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なぜか悪役令嬢の私が守られている!?【第3部完結】  作者: しのギドラ
2部「ヒロインが婚約破棄されて詰みそう」
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9話 我が国の王太子に物申す

 リリアには玄関のベンチで待っていてもらい、私とフェイランは生徒会室へと向かった。


 ――バン!


 執務室の扉の前に立つなり、私はノックもそこそこに勢いよく扉を押し開けた。


「失礼するわ、ルドルフ殿下!」


「……なんだ、騒々しい」


 机で書類に目を通していた男が、鬱陶しそうに顔を上げた。

 この王国の第一王子であり、生徒会長でもある、シルバーブロンドの髪をたおやかに束ねたルドルフ殿下。

 整った端正な顔立ちをしているが、その青の瞳は氷のように冷ややかだ。


「ジゼル侯爵令嬢か。くだらない報告なら後にしてくれ」


 こちらの顔を見るなり、ルドルフ殿下は興味なさそうに視線を書類に戻す。


(な、なにその態度は……っ!)


 そのぞんざいな対応に、私のはらわたが煮えくり返った。


「リリアさんのことよ! 殿下、彼女に対するその冷たい態度は一体何なの!?」


「何の用かと思えば……馬鹿馬鹿しい」


 ルドルフ殿下は鼻で笑うと、書類から目を離すこともせずに吐き捨てた。


「あいつは、王家の血に光属性を取り込むための道具にすぎない。出来損ないの女に割く時間などないだけだ」


「道具だなんて……! ちょっと、あの可愛さを前にしてそんな暴言が吐けるなんて、あなたの目は節穴なの!?」


 私は彼の座る机まで歩み寄ると、バンッと両手を机に叩きつけた。


「いい!? リリアさんはね、可愛くて可憐で、素直で、どれだけ辛くても健気に努力できる天使みたいな女の子なのよ! 私の特訓にも懸命についてきて、見事に光魔法を使いこなしてみせたの! あんなに素晴らしい才能と心を持った子を出来損ないなんて呼ぶなんて……殿下とはいえ絶対に許さないわ!」


 息もつかずに、私は胸ぐらをつかみたい気持ちをおさえて叫び散らす。

 一気にまくし立て、最後に指を突きつけた。


「まともに目も合わせないなんて、男として……ううん、人間としてどうなの!? 婚約者だと言うなら、逃げてないでちゃんと彼女と向き合いなさいよ!!」


「…………」


 生徒会室に、雪が降り積もったかのような静寂が訪れた。

 一喝をしてみせた私を前に、あの冷血なルドルフ殿下が、ぽかんと口を開けて硬直している。


 一瞬の沈黙の後だった。


「……ふっ、くはははっ!」


 ルドルフ殿下が、腹を抱えて可笑しそうに笑い出した。

 先ほどまでの冷淡な面持ちは消え、その瞳には好奇に満ちた色が宿っている。


「面白い……。私にこんな口を利く女は、生まれて初めて会ったぞ。ジゼル……なるほど、公爵令息を追放に追い込んだという噂は伊達ではないらしい」


「ど、どうも……?」


 私を見るルドルフ殿下の視線に、横にいたフェイランがピクリと眉を動かしたのに私は気づかない。


「ふん……前言を撤回しよう。お前の知り合いなら、あの女も少しは使い道があるのかもしれんな」


「はあ!? だからその物言いをやめろって言ってるの! 話聞いてた!?」


 ルドルフ殿下は立ち上がると、ゆっくりと私へと無遠慮に歩み寄ってきた。

 そして、私の顔をじっくりと観察するように視線を這わす。


「ジゼル……お前のような女なら……」


 すっと、ルドルフ殿下が私に向けて腕を伸ばしてくる。

 手が私の頬に触れるかという、その直前。


 横から伸びてきたフェイランの手が、私の腕を引き寄せた。


「きゃっ!?」


「……俺の恋人に軽々しく触れないでもらえるかな、ルドルフ殿下?」


 聞いたこともないほど、空気を凍りつかせるような声音だった。

 私を隠すように庇い立ったフェイランの紅玉の瞳は、敵意を感じさせる威圧感が宿っている。


「ほう……。隣国の王太子殿下の恋人、か……」


 突然割り込まれたルドルフ殿下もまた、目を細めてフェイランをにらみ返す。

 二人の視線が交差した瞬間、空間がピリピリと肌を刺すほどに緊迫した。


「用件は済んだ。……行くよ、ジゼル」


「待って、まだ言い足りないのだけど!」


 フェイランは私の手を握り締めて、一度も振り返ることなく歩き出す。

 生徒会室から退室する間際、私はちらりと後ろを振り返った。


 ルドルフ殿下は不敵な笑みを浮かべたまま、私とフェイランを目で追っている。


「たとえ他の男のものだろうと、手に入れる手段はいくらでもある。待っていろ」


「え……?」


 背後から漂う尋常じゃない剣呑な気配に、私は息をのみ込むことしかできなかった。

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