17話 後輩キャラ「ケヴィン」との出会い
翌日の放課後、私は自習のために図書館へ赴いていた。
いつも一緒にいるフェイランは用事があるとのことで、珍しく別行動となっている。
「ん……?」
図書館へ向かう途中、私の少し前を、薄桃色の髪をふんわりと波打たせた青年が歩いていた。
「あ、あれは……!」
見間違うはずがない。
あの柔らかな髪色に、美しいウェーブの短髪。
ゲームで何度も見た最推しキャラ『ケヴィン』だ。
「え……ちょ……か、かわいい……!」
体格こそしっかりとした青年だが、その顔立ちは彫刻のごとく整っている。
顔立ちだけを見れば、一瞬男性だと分からないほど美しさだ。
「ま、まさか本物を見られるなんて……!」
思わず駆け寄ろうとして、頭の中にフェイランの忠告が響いた。
(だめよ……私が関わると、また新たな騒動を引き起こすかもしれない……)
最推しを巻き込んで不幸にするわけにはいかない。
私は足を止め、何度も葛藤する。
「…………見るだけ……! 遠くから眺めるだけならセーフよね……!」
目の前の誘惑に抗いきれず、私は彼の後をそっと追った。
彼の目的地も私と同じだったようで、そのまま図書館の中へと入っていく。
(ケヴィンは勉強熱心なキャラだから、放課後はよく図書館にいるのよね。そこで勉強の質問をして親しくなっていくのが原作ルート……)
私は本棚の陰から、こっそりと彼を見つめた。
どこか吸い込まれそうな、大きな紫色の瞳。
長いまつ毛が、ページをめくる動作に合わせて揺れている。
(はぁ……彼がリリアの恋人になってくれたら最高なのに……!)
先日、リリアと話した際に彼の話題を出してみたのだが、名前こそ知っているものの面識はないとのことだった。
(っく……惜しい! でも、リリアの好みとは限らないし……それも一度会ってみないと分からないけど……!)
せめて少しでもリリアと話してくれれば相性も分かるというのに、現状では接点すら作れない。
(フェイランにも釘を刺されてしまったし、ここは大人しく諦めましょう……。リリアなら、たとえ攻略対象と結ばれなくても、自分で幸せを掴み取れるはずよ……)
私は小さくため息を吐き、後ろ髪を引かれる思いで図書館を後にしようとした。
その時。
不注意にも、本棚に立てかけられていたハシゴに身体をぶつけてしまった。
「あ……!」
倒れたハシゴがけたたましい音を立て、本棚を大きく揺らす。
その衝撃で、棚の上部から雪崩のように大量の本が落下してきた。
(……ちょっ!)
避けきれないと悟り、私は目をつむって直撃に備えた。
「あれ……?」
しかし、いつまで待っても体に痛みが走らない。
おそるおそる、ゆっくりと目を開ける。
「大丈夫ですか……!?」
目の前に広がっていたのは、揺れる薄桃色の髪と、濡れたように煌めく紫色の瞳。
どこか凛とした男らしさを感じさせる美しい顔立ちが、間近にあった。
「あ、え、あ……!」
私の最推し、ケヴィン。
彼が私の元へ駆けつけてくれたのだ。
空気中には、かすかに風魔法の残滓がふわりと漂っている。
「あなたが……助けてくれたの?」
「大きな音が聞こえて目を向けたら、あなたの上に本が落ちてきていたので……とっさに風魔法で弾き飛ばしました。お怪我はありませんか……!?」
ケヴィンは心底心配そうに身をかがめ、私をのぞき込んでくる。
(はうっ……!?)
推しの超絶美形に超近距離で見つめられ、私の心臓は爆発しそうだった。
「!? 顔が赤いです……どこか痛みますか!?」
「い、いいえ! 助けてくれて本当にありがとう……!」
「お怪我がなくて何よりです。……ジゼル先輩」
「え……私のことを知っているの……?」
「もちろんです。実技においては歴代最高クラスの成績を残し続けている天才。学園で知らない人などいませんよ」
まさか、推しに自分の存在を認識してもらえていた。
それだけで胸が熱くなり、涙が出そうなほど感無量になってしまう。
「私もあなたのことを知っているわ! ケヴィン……その、座学も魔法実技もトップクラスの成績という……」
「あはは……一般的な範囲ですよ。でも、ジゼル先輩に名前を覚えていてもらえて嬉しいです」
「そ、そう……?」
嬉しさのあまりニヤけそうになる口元を必死で抑えていると、ふと胸の中に名案がひらめいた。
(これって千載一遇のチャンスじゃない!? リリアとケヴィンを引き合わせれば、二人の相性をバッチリ確かめられるわ!)
考えがまとまると同時に、私は彼の両手を力強く握りしめていた。
「ねえ、ケヴィン! あなたにしかない素晴らしい才能……それを見込んで、一つ頼みがあるの!」
「え、え……!?」
「ぜひ、あなたの高い魔法技術を教えてあげてほしい女の子がいるの! 一度会ってくれないかしら!? もちろん無理にとは言わないけれど……!」
「僕にしかない……才能?」
「ええ! ケヴィン、あなたにしか頼めないの! お願いできないかしら!?」
私の勢いと気迫に押されつつも、ケヴィンは目を開きながら見つめ返してくれた。
やがて、頬を真っ赤に染めながらも、うなずいてくれたのだ。
「僕で……よろしければ……!」
「やった……! それじゃあ明日の放課後、演習場で待ち合わせましょう! 楽しみにしているわね!」
私は心の中でガッツポーズを決め、作戦が大成功したことに胸を躍らせる。
これが、あの恐ろしい大騒動を引き起こす最大のきっかけになるとは知るよしもなく。




