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なぜか悪役令嬢の私が守られている!?【第3部完結】  作者: しのギドラ
2部「ヒロインが婚約破棄されて詰みそう」
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11話 殿下に決闘を申し込む

 騒然とする会場。

 そして、呆然と立ち尽くすリリアと私。


「婚約……破棄!?」


 こんな大勢の面前で、地上に舞い降りた天使ことリリアの名誉を傷つけた。

 それが頭で理解できた瞬間。

 私は猛然とルドルフ殿下に殴りかかろうとした。


「ちょっと待って、ジゼル。落ち着くんだ」


 それを羽交い締めで止めたのはフェイランだった。


「離して、フェイラン! あいつ、あいつだけは私がこの手で直接叩きのめす……!」


「うん、気持ちは痛いほど分かったから。まずは、その両手に持ったナイフと、銀の水差しをテーブルに戻そうか」


 指摘されて視線を落とすと、私は無意識のうちに近くのテーブルから攻撃力の高い道具をつかんでいた。

 このまま突撃すれば、いくら侯爵令嬢でも即座に拘束されるだろう。


「それに、あちらから婚約破棄を言い渡してくれるなら、願ったり叶ったりだろう? リリアは不条理な婚約から解放されて、本当に心を通わせ合える人と幸せになれる道が開けるさ」


「それは……まあ、確かに」


 フェイランの冷静な説得を受け入れ、私はしぶしぶ握りしめていた物をテーブルへと戻した。


 荒い息を吐きながら、心を落ち着かせようとしていると。

 壇上を降りたルドルフ殿下が、優美な足取りでまっすぐ私の方へと歩み寄ってきた。


「騒がしいと思えば、ジゼル……やはりお前か」


「ルドルフ殿下……! 一体何のつもりですか! 大勢の前でリリアを傷つけるなんて……!」


 私が怒りをこめてにらみつけると、ルドルフ殿下は口元を吊り上げた。


「あのような価値のない女との婚約など、いつまでも引き延ばす意味がないからな。……それよりも、ジゼル」


「な、なんですか……」


「私と婚約しろ」


「………………はい?」


 あまりにも理不尽。

 突拍子もない提案。

 頭の中が真っ白になった。


「お前ほどの才能と気概があれば、我が国の妃として申し分ない。あの平民の女の代わりに、お前を私の婚約者として迎えてやる」


 ルドルフ殿下は堂々と、神のような上から目線で言い放つ。


(……は?)


 ぽかんとしていた直後、火山のように猛烈な殺意が噴き出した。


(さっきのナイフと水差し、戻すんじゃなかったああああ!)


 頭痛がするほどの怒りで、手だけではなく全身が震える。


(でも王太子の求婚をこの場で突っぱねるのは、いくら私でもまずいと分かるわ……それなら!)


 私は自身の手に着用していたシルクのグローブを引っ張り脱ぐ。


 それをそのまま、ルドルフ殿下の足元へ叩きつけた。


「「「――っ!?」」」


 パーティー会場の参加者たちが、いっせいに息を呑んで静まり返る。


 この国において、手袋を相手の足元に叩きつける行為。


 それはすなわち、『決闘の申し込み』を意味していた。


「ジゼル……お前、正気か?」


「大真面目よ! ルドルフ殿下、あなたに決闘を申し込むわ! 私が勝ったら、膝をついてリリアに誠心誠意の謝罪をしなさい!」


「ふっ……面白い。では、私が勝った暁には、問答無用で私と婚約してもらうぞ」


 ルドルフ殿下は面白そうに目を細めた。

 だが、私をまじまじと見つめると、ため息をついて肩をすくめた。


「だが、いくらなんでも淑女を相手に剣を振るうのは、王族としての矜持が痛むな。……誰か代理の騎士でも立てるか?」


「私が自分で叩きのめすわよ! 代理なんていらな――」


「――それじゃあ、俺がジゼルの代理として戦うよ」


 私の前にすっと歩み出たのは、フェイランだった。

 隣国の王太子である彼の登場に、周囲が再びどよめく。


「ちょっと、フェイラン! なんであなたが!? 私が自分であいつを殴りたいのに!」


「君は一国の侯爵令嬢だろう? 自国の王太子と武器を交えるなんて、いくら理由があっても立場上まずすぎるよ。同格である他国の王太子の俺が買って出る方が、まだ角が立たない」


「うぐ……っ」


 理路整然とした正論に、ぐうの音も出ない。

 フェイランは私に向かって優しく微笑むと、ルドルフ殿下を冷たい瞳で見すえた。


「それに殿下も、同じ女性を想う男同士で決着をつける方が……すっきりするでしょう?」


 フェイランの紅玉の瞳に宿る、圧倒的な威圧感。

 それを受けたルドルフ殿下もまた、口元に意味深な笑みを浮かべた。


「……いいだろう、望むところだ。条件は変わらん、お前が負ければジゼルは私のものだ」


「ああ。……もっとも、俺が負けることなんて万に一つもあり得ないけれどね」


 二人の王太子が視線を交わすと、目に見えるかのように火花が散っていた。

 周囲の熱気と、緊迫感は最高潮に達している。


「決闘は明日の放課後だ。……楽しみにしているぞ、ジゼル」

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