第28話◇デートの日になりました
ウィル様と約束していたデートの当日がやってきた。
マルタの頑張りもあって、少しおしゃれに気合いが入り過ぎてしまったかもしれない。
何しろ、これまでは自分の意志で「男性とのデート」らしく、きちんと身なりを整えたことはなかったのだ。
こんなふうに迎えに来て頂くのも初めてで、馬車が到着したと聞いた瞬間から、胸が痛むほどにドキドキと鳴っていた。
けれど、わたくしの姿を認めた瞬間、ウィル様がとても穏やかに微笑まれたため、早速「頑張ってよかった」と胸を撫で下ろすこととなった。
「ドレスは、瞳の色合いと合わせて……髪型も少し変えたのですね。それも似合っています、アメリア」
街歩き用のドレスは青緑の落ち着いた色合いにした。
髪は後ろでゆるく一つ結びをしてドレスと同じ色のリボンで結んでいる。
それに加えて、帽子をかぶって。
「ウィル様も、素敵、です」
わたくしもきちんと言葉を返したくて、けれども自然と頬が熱っぽくなってしまう。
白のシャツにクラバット、ベストとコートは濃紺に銀で刺繡が入っている。
それほど華美な刺繍ではなくシンプルなものだったけれど、さすがに公爵家、とても素晴らしい仕立てだった。
騎士の制服も顔合わせの時の衣装も、それぞれ素敵だったけれど、この服装も似合っていらして素敵だわ……。
「気に入って頂けたならよかったです」
ただでさえ眼福なのに、さらに微笑んだりされるものだから、わたくしは思わずソワソワしてしまう。
「まずは図書館に行きましょう」
堅実なウィル様の提案に、わたくしは大きく頷いた。
後に控えるデートに集中するために、そういう用事は先に済ませておきたいわよね!!ときめきで頭がトロトロになっちゃって、全く気が回らなくなっちゃうわ……!!
エスコートされて馬車に乗り込んで。わたくしたちは王立図書館へ向かう。
例の「アービテル」について調べるためだ。
「ウィル様は気になるご本はあるのですか?」
「そうですね。好んで読むのは主に剣術や魔法関連でしょうか。あとは戦記なども。アメリアは?」
「わたくしは、薔薇中心に植物関係ばかりですわね」
「それでは、少しの間、別行動になりますね」
王立図書館はとても広いから、きっと植物関連の棚はウィル様が好む本の棚から離れている。
「それぞれ目当ての本を探して、貸出しの手続きを終えたら、ロビー席で落ち合いましょうか」
「はい」
到着後、少しの時間だけど手を振って別れて、わたくしたちはそれぞれの目当ての棚に向かった。
警備兵が配置されているし、人の出入りもきっちり管理されているため、ここは町中に比べれば安全だ。
こう考えた時、「その安全の証」のような方のお姿が、この視界に入ってきた。
「あら。あの方は……絵姿で拝見したことがあるわ!!」
この国で二番目に尊いとされる女性がそこにいた。
ちなみに、一番は王妃様だ。
その方の名は、「イリス・フロレンティナ・ストレリチア」様……!!
ストレリチア公爵家令嬢、そして近いうちに王太子妃になられる方。
国立魔法学園に通う学生の身ということで、まだアルウィン王太子殿下とは婚約中。
卒業を待ってから正式に王家に入られると聞いている。
大量の辞典が積んであるわね……お勉強中かしら。
淡い青みのピンクの花色が似合いそうな、とても可愛らしい方だわ……!!
私より年下でいらっしゃるけれど、とても気品がある所作。
精霊姫と呼ばれていらっしゃるのも納得ね。
ただ、見た目が美しいからということだけじゃなく、イリス様は本当に精霊――それも、精霊女王の血を引いていらっしゃる方だという。
我が国・アストラル王国の建国伝説に出てくる初代の国王である、英雄王・アストル様の物語。
人族のアストルが精霊や竜など様々な種族の協力を得て敵を打ち滅ぼし建国、王となる。
その過程で、アストルは小鳥の姿として顕現した精霊女王と出会い、やがて恋をする。
もーう、そのお二人の出会いが、歌劇になるほどにロマンチックなのよ!
人に興味を持たず恋を知らなかった精霊女王が、美しく勇猛な人族のアストルと交流していくうちに、初めて恋愛感情を抱くというね……!!
で、その英雄王様と精霊女王様の子孫こそが、あのイリス様なのだ。
そういうわけなので、この国では精霊はいるものと認識されているし、たまに遭遇情報が新聞に掲載される。
ただし、高純度の魔素成分であるマナで構成されている精霊という存在は、常時目に見える形で顕現しているわけでもないようで、そして先天的にマナを感じられる者というのも全国民の中で数パーセントということらしいので、わたくしも実際に見たことはまだない。
そんな大多数の国民が唯一、その存在を感じられる精霊族の方こそがストレリチア公爵家の方、というわけだ。
ふと気が付くと、イリス様の存在に気が付いたおじい様が手を組んで「はわぁぁぁぁ、このたびの精霊姫様との遭遇、女神様に感謝いたします……っ」などと唱えて拝んでいた。
なので、わたくしも同じように拝んでおく。
最高位貴族たる公爵家、その中でも最も格式が高い家門のお姫様で未来の王妃様、当然拝みたくもなるわよね……!!
いつかうちの薔薇を買って頂けないかしら、なんて思いながら、わたくしは植物の本が集められた一角に向かった。




