10話 懇親会パーティーと婚約破棄
「あの男……! リリアさんを道具扱いだなんて……!」
私は訓練場近くのベンチ前で、盛大に自分の髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。
「ジゼル様……。私のために、申し訳ありません……」
私の憤慨する様子を見たリリアは、悲しげに薄緑の瞳を伏せる。
「リリアさんが謝る必要なんて一切ないわ! それもこれもあのアホのルドルフ殿下が……ううん、元はと言えば私が無駄に動き回っていたせいなの……!?」
ゲームのイベントが起こらず、二人の絆が深まらなかったのだとすれば、原因を作ったのは私だ。
申し訳なさで胸が潰れそうになる。
「でも、ジゼル様。私……すごく嬉しかったです」
「え……?」
「私のために怒って、あのルドルフ殿下に立ち向かってくださったこと。……それだけで、私の心は救われました」
こみ上げる感情を押し殺すように胸に手を当て、リリアは愛らしい笑顔で私を見上げる。
あまりの愛くるしさに、クラリとめまいすら覚えるが、なんとか理性を保って深呼吸した。
「リリアさんにそう言ってもらえるなら、あの男に怒鳴り散らした甲斐があったわ。……けれど、これからどうすればいいのかしら」
「ジゼル様のお気持ちだけで十分です。それに……一週間後の学園懇親会パーティーで、私とルドルフ殿下の婚約が正式発表されますから」
「へっ、正式発表!? でもリリアさん、あいつと結婚なんてしたくないんでしょう!?」
「私は平民の出です。王家の決定には逆らえません……」
「そんなの納得できるわけないでしょ! こうなったら、明日から毎日ルドルフ殿下に突撃して、あなたの素晴らしさを直接叩き込んでやるわ!」
腕まくりをして気合を入れる私に、横からフェイランが待ったをかけた。
「ジゼル、これ以上あの男に近づくのはやめなよ。絶対に反対だ」
「なんでよフェイラン! あいつの腐った根性を叩き直さないと――」
「君があの男のところへ通えば、余計に目を付けられるだけだよ。さっきの様子を見たろ? あの男、君に対して妙な興味を持ち始めていた。これ以上接触するのは危険すぎる」
フェイランの真剣で、どこか怒りを孕んだ眼差しに、私は気押される。
「う……それはそうかもしれないけれど……。よし、それなら直接の説得は諦めて、一週間後の懇親会パーティーで勝負をかけるわ!」
「パーティーで……?」
「ええ! そこでリリアさんの成長した姿を、ルドルフ殿下の前で披露するのよ! そうすれば、殿下はあなたを無下に扱えなくなるはずだわ!」
「……はい! 私、ジゼル様のご期待に応えられるよう精一杯頑張ります!」
小さな手を握りしめたリリアは、何かを思い立ったように頬を染めると、上目遣いで私を見つめた。
「あの……ジゼル様」
「なぁに、リリアさん?」
「その……もしよろしければ、私のことはリリアと呼び捨てで呼んでいただけませんか……? 私、ジゼル様ともっと親しくなりたくて……」
恥ずかしそうに揺れる瞳で見上げられ、私の心臓は射抜かれる。
(ぐはっ……!)
直撃した天使の破壊力に、私は胸を押さえてその場に卒倒しそうになった。
「よ、喜んで! 今日からリリアって呼ばせてもらうわ!」
倒れそうなほど悶絶する私に、フェイランは呆れたようにため息をつく。
「はぁ……相変わらず彼女には甘いんだから」
けれどフェイランは、鋭い眼差しを空に向け、静かに懸念を口にした。
「……あいつはジゼルを気にかけ始めた。……何事もないといいのだけれど」
◇
そして、運命の一週間後。
学園の大広間で開催された、華やかな懇親会パーティー。
ドレスに身を包んだリリアの可愛らしさに、私はパーティー開始早々もだえっぱなしだった。
「見てフェイラン、今日のリリアも天使よ! 神々しさすら漂っているわ!」
「はいはい、分かったから……」
会場がしっとりと熱に包まれる中、懇親会の開始を告げる時間が訪れた。
会場の中央、一段高い壇上に登ったのは、第一王子・ルドルフ殿下だ。
誰もが挨拶と同時に、彼とリリアの正式な婚約発表が行われるものだと見守っている。
しかし。
会場を見下ろすルドルフ殿下の唇に浮かんだのは、冷徹なまでに歪んだ笑みだった。
「皆のもの、静粛に。……本日、この宴の場を借りて、一つ重大な宣言をさせてもらう」
彼の朗々とした声が、大広間に響き渡る。
「私、第一王子ルドルフは、そこにいるリリアとの婚約を破棄する!」




