5話 フェイランから語られる衝撃の事実
「……え?」
意味が分からず硬直する私に、フェイランは言葉を突きつけた。
「はは、さすがのジゼルも戸惑うよね。……君の話を聞いて、分かったんだ。そのゲームの『災厄の王』は、俺だ」
「な……何を言っているの……?」
「俺は世界で唯一の、闇属性の魔力を持って生まれた。いずれ闇の魔力に飲み込まれ、世界を滅ぼす『災厄の王』になる男……多分、それが俺の末路だよ」
フェイランの紅玉の瞳が、暗夜の中でも分かるほど揺れ動いている。
「俺がこの短剣に貫かれれば、それで全てが解決だ。災厄の王は生まれる前に滅び、世界も、君の愛するヒロインも救われる。……さあ、ジゼル。君の手で俺を殺して、救世主になりなよ」
「そんなことできるわけ……!」
「ああ、王太子の俺を殺したらまずいってこと? 大丈夫、そこはちゃんと根回ししてあるから」
私の頭の中で、混乱とともに思考が矢のように駆け巡る。
フェイランが災厄の王。
彼が死ねば、世界は救われる。
ヒロインも、死なずにすむ。
「――ふざけないで!」
叫ぶと同時に、私は短剣の柄を握りしめた。
奪い取るように持った短剣を一瞬だけ横目で見た後、背後に向かって体をひる返す。
その勢いのまま思いっきり、背後の草むら目掛けて短剣を投げ飛ばした。
「ジゼル……!?」
意表をつく暴挙に、フェイランは理解ができないように固まっている。
私は肩で息をしながら、彼の胸ぐらを両手でつかみ上げた。
「私はバカだったわ! ヒロインのことばかりで、一番近くにいたあなたのことに考えていなかった!」
「ジゼル、落ち着いて……」
「ヒロインだけじゃない! 幼馴染で、私を助けてくれた、大好きなあなたも救いたい! 災厄の王になんてさせない! あなたの中に闇があるなら、私がずっとそばにいて叩き潰してあげるわよ!」
心から懸命に叫ぶ私の顔を、フェイランは呆然と見つめていた。
やがて、心の奥底があふれ出すように、熱を灯らせた瞳で私を射抜く。
「君には敵わないな。……ねえジゼル。それじゃあ、俺と結婚してくれる? ずっと隣にいてくれるんだろう?」
「……そ、それは……っ。とりあえず、恋人から……で、いい……?」
真っ赤になって目を逸らす私に、フェイランは満足そうな笑みを浮かべた。
「……うん、わかったよ。これからよろしくね、俺の可愛い恋人様」
彼の甘い微笑みに心臓をかき回されながらも、私は胸を撫で下ろした。
まだ全てが解決したわけではないが、ようやくこの先の展開に向けて対策を練り直せる。
「あ、ちなみになんだけど……」
フェイランは世間話でも喋るかのような軽い調子で、私が短剣を投げ飛ばした方向を指さした。
「あの短剣、俺の国に一つしかない国宝なんだよね」
「……え?」
「壊れたり失くしたりしたら、ちょっと……かなり、すごく? 怒られるかも」
「は!? それを早く言いなさいよ!?」
私は制服をバタつかせながら、生い茂る草むらへ猛ダッシュで飛び込んだ。
「な、ない! どこにいったの――!」
必死に草むらを捜索する私の後ろ姿を、彼は温かな慈しみをこめて見つめていた。
◇
「……俺はきっと、本物の『災厄の王』なんだろうな」
凪いでいる夜風の音にかき消されるほどの、小さなつぶやき。
「君がもし俺を拒んでいたら、こんな世界滅ぼしていたよ」
黒い魔力が、指先から霧のように立ち上り、すぐに闇へと溶けて消えた。
「逆を言えば、君が俺を受け入れてくれるのなら、この世界も永遠に愛し続けられる。だから、ずっと俺を捕まえ続けていてね。……救世主様」
◇
「あった、見つかった――! よかった……無傷だわ!」
泥だらけの手で、月夜に輝く短剣を掲げ、涙目になりながらフェイランへ振り返る。
「……それは何よりだ」
フェイランはどこか影のある面差しから、いつもの軽い笑顔に戻っていた。
「じゃあ約束通り、まずは恋人から始めようか。……どこへ逃げても追いかけるからね、ジゼル」
「わ、分かったから。……あ、それとフェイラン」
「ん?」
「私、決めたわ。明日からヒロインと一緒に特訓する! あなたもコーチとして手伝って!」
「……はは、俺の恋人は早速容赦がないな。――いいよ、君のためなら喜んで……魔王にだってなるよ」
こうして、私は最愛の恋人と共に、ヒロインを鍛え上げる怒涛の日々へと踏み出した。
この選択が、まさかヒロインの運命を『婚約破棄』という形で、さらに翻弄することになると知らず。
私は夜空に輝く星々を見上げ続けた。
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