が必要であると証明できる説明を頂けるかしら?」
ルート団長は、静かに頷いた。
「今回の調査に踏み切った理由の一つは、魔物の増加と、襲撃してくる新種の魔物が増えていること。そして、最大の理由は、あの事件以来、魔物達に統率が取れているという違和感よ……」
ルート団長は、包み隠さずアリサ嬢に話した。
「間違いなく、御父上達が行方不明になったあの事件と、この異変は深く関わっていると推測しているわ」
「そんなこと、貴女の聡明な団長にも、当然耳に入っているはずよね?」
アリサ嬢は、少しだけ目を細めた。
「貴女が任務のためだけに、今回の遠征調査に参加したとは思いたくないけれど……。それで、本当の理由は何なの?」
ルート団長は、アリサ嬢を見返した。
すると、アリサ嬢は堪えきれないように口を開いた。
「貴女の最近の腑抜けた顔に腹が立つのよ! この任務で何を為すのか、この目で確認して、私の生涯の好敵手として相応しいか判断するためよ!」
そして、びしっと指を突きつけた。
「今後も私の好敵手でありたいなら……その腑抜けた顔を、早く直しなさい!」
出た、鉄板のアリサ嬢印の指差しポーズ!
「何時から生涯の好敵手になったのかしら? 知らなかったわ」
出た、鉄板のアリサ嬢への煽り!
「な、何よ! と、とりあえず忠告したから!」
アリサ嬢はご立腹の様子で、その場を去っていった。
「ありがとう……」
ルート団長が、小さく呟いた。
御二人とも、素直じゃないな……。
その後、私達はオデッサ城塞都市へと向かった。
到着したのは、日暮れ時だった。
リッキー教官の話では、父達はあの事件の後、強行軍で北の国境へ調査に向かったはずだ……。
「皆、この後は宿舎をお借りできるよう、城塞国境警備団に依頼してある。各自、準備が整い次第、国境警備団員から案内が来るので、それに従え!」
ルート団長は、皆に指示を出した。
「私達は、国境警備団の隊舎へ向かう。後のことは任せた!」
団員達が動き出した後、私達は門番に声を掛け、隊舎へと案内してもらった。
「お久しぶりです。ルート団長殿」
出迎えてくれたのは、ジャン団長だった。
「此方こそ。ジャン団長殿には、こちらの依頼をお引き受け頂き、誠に感謝しております」
私達は敬礼をした。
ジャン団長殿は、鍛えられた身体つきの、屈強な三十代後半ほどの騎士だった。少し色黒で、厳しい戦場を幾度も経験してきたような風格がある。
挨拶を交わした後、私達は案内された席に着いた。
「伝令から今回の任務について伺った後、我々で近況を確認し、報告書を作成させました。どうぞ御確認下さい」
ジャン団長殿から渡された書状に目を通す。
そこには、最近の魔物の出現回数と数、魔物による襲撃の回数と被害、発見された新種の魔物の数や特徴、そして頻繁に起きている行方不明者の人数などが記されていた。
書状を最後まで確認した後、ルート団長が口を開いた。
「やはり、そうですか……」
そして、ジャン団長殿へと視線を向けた。
「報告書の内容を鑑みるに、御父上達が推測されていたことは、正しかったと思われます」
ジャン団長殿は、悔しそうに拳を握り締めた。
「当時、私はライデン団長から直接お話を伺っていました。あの時、私共も同行をお願いしたのですが、お断りされてしまいまして……。御迷惑は掛けたくないと仰り、その後すぐに強行調査へ向かわれました」
ジャン団長殿は、俯いた。
「私共が聞いたのは、その後の顛末のみです……。申し訳ありません。もし、あの時、私共が強引にでも同行していればと、後悔の念が絶えません!」
握り締められた拳が、小さく震えていた。
「そのお気持ちだけで、十分です。それに、私は父が何処かで生きていると信じています……」
ルート団長は、静かに答えた。
「そうですね……。確かに、あの御二人なら十分にあり得ます。失礼致しました……。ところで、調査にはいつ出発されますか?」
私達は立ち上がり、敬礼をした。
「改めて北の国境の調査許可を頂けるのであれば、明朝、出発したいと考えております。どうぞ、宜しくお願い申し上げます!」
ジャン団長殿も立ち上がり、敬礼を返した。
「是非とも、宜しくお願いしたい! 調査には、我々国境警備団の団員も参加させて頂きたい。国境周辺に詳しい者を、せめて数名、同行させて頂ければと思います!」
その言葉からは、ジャン団長殿の断腸の想いが伝わってきた。
「ありがとうございます。是非、お願い致します」
そして、私達はその場を後にした。
「ルート団長! 団員達の準備が整い次第、国境警備団員に案内され、宿舎で明日の準備を進めております!」
サイラスさんは、私達が戻るまで待機していたようだ。
サイラスさんの案内で、私達は宿舎へと向かった。
「お疲れ様です、団長!」
先にジョイさんとリアンさんが来ていた。
「ご苦労。皆、聞いてくれ。出立は明朝だ。起床後に準備を整え、国境警備団の騎士に現地まで案内して頂く。明日は早い。皆、食事を済ませた後は、英気を養うためにも、出来るだけ早く就寝するように!」
皆に指示を伝えると、カーラさんがやって来た。
「団長、お食事の準備ができたわ。国境警備団の方々が用意して下さったそうよ」
「有難い。皆、早速頂こう!」
この後、私達は食堂へ案内され、皆で食事を取った。
この土地ならではの郷土料理に舌鼓を打ちながら、皆で食事を楽しんだ。
その後、各自身支度を整え、それぞれ就寝した。
明日はいよいよ、あの事件が起きた北の国境の調査だ。
私は、父が何処かで生きていることを祈りながら、目を閉じた。
「お願いします! 必ず生きてて……」




