4話 考えなしに突っ走った結果、ヒロイン最弱説
それは、ゲームの最終章である最高学年を迎える直前のことだった。
(嘘でしょ……!? なんでヒロインの能力が初期値近くなの!?)
極秘裏に入手した生徒の能力表を見て、顔面を蒼白にしていた。
「もしかして、私が守りすぎたせいで成長していない……?」
原作のゲームでは、ヒロインは学園生活の中で様々な試練を乗り越え、実戦経験を積むことで、光属性を成長させる。
しかし私は彼女を守ろうと意気込むあまり。
学園周辺の魔物を狩り尽くし、彼女に降りかかるトラブルの芽を知らず知らずのうちに、全部摘み取ってしまっていた。
「闇属性の『災厄の王』を倒せるのは、世界で唯一の光属性を持つヒロインだけなのに……!」
このままゲームのラストバトルを迎えたらどうなるのか、その結果は明白だ。
「ヒロインは災厄の王に敗北して……死んじゃう……」
死の呪いどころか、世界そのものが滅んでしまう可能性だってある。
「どうしよう……どうしたらいいの……!?」
自身が招いた最悪の結果に、涙があふれそうになる。
ヒロインを救うはずが、自分のせいで彼女を、そして世界を行き詰まらせてしまった。
「こうなったら……。もう、私一人の力じゃ解決できない……!」
追い詰められた私は、学園の校舎裏へ彼を呼び出した。
夜に寮を抜け出し、向かった先にいたのは、闇に溶けるように佇むフェイランだった。
「どうしたんだいジゼル、こんな夜更けに……って、君、泣いているのか!?」
フェイランの余裕めいた笑みが消え、焦ったように私の肩を抱き寄せる。
服越しでも分かるほど熱い彼の体温が、私の心を少しだけ落ち着かせてくれた。
「フェイラン……。信じられないかも知れないけれど、あなたに聞いてほしいことがあるの……!」
私は嗚咽をこらえながら、すべてを白状した。
自分が前世の記憶を持っていること。
ここが乙女ゲームの世界で、ヒロインという少女が悲惨な運命を辿ること。
彼女を救うために鍛錬したこと。
けれど、自分が障害を取り除きすぎたせいでヒロインが弱いままなこと。
このままでは災厄の王に世界が滅ぼされること。
「……全部、全部私のせいなの! 悪役の私が出しゃばったせいで、ヒロインも死んで、世界も滅んじゃうのよ……!」
不可思議な私の告白を、フェイランは一度もさえぎることなく聞いてくれた。
涙を手の甲でぬぐう私を見つめながら、彼は納得したように口を開く。
「……なるほどね。君の突拍子もない行動、そして強さを求める意味。俺に保留を言い渡した理由も、すべて合点がいったよ」
フェイランは夜風にため息を乗せると、私の頬に優しく手を添えた。
「ねえ、ジゼル。そんなヒロインや世界のことなんて、もう気にしなくていいんじゃないかい? 今すぐ俺と一緒に隣国へ逃げよう。俺が君を絶対に守ってみせるからさ」
「駄目よ!」
私はフェイランの手を振り払うように、夜の帳の中で叫んだ。
「こうなったのは全部私の責任なの! あんな健気なヒロインを見捨てて逃げるなんて、絶対にできるわけないでしょ!」
「……はぁ。君は、どこまでも不器用だね。……そんなところも、どうしようもないくらいに可愛いよ」
フェイランは諦めたように、私の涙に濡れた顔を慈しむような眼差しを向ける。
彼は上着の懐から、一振りの短剣を取り出した。
鞘から抜かれたその刃は、闇夜の中でも淡く、清らかな光を放っている。
「君がそこまで言うなら、協力するよ。……これは光属性の聖なる短剣だ。災厄の王を滅ぼすことができる唯一の武器だろうね」
「聖なる短剣……? そんな凄いものを、なんであなたが持っているの?」
「……念のため、国から持ってきたんだよ。これがあれば、ヒロインがいなくても災厄の王を倒せるだろう?」
「た、確かに……!」
私が顔を輝かせると、フェイランはなぜか憂いを帯びるように目を伏せた。
「この短剣は君が持つんだ、ジゼル」
短剣の柄を、私の手に握らせようとしてくる。
その手はほんの少しだけ、震えているように見えた。
「フェイラン……?」
「これを、俺に突き刺せばいい」




