6話 ヒロイン「リリア」への特訓勧誘
「いつ見ても……か、かわいい……!」
まるで陶器のようになめらかで白い肌。
ほんのり揺れる淡い緑の瞳は、夜空に瞬く星々すら霞むほど美しい。
「できないわ! あんな天使をスパルタ特訓でシバき上げるなんて……! 一生、無垢なまま笑っていてほしい……!」
「いやいや、ダメでしょ。世界のためにも君のためにも、ここは心を鬼にしなきゃ」
「わかってる……。わかってるけど……!」
外廊下の柱の影から、私とフェイランはベンチで読書をするヒロインのリリアを見守っていた。
彼女は今一人で読書をしているようだった。
ページをめくる指先すら、神が作ったかのような美しさを感じさせる。
「そもそも、ジゼルは彼女と話したことあるの?」
「……ないわ。だって、可愛すぎて……遠くから拝むことしかできなくて……!」
「それは前途多難だ。……それじゃ、行こうか」
「え?」
「話しかけなきゃ始まらないでしょ。それとも、このまま彼女を放置して世界ごと詰む?」
「それは絶対嫌だけど……!」
そもそも、彼女が初期値のまま育っていないのは、全部私が良かれと思って先回りで障害を潰したせいだ。
その責任を取って彼女を鍛え上げるのは、私に課せられた義務である。
「……そこそこ、ちょっとだけ鍛えるだけでもいいかしら?」
「何言い訳してるの。ほら、行くよ」
「ちょ、ちょっと待って! 心の準備が……!」
鍛錬で鍛え上げたはずの私の力を軽々とねじ伏せて、フェイランは涼しい顔で私の手を引いていく。
「やあ、リリアさん。少し話があるんだけどいいかな?」
「え……? あ、はい……?」
その声は、まるで妖精の歌声。
魅了魔法のような声音で、リリアは驚いたように本から顔を上げた。
「ほら、ジゼル」
「わ、わかってるわよ……」
私は意を決して彼女の顔を、真正面から見すえる。
可愛さに今だけは負けないように、声を張り上げた。
「ち、力がほしくない!?」
「へ……!?」
「あなたが力を望むなら、私がいくらでも授けてあげるわ!」
「ジゼル……それじゃただの怪しい勧誘だよ」
フェイランは、呆れたように額に手を当てる。
目の前のリリアも、ぽかんと口を開けたまま私を見つめていた。
「ごめんね、リリアさん。君は実技の成績で悩んでいるんだろう? それを彼女、ジゼルが心配して声をかけたんだ」
「そういう……ことだったのですね……」
リリアは困惑の色を浮かべ、悲しげに顔を曇らせると、膝の上の本へ視線を落とした。
その緑の瞳が、憂うように小さく揺れる。
「私、本当に実技だけはダメなんです。世界で唯一の光属性を持っているのに、宝の持ち腐れだと周囲からも言われていて……自分でもどうしたらいいのか分からなくて……!」
「……うっ!」
それは、私があなたのレベルアップの機会を奪ったからです。
喉まで出かかった真実をどうにか飲み込むが、彼女の落ち込む姿に胸が痛む。
「ならちょうどいいね。ジゼルが君のことを鍛えてあげたいそうだよ。君にとっても絶好の機会なんじゃないかな?」
「え、あの……歴代最高の成績を叩き出し続けている……あのジゼル様が、私を……!?」
「あ、あはは……腕っぷしにだけは自信があるの。だから……リリアさんが嫌じゃなければ、一緒に特訓できないかしら?」
フェイランの完璧なフォローがあったとはいえ、あまりにも唐突な提案だ。
リリアは戸惑うように少し視線を泳がせている。
「あの! 優しくするから! 痛いこともしないから! ほんの少し、ちょーっとコツを教えるだけ!」
「……本当によろしいんですか? 私のような落ちこぼれを、わざわざジゼル様自らご指導くださるなんて……」
「気にしないで! むしろこちらからお願いしたいくらいなんだから!」
「あー……ジゼルは人に教えるのがあまり得意じゃないから、その練習がしたいそうなんだ。だから君さえ良ければ受けてもらえると助かるな」
フェイランの助け船を聞いた瞬間、リリアの瞳がぱあっと眩しく輝いた。
「ぜひ……! 私で良ければ、よろしくお願いします、ジゼル様!」
やれやれと肩をすくめるフェイランの横で、私は胸を撫でおろした。
「よ、よかった……。それじゃあ早速、今日の放課後から一緒に特訓しましょう!」
その日、天使のように愛らしいヒロインを鍛え上げる、波乱の育成計画が幕を開ける。
しかしこの特訓で、彼女の思わぬ才能を発掘することになるのだった。




