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なぜか悪役令嬢の私が守られている!?【第3部完結】  作者: しのギドラ
2部「ヒロインが婚約破棄されて詰みそう」
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15話 婚約破棄の謝罪

 リリアがおそるおそる、ルドルフ殿下の前へ歩み出た。

 膝をついたままの彼は、ゆっくりと顔を上げてリリアを見上げる。


「……あ、あの……ルドルフ殿下……」


 リリアが声をかけても、彼は何も言わない。

 息が詰まるような沈黙が二人を包み込んでいく。


「…………すまなかった」


 重く絞り出すような一言。


「ちょっと、それだけ……!?」


 あまりにも素っ気ない謝罪に、私は思わず突っ込もうと前に飛び出しかける。

 しかし、それを制したのはフェイランの手だった。


「一応、約束通り膝をついて頭を下げたんだからいいんじゃない? もうこれ以上、彼に関わらない方がいいよ」


「でも……っ!」


 本当なら地面に額をこすり付けて、涙ながらに謝罪してほしいくらいだ。

 私が歯を食いしばって耐えていると、リリアが穏やかに微笑んだ。


「ルドルフ殿下……。謝らなければいけないのは、むしろ私の方です。政治的な理由とはいえ、平民の女と婚約させられたのは、さぞお嫌だったでしょう……」


「リリア!? 何を言っているの……!?」


「ジゼル、ここは彼女に任せよう」


 フェイランが私の肩を優しく抱き寄せ、静かに首を振る。

 納得はいかないものの、リリアの澄み切った瞳と横顔に圧倒され、私は言葉を飲み込んだ。


「色々と辛いこともありましたが、授かった光の力はこれからも国のために捧げ続けます。ですからどうか……ルドルフ殿下。これからはご自身のお気持ちを大切にお生きください」


 自分の名誉を傷つけ、道具扱いしてきた相手にすら慈悲の光を向ける姿勢。

 私は感極まった眼差しでリリアを見つめた。


「て、天使……! 天使の生まれ変わりがリリアなのか、リリアこそが地上に舞い降りた真の天使なのか……もう私には分からないわ……!」


「ジゼルの言っている意味もよく分からないけれどね……」


 私が感動の涙を浮かべていると、立ち上がったルドルフ殿下がぽつりとつぶやいた。


「……節穴だったのは、私の方だったのかもしれんな」


 彼は寂しげに自嘲すると、きびすを返してリリアに背を向けた。


「リリア、名誉を傷つけてしまった君の立場。今後の生活は、私が責任を持って対処する。……本当に、すまなかった」


 あのプライドの塊だった男が、心からの謝罪と誠意を口にした。

 私が驚いて目を見開いていると、ルドルフ殿下はチラリと横目でこちらに視線を向ける。


「ジゼル。お前を気に入ったというのは本当だ。お前のような女がそばにいれば、退屈とは無縁の人生になりそうだからな」


「はあ……それはどうも」


「だが……お前の横にいる男から奪い取るのは、少々骨が折れそうだ」


 ルドルフ殿下がフェイランへと視線を移す。

 その挑発的な眼差しを受け止めたフェイランは、冷ややかな美笑を浮かべた。


「ジゼルが魅力的だという点には同意するけれどね。……これ以上彼女にちょっかいかけるなら、次は容赦しないよ」


「……ふっ。ジゼル、実に厄介な男に惚れられているな。……私を含めて、だが」


「フェイランはあなたと違って、どこまでも優しくて頼りがいがあるの! 一緒にしないでください!」


「今はそう思っておくがいい。……また会おう」


 制服の裾をなびかせ、ルドルフ殿下は自然と人垣が割れる中を、堂々と立ち去っていった。


「さて、これで一件落着かな」


「そうね……。まったく、最初から最後まで嵐のような男だったわ」


「まあ、もう強硬手段には出てこないだろうさ。……あいつの存在自体は不快だったけれど、ジゼルが俺のことを『優しくて頼りがいがある』と思ってくれていると知れたのは、大きな収穫だったな」


「そ、それは……昔からずっと思っていたことよ! フェイラン以上に頼りになる人なんて、世界中どこを探したっていないわ」


「はは、嬉しいな。……ジゼル、これからもずっと俺のそばにいてね」


 フェイランは至近距離まで顔を寄せ、どこまでも甘やかに微笑む。

 私は熱を帯びた彼の紅玉の瞳に耐えきれなくなり、真っ赤になった顔を誤魔化すように目を泳がせた。



(もしあいつが指先一つでも君に触れていたら、あの程度ですまさなかったけれどね)


(この先、君に触れようとする不届き者の手は、全部俺が斬り落としてあげる)


(誰かが君を俺から奪おうとするのなら……その時は、この世界ごと滅ぼしてしまおう)



「ん? フェイラン、何か言ったかしら?」


「……ううん、何も言っていないよ。さあ、帰ろうか」


 フェイランが私に向けて、そっと手を差し出す。

 その包み込むような温もりに身を委ねながら、私たちは並んで歩み始めた。


 この後、新たな攻略対象キャラが、私とフェイランの仲を、大きく揺るがすことになるとは想像すらせずに。

ここまでご愛読ありがとうございます。


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