第21話◇でしたら、品評会でルーカスを倒してみせます
「ゆ、優勝!?しかも、秋……!?一か月後の品評会で、ですか!?」
わたくしは驚愕のあまり聞き返してしまう。
「春」を「秋」と言い間違えてしまったのだろうか?と思って。
けれども、クラリッサ様はきっぱりと言い切った。
「まだ申請がギリギリ間に合うでしょう?」
「間に合いは、しますが……」
答えている間、ツーッと、冷たい汗が背中を流れていくような気配がしていた。
元々、ルーカスに盗まれたあの新品種で「春の品評会」に出るはずだったのだ。
そのため、もしルーカスから苗を取り戻せない場合は他の品種を出すつもりでいた。
当然、「春」に。
けれど。
今、クラリッサ様は「秋」と、「一か月後」と、確かにおっしゃった。
「一か月後に王妃様の前に自信を持って出せる」新品種が、あったかしら……。
「ちなみに、審査委員会はルーカス・オルコットの秋の品評会での申請を既に受理しているそうよ」
断るべきか、と一瞬考えてしまったわたくしの言葉を奪うように、さらに新たな情報をクラリッサ様は出してくる。
「な……っ!!」
「何だと……!?」
わたくしだけでなく、ウィル様も怒りの声を上げていた。
まさか、クラリッサ様の口から、あの男の名を聞くとは思わなかったんだけど!?
しかも、もうルーカスは申請済み!?
やられた……!!
わたくしの薔薇を出すつもりなんだわ!!
秋の品評会で最速で正式な権利者として認められる、おそらくルーカスはそれを狙っているのね!?
心臓がドクドクと大きな音を立てている。
とても恐ろしい状況だった。
「このままだと、あなたはあの花を完全に奪われてしまうばかりか、逆に訴えられてしまうわね。あらあら、お店どころじゃなくなりそうよ?」
わざと挑発しようとしている口ぶりのクラリッサ様は、少し意地悪な微笑みを浮かべている。
どうやら、わたくしとルーカスが揉めている理由を、もうすっかりご存じみたいだ。
「何故それを知っている?貴女はルーカスの手の者か?」
警戒したウィル様が言葉を強くして凄む。
「ふふ。どうかしら。疑うのなら、それはそれで構わないわ」
まるであしらうようにウィル様の強い睨みをかわして、わたくしの両目を見つめてくる、クラリッサ様。
「あなたはマクファーソン家の理念を受け継いでいく者の一人だと、先ほどおっしゃったわね?嘘だったのかしら?」
「……いいえ。決して、噓ではありません」
両手を握りしめて、わたくしも彼女を強く見つめ返す。
そんなわたくしを見つめるクラリッサ様の瞳は、まるでこちらの弱さも甘えも、全て見透かしているようで。
「潔白を証明したいのなら、あなたはその花を、あなた自身が生み出したものだと、生み出す能力があるのだと、この世の中に証明しなくてはならないわ。あなたの全力をもって」
静かに語るその言葉には、威厳がある。
そして、わたくしも内心で、それを正しいと感じている。
「それができないのなら、独立して自分のお店を持つことなどできないんじゃないかしら。たとえ他者の力でオルコットに制裁を加え、窃盗や詐欺の罪を暴いて裁けたとしても」
こう口走る時、クラリッサ様は横目でウィル様を暗に示した。
「早速、彼に泣きついてみるかしら?」とでもいうように。
ウィル様とアルウィン王太子殿下が、いつかルーカスを成敗してくれる。
それまでただ待ち続ける、という「どこまでも貴族の令嬢らしいやり方」も、ある……。
けれども、わたくしは悪役令嬢と言われた女。
そういう可愛らしい性格の令嬢じゃない。
じっとしていられない。
そして、クラリッサ様も、かつて男性の中に混じって伯爵家の当主をされていた方。
つまり、それができない、挑もうともしない「普通の令嬢ちゃん」には、この屋敷を譲る気は毛頭ない。
自らの力を示して奪い取ってみろ、ということなのね……。
この言葉で、レジーナがかつて「私のお祖母様はとても厳しくて怖い人なのよ」と言っていた、その意味が身をもって分かってしまった。
「どうする?諦める?」
こっちはそれでもいいのよ?と言いたげな口調は、やっぱり挑発に満ちている。
ちゃんと理解して。
それに乗る。
「諦めません。わたくし、秋の品評会に出ます。勝って、またこちらに伺います」
「アメリア!?」
たまらず、といった感じでウィル様が呼びかけてくるけれど、ここまで煽られては引けない。
だって、わたくし、この屋敷とあの薔薇が欲しい。
品評会に出て優勝したい。
マイスター認定も受けたい。
そして、夢のお店を作るのよ。
未来を、この勝負に賭けてみたい。
そしてそれは、全て自分自身の力で達成したい……!!
「うふふ。いいお返事ね」
はっきりと、さも楽しそうかつ満足気に、クラリッサ様は声を立てて笑っていた。
けれども、しっかりと釘を刺すことも忘れない。
「ご自分のお父様が審査に加わっているからって、簡単に勝てると思ってはいけませんよ。お優しい方だけれど、薔薇に関してはとても厳しい方だもの」
確かに、お父様はここ数年、「ローズ」の名を持つ貴族当主かつ著名な育種家の一人として、審査員席に座っている。
「娘ですし、知っておりますわ。それに、審査員は複数。父だけじゃありませんので。それでは、本日は失礼いたします」
わたくしは丁寧に礼をして、クラリッサ様に背を向けた。
「ええ。楽しみにしているわ」
背中に投げかけられた声には振り向かず、慌てることもせず、しっかりと気を保つ。
ただ、美しい薔薇たちに囲まれた小道をゆっくりと抜けながら、「またここに来たいわね」と強く心に誓っていた。
この賭けの勝者として。




