19話 放課後の修練、壮大な勘違い
フェイランを寂しくも見送り、やってきた放課後。
私とリリア、そしてケヴィンの三人は約束通り演習場に集まり、まずは顔合わせの挨拶を交わすこととなった。
「あの大魔導士のご子孫であるケヴィンさんに直接教えていただけるなんて……感激です! どうぞよろしくお願いしますね」
「……こちらこそ。世界で唯一の光属性をお持ちのリリア先輩とお話しできるなんて、とても光栄です」
お互いに少し照れくさそうに微笑み合い、そっと握手をする二人。
美少女と美少年の並びは、まさに一枚の美しい絵画のようだ。
間近で見つめる私は、あまりの尊さに顔のニヤけを必死で抑え込んでいた。
「リリア先輩、今一番魔法で困っていることは何でしょうか?」
「光の魔力を外へ放出することはできるのですが、それを応用する方法が分からなくて……。文献を読むと、攻撃だけでなく防御や治癒の術にも変換できるはずなのですが」
「なるほど。光魔法の知識なら、我が家の古文書にも残っています。まずは基礎となる守護魔法から練習してみましょうか」
「守護魔法……ごめんなさい、私、今まで使ったこともなくて」
「守護魔法は、体の外側に均一な魔力を維持し続ける高度な技術ですからね。……ではまず、両手のひらの上に魔力を集中させてみてください」
「はい!」
リリアが胸元でそっと両手を掲げ、淡い緑の瞳を閉じる。
すると彼女の周囲に、温かな白亜色の光がふわりと漂い始めた。
「……すごく澄んだ魔力ですね。それでは僕が今から、リリア先輩の周囲に道筋を作ります。それに沿って、ご自身の光を流し込んでみてください」
「こう、でしょうか……っ!」
ケヴィンが編み上げた道と、リリアの無垢な光の魔力が交差する。
ケヴィンの魔法がまるで手を取る道先案内の役目を果たし、光を美しい障壁へと形作っていった。
「で、できた……! 私、守護魔法が使えました……!」
「僕のサポートがあったとはいえ、たった一度で感覚をつかんでしまうなんて……。さすがは世界唯一の光属性を持つリリア先輩です。素晴らしい才能ですね」
「ケヴィンさんの教え方がすごく分かりやすかったおかげです! これなら、もっと色々な魔法を覚えていけそう……!」
ぱっと顔を輝かせるリリアとは対照的に、ケヴィンはふと長いまつ毛を伏せ、どこか寂しげに表情を曇らせた。
「……僕の教え方なんて、大したことはありませんよ。才能を持つ方々には、到底及ばない程度の凡才ですから」
その紫色の瞳には、どこか憂いと自虐の感情が宿っていた。
(……そうだわ。ケヴィンは大魔道士の血を引く天才として持てはやされながらも、偉大すぎる祖先と自分を比べて、ずっと思い悩んでいるのよね……)
前世で彼のルートを何度も攻略したからこそ分かる。
彼は優しく優秀だけれど、誰よりも繊細で、自己評価が低い男の子なのだ。
「そんなことないわ、ケヴィン!」
思わず熱が入って、私は彼の前へ踏み出す。
「リリアが可愛くて素晴らしい才能の持ち主なのは間違いないけれど、あなたの魔力コントロールとサポートの技術は間違いなくたぐいまれなるものよ! 私でさえ、リリアをここまで導くことはできなかったわ。今できたのは、紛れもなくケヴィン、あなた自身の実力のおかげよ!」
熱意のままに言葉を紡ぐ私に、ケヴィンは弾かれたように顔を上げた。
「僕の……僕にしか、できないこと……」
「ええ! ……ね、リリアもそう思うでしょう?」
「はい! ジゼル様のおっしゃる通りです! ケヴィンさん、本当にありがとうございます!」
私と、愛らしいリリアに見つめられ、ケヴィンは顔を真っ赤にしてうつむいた。
「そんな……僕なんて、ジゼル先輩やリリア先輩に比べたら……」
「あら、学園一の実力を自負する私の言葉を疑うの?」
「い、いえっ! 滅相もありません……!」
「ふふ、ケヴィンはもっと自分を誇っていいのよ? ……ね、リリア!」
「はい! さすがはジゼル様が認め、信頼されたお方です。おかげで私、また一つ上の段階へ進めました!」
「……そうですね。このような素晴らしい機会をいただけたのは、すべてジゼル先輩のおかげです。……本当に、ありがとうございます……!」
目を輝かせて、世界で一番可愛い二人は私に感謝の視線を向けてくる。
どこかシンクロしたような笑顔を浮かべる彼らを見て、私の胸に確信が舞い降りた。
(この二人、やっぱりすごくお似合いじゃない! この調子で親交を深めれば、きっといつか素敵な未来が訪れるわ……!)
フェイランに知られたら、大人しくしていろと言ったのにと呆れ顔で怒られるかもしれない。
けれど、この選択は巡り巡って二人の将来に最高の福音をもたらすはずだ。
最推しと推しヒロインの幸せな未来を想像しながら、私は何度も心の中でうなずくのだった。




