14話 王太子同士の決闘、圧倒的な決着
木剣が軋むほどの激突。
交錯した太刀筋が一瞬の静寂を生み、演習場が緊張感に包み込まれる。
「……!」
ルドルフ殿下が大きく飛び退き、フェイランとの距離を取った。
素早く刃を構え直すものの、その表情には隠しきれない焦燥が浮かんでいる。
「ルドルフ殿下も、ようやく分かったみたいね。フェイランの本当の実力を……」
普段のフェイランは隙だらけに見えるが、それは真の実力を覆い隠すためのカモフラージュに過ぎない。
だからこそ、実際に剣を交えるまでルドルフ殿下も気づけなかったのだろう。
「ほら、ルドルフ殿下。行くよ」
フェイランが優雅ですらある足取りで、一気に肉薄する。
「…………っ!」
ルドルフ殿下は迫りくる刃を間一髪でかわし、いなしながら応戦する。
「す、すごい……! 剣さばきが早すぎて見えないです」
「……互角の勝負に見えるかしら?」
「え? はい、とても拮抗しているように見えます」
「それがフェイランの狙いよ。一見すると実力が同じように見せて、ルドルフ殿下の立場を傷つけないよう立ち回っているの」
一般の生徒たちには、自国の王子が隣国の王子と対等に渡り合っているように映るだろう。
けれど、真の実力者が見ればフェイランが何枚も上手なのは一目瞭然だ。
まさに手のひらの上で転がしているような戦いぶりだった。
「実際に戦っているルドルフ殿下本人は、プライドをぐちゃぐちゃにされているでしょうね。でも、取り乱さずに冷静さを保っているのはさすがだわ」
「私……そう言われても全然わかりません……。フェイラン様は、本当にお強いのですね」
「ええ。私も彼には一度も勝てたことがないもの。……それに、昔隣国で手合わせた頃より何十倍も強くなっている。剣術だけなら、世界最高峰かもしれない……」
ふと、脳裏に前世の記憶。
ゲームの知識がよぎった。
世界を滅ぼす最恐のラスボス『災厄の王』。
彼はそれが自分なのだと言っていた。
もちろん、私が隣にいる限り彼を災厄の王になんてさせない。
けれど、もし万が一、それを防ぎきれなかったとしたら――。
「……ジゼル様?」
「あ、ごめんなさい。少し考え事をしてしまったわ。……そろそろ決着がつきそうね」
疲労から生じた、ほんのわずかな隙。
それを見逃さなかったフェイランが、踏み込むと同時に一閃を放つ。
ルドルフ殿下の木剣が跳ね飛ばされ、高く宙を舞った。
「はい、終わり。思ったよりは粘ったね、ルドルフ殿下」
「っく……!」
喉元に切っ先を突きつけながら、フェイランが意地悪く唇を吊り上げた。
「そ、そこまで! 勝者……フェイラン様!」
演習場を埋め尽くした生徒たちが、呆然とその光景を見つめている。
やがて、いたる所で静かなざわめきが湧き上がった。
「すごい戦いだったな……!」
「負けてしまったけれど、ルドルフ殿下もさすがの腕前だ!」
フェイランの狙い通り、大半の生徒は白熱した名勝負として興奮気味に語り合っている。
けれど、一部の実力者たちは、二人の圧倒的な実力差を悟ったように苦々しい顔を浮かべていた。
「さあ、リリア。行きましょうか」
「は、はい!」
リリアの手を引き、私は演習場の中央で木剣を収めるフェイランのもとへ駆け寄った。
「フェイラン、お疲れ様。怪我は……聞くだけ野暮だったわね」
「もちろんさ。かすり傷くらい受けたほうが盛り上がるかと思ったけれど、彼にそんな余裕はなさそうだったからね」
フェイランが視線を向けた先では、ルドルフ殿下が地面に膝をついたまま目を伏していた。
その顔に浮かんでいるのは屈辱か、あるいは実力差への絶望か。
無表情のまま、ただ地面を見つめている。
「魔法を使ってくれなかったのは残念だったな。……使ってくれれば、こちらもそれ相応の反撃ができたのに」
「物騒なことを言わないの。……さて、それじゃあ始めましょうか」
「そうだね。ジゼル、さっき言っていたご褒美をもらおうか」
「そ、そっちじゃないわよ! この決闘の本来の目的を忘れたの!?」
「冗談だよ。リリア、ルドルフ殿下の前に行きな」
「え、私ですか……?」
リリアが戸惑ったように自分を指さす。
そう、私がこの決闘を仕掛けた最大の目的。
それは、ルドルフ殿下からリリアへ謝罪をさせることだった。
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