3話 フェイランからの婚約申し入れ
「フェイラン……。あなたいつの間に、私のことを調べていたの?」
「噂を聞いてすぐに調べさせておいたんだ。……もう少し時間があれば、あの公爵令息を徹底的に叩き潰せたんだけど」
「じゅ、充分だと思うわ……。でも、私のためにありがとう、フェイラン。おかげでまっとうな学園生活を送れそうよ」
温かな木漏れ日が差し込む静寂の中、二人きりになると、フェイランは私に向き直る。
陽光に煌めく紅玉の瞳は、どこまでも優しげに揺れ動いていた。
「まあ、これはことのついでなんだけどね。……俺がわざわざ留学してきたのは、君に申し入れをしたかったからなんだ」
「私に? いったい何の……」
「俺の国へ、一緒に来てくれないかい? 君を害する奴がいれば、今日のように俺が全員排除してあげるからさ」
「え、あなたの国へ? 長期休暇の時ならいいけれど」
「あー……、ごめん。今のは、俺の言い方が悪かった」
彼は私のすぐそばまで歩み寄ると、耳元へ吐息とともに唇を寄せた。
「君のことが好きだ、ジゼル。俺と……結婚してくれないか?」
「はえ!?」
至近距離でささやかれたのは、不意を打つような求婚だった。
私はうろたえながらも、目の前の信じられない事実を否定しようと言葉を模索する。
「な、何かの間違いじゃ!? 私のような令嬢を娶るなんて……! フェイラン、あなた別人と見間違えているんじゃないの!?」
「いやいや、この状況で求婚相手を間違える人なんていないでしょ。ジゼルは相変わらず面白いな。……そんなところも大好きだよ」
「ひえ……!?」
続々と繰り出される猛攻に、心臓の鼓動が跳ね上がる。
彼の顔をまともに見ることもできず、視線を宙にさまよわせ続けることしかできない。
「ジゼル、君の答えを聞かせてくれ。俺のこと嫌い?」
「き、嫌いじゃないけれど……」
「それじゃあ、好きか嫌いかと言われれば……好き?」
「そう、ね……。もちろん、あなたのことは好きよ」
「はい、言質とった。それなら問題ないね。さあ、俺と一緒に隣国へ帰ろうか」
「へ!?」
すでに決定事項のように、彼は有無を言わず私の両手を、自身の手で包みこんだ。
この国では珍しい紺色の髪色が、風になびいている。
紅玉の瞳が、言っていることが嘘ではないと言うように、愛おしげに私を見つめていた。
「……私……は……」
彼のことは嫌いではない。
むしろフェイランの気持ちに向き合おうとすると、彼をどうしようもなく異性として意識してしまう。
けれど、思考をさえぎるように頭の中に浮かんだのは、天使のように可愛いヒロインの顔だった。
「ごめんなさい、フェイラン! 気持ちはすごく嬉しいんだけど……まだ、やり残したことがあるの! だから、この話は保留にさせて!」
「……保留、か」
フェイランは少しだけ眉をひそめる。
しかしそれは一瞬のことで、すぐに柔らかく目元を和らげた。
「分かったよ。君が納得するまで待つさ。……でも、逃がさないからね?」
「う、うん……。その、お手柔らかにお願いします……」
顔が沸騰しそうになるのを耐えながら、私は赤くなる顔を見られたくなくてうつむかせる。
突然湧き上がった婚姻話。
しかし、その答えを出す前のことだった。
◇
「ど、どういうこと!? ……ヒロインが全然育ってない!」
ヒロインの生死を分ける、ある重大な問題が発生することになる。




