異世界編:王国騎士団の一騎士となった異世界の私
# エピソード13 王国騎士団の危機
入団してから二月が経ち、私たちは正式に王国騎士団の一員となった。
それからは遠征にも参加し、魔物たちとの戦いも経験している。王国騎士団副団長である父からも、お褒めの言葉をいただいた。
前世では得られなかった充実感と使命感を胸に、私は日々の任務に励んでいる。
時折、時間を見つけては、ルート嬢とあの森で二人だけの修練を続けていた。
変身できない日々にフラストレーションを感じていたから、久しぶりに変身できたときは、ものすごく興奮しました!
そんなある日、父と私は、ルート嬢の御父上であるライデン団長から食事会に招かれた。
ルート嬢の母上はとても綺麗な方で、私にも優しく接してくれる。本日も、とても美味しい料理を振る舞ってくださった。
「いつお伺いしても、奥様の料理は絶品ですよ!」
父が上機嫌で言った。
「ハイデル、今日は娘たちの祝いを兼ねた席だぞ。自分たちの話は、もう少し後にしてくれ」
ライデン団長も上機嫌だ。今日は二人とも、いつも以上にお酒が進んでいる。
「大丈夫ですよ。たっぷりと作ってありますから、どうぞご遠慮なくお召し上がりください」
いつも優しいルート嬢の母上だ。
「いやぁ、それにしても、娘たちが立派な王国騎士団員となり、今では功績まで挙げている。今回の新人たちは、誰もが精鋭ばかりだな!」
ライデン団長は、さらに上機嫌になった。
「さぁさぁ、めでたい席だ。今日のワインは格別だぞ!」
そう言いながら、父のグラスにワインを注いでいる。
「あなた、あまり飲み過ぎないでくださいね。明日から遠征の準備があるのでしょう?」
奥様がたしなめる。
私も、その言葉に賛同します!
そんなことを考えていると、ルート嬢が私の方を向いて微笑んだ。
「ところで、今回の遠征についてですが、北にあるオデッサ城塞都市の、さらに国境に近い地域で、魔物が頻繁に出没しているという話を聞きました。今回は、その調査でしょうか?」
ルート嬢が尋ねた。
「ああ……その通りだ。調査に向かった諜報団員の中から、帰還しない者が数名出ている。さらに、我々も先鋒隊を派遣したのだが、連絡が途絶えてしまった……」
ライデン団長が説明してくれた。
「だから今回は、魔物の戦力調査も兼ねた遠征となる。人数を絞り、精鋭を選んで向かう予定だ」
父も説明に加わった。
「私たちは参加できないのでしょうか?」
ルート嬢が進言すると、ライデン団長は苦笑いを浮かべた。
「力不足というわけではないのだが、私やハイデルが心配し過ぎて、任務に集中できなくなってしまうだろう。心配するな。今まで、私とハイデルが遠征から帰らなかったことなど、一度もなかっただろう? 安心して待っていろ」
そして、少し真剣な表情になり、続けた。
「それに、王国騎士団がいなければ、民を守る者がいなくなってしまう。近衛騎士団は王家を守るためにある。そして、民を守るのは私たちの役目だろう……。だから、我々が留守の間、王国の民を守ることをお前たちに託す」
「分かりました。お任せください!」
ルート嬢が立ち上がり、騎士団の敬礼をした。
私もそれに合わせて、敬礼をする。
「よし! それでは今日は、ゆっくりと飲み明かすぞ! ハイデルよ!」
「では、遠征の無事を祈って!」
二人はグラスを掲げ、酒を酌み交わした。
その夜は更け、私たちもそれぞれ自宅へと帰り、就寝した。
しかし、私はなぜか寝つくことができなかった。
そして二日目、父たちは遠征へと出立した。
私たちは、そんな父たちを見送った。
これが最後の別れになるとは知らずに……。
父たちが出立してから六日目。
遠征に出ていた王国騎士団の騎士たちが、数名戻ってきた。
皆、負傷している。
「何があった!?」
王都に残っていた騎士団員の一人が、戻ってきた騎士たちに問いただした。
「我々以外は、全滅しました……。最後は、団長と副団長が殿を務め、我々が逃げるための血路を開いてくださったのです……。情けない!」
その中には、私たちが見習い期間中に指導していただいた教官の姿もあった。
私の目の前で、ルート嬢が震えている。
私も、倒れそうになる自分を何とか堪えていた。
「そんなはずはない……。あのお二人が……。そんなこと、あり得ない!」
サイラスさんが必死に声を上げた。
「今からでも、救援部隊を編成するべきではありませんか!」
「落ち着け! これは王国の危機だ。まずは国王陛下に報告せねばならん! もし、この報告が事実ならば一大事だ……。気持ちは私も同じだ!」
部隊長が指示を出す。
各部隊長たちも、それぞれ動き始めた。
慌ただしくなる周囲の様子を見ながら、私は頭が真っ白になっていた。
これが……身近な人を失うことの怖さなのだろうか?
ただ、まだ父たちの遺体を見ていないからなのか、どうしても信じることができなかった……。
「そんなはずがない……」
私は、心の中で何度も繰り返した。
「ルート嬢、ユリカ嬢! まだ、お二人が亡くなったと決まったわけではないわ! ここでしっかりしないと、団長や副団長に叱咤されるわよ!」
カーラさんの言葉が耳に届いた。
そうだ……。
私たちまで取り乱してはいけない。
今は、王国騎士の一人として、できることをしなければならない。
私たちは気持ちを奮い立たせ、部隊長の命令に従って行動を開始した。
それから数日が過ぎた。
調査隊が編成され、現地へと向かったものの、父たちの遺体は見つからなかった。
さらに、その場にいた魔物たちは、すでに姿を消していたという。
私たちは、遠征に同行していた教官の一人、リッキーさんが療養している場所を訪れた。
私とルート嬢は、ベッドに横たわるリッキー教官から、当時の状況を聞くことにした。
「私たちが調査現場に到着したのは、丸一日かけて移動した後だった。到着してすぐに調査を開始したが、すでに日暮れが迫っていた。少々強行軍ではあったが、それだけ緊急を要する任務だと、皆が判断していたんだ……」
リッキー教官は、やつれた顔を私たちに向けて話し始めた。
「そのときだった。突然、暗闇の中から黒いフードを被った男が現れたんだ」
私たちは、黙って話の続きを待った。
「団長たちはもちろん、私たちも精鋭ばかりだった。それなのに、誰一人として、奴の接近を察知できなかった……」
リッキー教官は、悔しそうに顔を歪めた。
「奴に抜刀した剣を向けると……」
『何と良い素材に巡り会った。貴様ら、できるだけ素体を残せよ』
「奴のその言葉を合図にしたかのように、暗闇の中から多数の魔物たちが現れた……!」
リッキー教官の声が震えた。
「奇襲を受けた我々に、反撃する余裕などなかった。騎士たちは、次々と魔物たちの餌食になっていった……」
私は、思わず息を呑んだ。
「団長と副団長は、私に生き残った者たちを託すと、殿を務めてくださった。そして、迫り来る魔物たちを次々と打ち倒していったんだ!」
リッキー教官は、シーツを握り締めた。
「私は託された任務を果たすため、土魔法で岩壁を作り、仲間たちの前に立ちはだかる魔物を防いで、逃走を図った……。しかし、逃げる途中でも待ち伏せしていた魔物たちに襲われた。それでも何とか襲撃をくぐり抜け、数名だけでも命をつなぐことができた……」
そこまで話すと、リッキー教官は顔を伏せた。
「済まない……。私のせいだ……。本来なら、私の魔法で殿を務めるべきだったはずだ!」
涙を流しながら、彼はベッドのシーツを強く握り締めた。
私たちは、もう何も言えなかった。
ただ黙って、その場を後にするしかなかった……。
帰り道、ルート嬢が私に声をかけた。
「ユリカ嬢! 私は信じています。まだ、お二人は生きています! 王国騎士団の中でも最強のお二人ですもの!」
ルート嬢は、涙をこらえるようにして続けた。
「私は、失意の中にいる母のそばにいます。ユリカ嬢も、よろしければ私の家にいらしてください!」
「ありがとう、ルート嬢……。でも、私は大丈夫よ」
本当にありがたい言葉だった。
それでも、私は辞退した。
父がいつ帰ってきても、一番に出迎えられるようにしていたかったから……。
私は自分の部屋に戻り、ベッドに入った。
ここ数日、ほとんど眠れていない。
目を閉じると、父の姿が浮かんでくる。
前世で私が亡くなった後、家族のみんなは、どんな気持ちだったのだろう……。
今になって、ようやく分かった気がする。
私は、自分が亡くなった後に残される人たちの気持ちなど、考えたこともなかった。
自分が苦しいことばかりに目を向け、私を大切に思ってくれていた家族が、どんな思いをするのかなど……考えもしなかったのだ。
もし、今の私と同じように、家族が私の帰りを待っていたのだとしたら……。
そう考えると、胸が締めつけられた。
父さん……。
お願いだから、無事に帰ってきて……。
私は、ただ祈ることしかできなかった。
そして、今日もまた、ほとんど眠れないまま朝を迎えた……。




