24話 黄昏に染まる口付け
「ご、ご褒美……っ! えっ、いまここで!?」
「君はこれから貴族寮に帰るだろう? なら、二人きりになれるのは今しかないじゃないか」
「ま、待って……!」
「もう何年も待ったよ。これ以上お預けを食らったら……噛みついちゃうかもしれないな」
「噛み!? あの、そうじゃなくて……!」
私はじりじりと距離を詰めてくるフェイランに後ずさりしながらも、深く息を吐き出して気持ちを整える。
この一連の騒動を経て、彼に対する自分の気持ちを自覚していた。
まだ言葉にして伝えていない想いを、今度こそ彼に届けたい。
「フェイラン……。いつも、私を助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。ジゼルがいる場所なら、俺は世界の果てへだって飛んでいくよ。だから安心して、好きなだけ暴れてくれていいんだからね」
「暴れてなんてないでしょ! そうじゃなくて……その、今回のことで改めて自覚したの。好きなものを聞かれた時も、危険が迫った時も、いつだって私の頭の中に一番最初に浮かんだのは……あなただった」
「……そうなんだ。君がそう思ってくれているのなら、俺は世界一幸せだな」
心から愛おしそうに目元を和らげ、フェイランが私の頬を優しく撫でる。
その指先から彼の熱が、肌に染み込んでくる。
高鳴る心臓をどうにか抑え込み、私は意を決して口を開いた。
「私は……フェイランが好き! これからも、ずっと、私の隣にいてほしいの……!」
自分にできる精一杯の、愛の言葉。
恥ずかしさで顔が爆発しそうになる。
フェイランの表情を正面から見ることができず、私は自分の膝の上に置いた手ばかりを見つめてしまう。
「ジゼル……。本当に、俺のことが好きなの?」
「だ、だからそう言っているじゃない……!」
「ちゃんと俺の目を見て。君の瞳を見つめながら、その言葉を聞きたいんだ」
「それは……まだ、恥ずかしくて……っ!」
「ふふ、ジゼルは本当に可愛いな。まあ、今回はそれで勘弁してあげよう」
フェイランの指先が、頬からあご先へと滑り落ちる。
そのまま、そっと顔を持ち上げられた。
「……っ!」
フェイランの紅玉の瞳が、黄昏の柔らかな光の中でどこまでも優しく揺れている。
冷え始めた夕風が、私と彼の間をゆったりと通り抜けていく。
「ジゼル、俺も君のことが好きだよ。君以外のすべてが、どうでもよくなってしまうくらいにね……」
フェイランの顔が、じれったいほどゆっくりと近づいてくる。
私は覚悟を固め、ぎゅっと目を閉じた。
体は緊張で震え、顔はこわばってしまう。
「……っ」
柔らかく重ね合わされた唇から、熱が落ちてくる。
間近で感じる、何よりも大切な存在。
どれほどの時間が流れたのか、もう感覚すら麻痺して測ることができない。
「ジゼル……」
そっと唇が離され、息が触れ合うほどの距離でフェイランがささやく。
「どこにも行かないでね。もし君が世界の果てまで逃げ出したとしても、俺は必ず見つけ出して連れ戻すから」
「分かってるわ。……逃げ出そうなんて絶対に思わないから、安心して」
「はは、それなら良かった……」
◇
(本性を知ったら……きっと君は、俺を嫌いになるだろうね)
(いつかこの歪んだ感情は、君の前に露見してしまうのかもしれない)
(でも……もう絶対に手放さない。逃がさない)
(愛している、大好きだ、触れたい、ずっとそばにいたい、離れたくない、夢の中でも逢いたい、幸福だ、この手で縛りつけたい――愛している)
◇
「俺から離れていかないで……ジゼル」
「もちろんよ。フェイランこそ、私のそばにずっといてね。……約束よ」
額と額を合わせ、息を分け合うほどの距離で、私たちは二人の永遠を誓い合った。
この幸せで満ちる約束が、すぐさま打ち砕かれることになるとは、知るよしもなく。
ただ、お互いの影と存在を、闇に染まる黄昏の中へ重ね合わせていた。
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