13話 決闘前の煽りあい
翌日の放課後、屋外演習場。
昨日の出来事はあっという間に学園中の噂となり、観覧席は溢れんばかりのギャラリーで埋め尽くされていた。
「人がこんなに……。私とジゼル様を見ている方も多いです……」
「私たちが決闘の原因だものね。リリア、無理だと思うけれど、あまり気にしないでね」
「私は大丈夫です! むしろ、私の至らなさのせいでジゼル様とフェイラン様を巻き込んでしまい、申し訳なくて……」
「それこそ気にしないで! あなたはこの先、幸せになることだけを考えていればいいのよ」
貴重な光属性持ちとはいえ、王太子に婚約破棄されたとなると、平民である彼女の立場はなかなか厳しいだろう。
時間はあまりないけれど、いずれ他の攻略対象に引き合わせてあげた方がいいかもしれない。
私がリリアの未来を考えていると、軽快な足音が近づいてきた。
「ジゼル、最前列の席を確保しておいたよ。君が応援してくれるなら、俺もやる気が出るな」
「……大丈夫? これほど注目されている中で戦うのは、いくらあなたでも緊張しない?」
「人前で剣を振るうのには慣れているから問題ないさ。むしろ、公衆の面前であの男を叩きのめせる機会ができて心躍っているくらいだよ」
視線を落とすと、彼の腰には木剣が吊り下げられていた。
決闘は真剣で行うことも多いため、少しだけ胸を撫で下ろす。
「……フェイラン、ほどほどにしてね?」
「分かっているさ。……でも、そうだな。俺が勝ったら、君からご褒美でももらおうかな」
「ご褒美だなんて子どもみたい。何が欲しいの? 私にあげられるものなら何でも……」
「……君の口づけ」
フェイランは自らの唇に指を当て、悪戯っぽく微笑んだ。
一瞬何を言われたのか理解できず、ぽかんと口を開けてしまう。
「ふ、え!?」
意味を悟った瞬間、体の芯から熱が吹き上がった。
「はは、これで気合が入ったよ」
「ちょ、フェイラン、本気なの!?」
「どうだろうね? さて……ルドルフ殿下のお出ましだ」
紺色の髪をなびかせながら、フェイランが演習場の入り口を振り返る。
そこには、シルバーブロンドを後ろで結ったルドルフ殿下が悠々と歩み寄ってきていた。
「それじゃあ行ってくるよ。ジゼル、成長した俺を見ていてね」
手をひらひらと振りながら、フェイランは演習場の中央へ進んでいく。
「やあ、ルドルフ殿下。逃げずにちゃんと来てくれて嬉しいよ」
「ぬかせ。お前の方こそ、今すぐ帰れば見逃してやるが?」
「優しいねルドルフ殿下。君こそ、せいぜい恥をかかない程度の戦いをしてね?」
「ずいぶんな自信だな。その慢心に足元をすくわれないよう気をつけることだ」
「ご助言どうも。……魔法禁止のルールらしいけれど、いざとなったら君は使ってもいいよ。それくらいのハンデがあった方が、観客も楽しめるだろう?」
刃を交える前から、両者の間には恐ろしいほどの敵意が渦巻いている。
決闘の立会人を務める生徒までもが、冷や汗を流して震え上がっていた。
「あの、ジゼル様……」
「ん? どうしたの、リリア?」
「ルドルフ殿下は、この国で一番の剣術と魔法の才能をお持ちだと聞いています。フェイラン様は大丈夫でしょうか……?」
「そうね……。確かに、ルドルフ殿下は強い」
ルドルフ殿下は、ゲーム内でもステータス値が高い強キャラだった。
血のにじむような修練を重ねて強くなった私から見ても、彼が相当な手練れであることは分かる。
並の生徒では、彼と戦っても勝てないだろう。
「でも、心配いらないわ」
立会人の生徒が汗ばんだ手を高く振り上げる。
「フェイランは……私よりも、この場の誰よりも強いもの」
手が勢いよく振り下ろされた、その瞬間。
――ガン!
激しい衝撃音が、演習場全体に響き渡った。




